始まった闇



「さっき、連絡が入った。」
「・・・・・・・・任務ですか?」

「そうだ。君の初任務になるわけだな。」
「・・・・・招集かける・・・・ん・・・ですか?」
「それは通信の仕事だ。それとも、招集をかけてほしいかね。この状態で?」
「・・・・・・・・・・」




「集まったな。では、作戦を説明する。」

ヴェサリウスの艦内、紅い軍服を纏った少年達が白い軍服を纏う上司の声に耳を傾ける。
スクリーンの映像を頭に叩き込み、渡された資料を見ながら情報処理をしていく。
さすがエリート隊を呼ばれるだけにその速さは尋常ではない。
同じコーディネーターでも差はついてしまうものなのだ。
彼らは其の点でまさにエリートだった。

「流れをもう一度確認して欲しい。

ここから侵入する。構造をよく頭に入れておくことだ__といっても君たちが覚えるのに苦労するほど複雑な構造ではないがな。」

そう言ってクルーゼはぐるりと見渡した。各々の自信のある顔つきをみて頷く。
そしてまた、スクリーンに目を向けて説明を続けた。

「ここで3・3・1に別れる。役割は見たとおりだ。
ラスティとキラ、アスランの3人とニコル、イザーク、ディアッカの3人は各々格納庫に行ってモビルスーツを奪う。
キラはその間、足止めも兼ねてあそこのデータを取って来い。
そして二人のどちらかのモビルスーツに同乗し帰ってくること。
ミゲルはサポートに回る。」

それぞれの顔を見て確認を促す。
ミゲルが少々不満そうなのは自分だけサポート回されたにからだろう。しかし、それはデータを検討した上で出したものだ。実力が届かなかっただけ。
文句は言えない。

「あちらが動いている情報は今のところわかっていないが、あちらも馬鹿ではない。
こちらに知られたとわかったらすぐさまその新型モビルスーツを運び出そうとするだろう。
よって警備が厳重になっている可能性は否定できない。目のつかないところで厳重になっているかもしれん。

今回の任務は不確定な情報が多いために君たちにとっては動きにくいものとなる。
また、予想外のアクシデントもあるかもしれない。そこは冷静に処理したまえ、君たちは赤という色を纏っているという自覚を改めて持って欲しい。

モビルスーツは全部で5台、すべて奪ってきたまえ。
では、後は私の指示を待て。以上、解散」

クルーゼは隊員の表情をちらりと見てから、隊員には分からぬように口の端を少し上げて部屋を出て行った。

「へえ〜思ったよりは狭いな。」
「そりゃそうだろ。あんまりでかくしたらそれこそ怪しいと表立って言ってる様なもんだぜ?」
「でも、それなりの大きさがなきゃ作れないだろ。いくら極秘といっても。ここ、地下もあまり広くないし。」

もらった図面を指してラスティとミゲルは話し出す。それを耳で流してニコルは顔をしかめて言った。

「ここって中立国って名目だったはずですけど・・・・所詮はこんなものなんですね。」

「はっ大方焦った地球軍が圧力かけ始めたんだろ。」
「ふん。だとしても早まった判断だ。ヘリオポリスのやつらも先を見る眼がないな。」
「あはははは!あいつらにそんなこと期待する方が無理だぜ?しかも厄介ごとまで頼まれてるようじゃ先は短いに決まっているさ。」
「くっそれもそうだな。」

自信満々のディアッカとイザークである。ヘリオポリスの重役がナチュラルだということに言を発しているのだということは明白だ。

「キラ、ヘリオポリスは・・・・・」
「うん・・・・・」
「お前は今回外れた方が・・・」
「アスラン、軍に一度入ったからには任務をまっとうすることは絶対だよ。軍人は命令をそう安易に断われるものじゃない。

それに、今回は破壊じゃなくて奪取だから被害は少ないと思うし。」

キラはアスランを落ち着かせるように言う。しかし、アスランはキラの人を傷つけることを嫌う性質を心配していた。知人ならなおさらだ。

「しかし・・・・・」
「アスランは僕を甘やかしすぎ。」
「・・・・・そうか?」
「うん。ま、それが僕の方としても嬉しいことは確かだけど・・・・・さ。」
「・・・・・・・・・俺がいつキラを甘やかしてたっけ?」
「・・・・・・別にいいけどね・・・・・・・」

真剣に悩むようなアスランにキラは脱力してしまう。

(アスランって頭いいけどなんか感覚はどっかずれているよなぁ・・・・・鈍いというか・・・)

「僕は部屋に戻るけどアスランはどうする?」
「ああ、そうだな・・・・キラ、そう言えばトリィの調子がおかしいとかいってなかったか?」
「あっそうだった。アスラン見てくれる?」
「どこが変なんだ?」

二人はそう言いながら部屋を出て行く。
その雰囲気に入れないままに注目していた残りの隊員は、会話に耳をすましながら二人を見送った。

「・・・・・・アスランとキラはキラの部屋にいくのか・・・・」
「ああ、二人の関係を確かめるためにはいい機会だな。」

そう言ってにやりと笑うラスティとミゲル、そしてそれにディアッカが加わっている。

「・・・・覗き見するつもりですか?」

ニコルがそれに呆れたように、しかし興味は尽きない様子で諌めるというよりも質問をする。

「・・・・・くだらないぞ、貴様ら」

イザークが冷たく言い放つ。



「とかなんとか言ってしっかりきてんじゃん。しかもいい場所とってるし。」

キラとアスランを抜かした隊員五人がキラの部屋の前にへばりついている。
全員ドアに耳をくっつけている。周りから見ればどうみても怪しい集団だが、幸運なことにキラの前の廊下は人通りが少なく、また今はクルー達が作戦のタイミングなどを打ち合わせしているのでここを通る者はおそらくいないだろう。

「し〜〜〜中の声が聞こえないだろ。」

ディアッカがイザークをちゃかした声にミゲルが注意する。

「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・?」
「・・・・・・・・・聞こえなくないか?」

ぼそぼそと話し込んでいると、廊下の角から近づく足音が聞こえてきた。

「キラ・・・・?なんかさっきから変だぞ?妙にぼーとしてるし・・・・本当に大丈夫なのか?」

てっきり中にいると思っていた人物の声にディアッカ達は顔を見合わせた。そして、キラのドアの前を離れてあちらからきたとき見えないように隠れる。

「・・・・・・アスラン」
「キラ?どうしたんだ?」
「ううん・・・・なんでも・・・ないよ」

部屋をでた途端に少々かげりを帯びた表情になったキラをアスランが見逃すはずもない。なのに、そのことをひたすら隠そうとするキラにアスランはつい声を荒げる。

「なんでもなくないだろ?!キラは!俺のことはなんでも聞くくせに自分のこといわないんだから!」
「そんなの、アスランだって同じじゃないか。
いつも僕が追及に追及を重ねてやっと話すくせに。
自分のことよりも僕のことを心配する癖直らないの?
自分をもっと大事にしてよ、アスラン。」

「それはこっちのセリフだよ、キラ。
お前は本当無茶ばかりするんだから。心配しない方がおかしいよ。
お前はいつも俺のことを気遣ってばかりで自分のことにはずぼらなんだから。」

「・・・・・・・」
「・・・・・・・」

お互いにお互いを同じ理由で責めていることに気づく。

「・・・・・・とにかく、アスランはだめ!
自分のことだけに専念してよ。」
「なっ!キラこそお前入ったばかりなんだから人の心配よりも自分の心配しろよ!!」

他人からすれば呆れる言い争いは長々とキラの部屋の前まで続く。

「もう、アスランいい加減折れてよね。」
「それはお前の方だろ。」

いい加減に疲れてきてキラは無理やりこの話を打ち切った。

「・・・・・はぁ、ところで何の話だっけ?」
「・・・・作戦で何か気にかかることがあるんだろう。・・・・例えば、場所とか」

アスランはキラが作戦の最中に具体的な場所を聞いたときその表情が強張ったのを知っていた。その目ざとさにキラはため息をひとつして、

「あそこはさ、僕の両親が勤めていた研究所なんだ。」
「キラの?!」
「そう。なんとなく因縁めいたものを感じちゃってね。」
「・・・・・もしかしてキラの学校もその近くに?」
「ないよ。僕は両親と離れて暮らしていたから研究所と学校はすごく遠い。」
「?何故離れて暮らしてたんだ?」

話していくたびにだんだんと暗くなっていくそのキラの表情にアスランは痛ましそうに目を細める。

「知らない。
母さんも父さんもすごく真剣な表情で言うから・・・理由聞いてもお前のためだとか言って詳しく教えてくれなかったし。
・・・・・・・・僕が邪魔なら、そう言ってくれれば良かったのにね・・・・」

「!!キラっ!!」

アスランは怒鳴ると同時にキラの頬を叩いた。
大きな音が廊下に響く。

「・・・・・本気でそう思っているのか?」

アスランの視線を逃れるようにキラは視線を下に向ける。唇はこれでもかというほどに噛みしめられ、眉間には深い皺を寄せたまま黙っている。

「キラ」

「・・・・・・だって、こんなのないじゃないか。
いきなり、遠くに離されて、愛しているからよ、なんてわけわかんない。

理由も知らされないまま、お前を守るためだなんてこと・・・納得なんて出来ない。
あまり連絡もしてこなかったし、学校の行事にも少ししか顔を出さないし・・・

僕は側にいて欲しかったのに。
遠いのに心なんかわからない。触れていないのに心を信じることなんて・・・・・・
僕は側に居てくれればそれで良かったのに。

その上、勝手に・・・・そう勝手に死んで!
僕はまだ何も聞いていないのに・・・・

僕は邪魔だった?
理由って何?
勝手に死んで・・・僕はどうすればいいんだよ?!
無責任にも程がある!!

僕はっ僕はっ・・・・・っっ!!」


言いたいことがある。
両親に尋ねたいことがある。
知りたいことがたくさんある。

でもそんな想いはちっぽけで、本当は側にいてくれればよかったのに。

上手く言葉もまとまらないまま、言葉に詰まる。

「キラ・・・・」
「僕は・・・・・・」

言葉にならない思いが溢れて仕方ない。
いつのまに流れていたのか、その涙をアスランが拭う。

「・・・・ごめん」
「なんで謝るの・・・?」
「つらいこと、言わせた。」
「・・・・・そうでもないよ。
ごめん、なんか感情高ぶって叫んだりして・・・もう僕はこのことに整理をつけたつもりだったけど・・・・」

まだ無理だったのかな・・・・そう言って無理に笑うキラにアスランは眉をひそめた。

「無理やり忘れようとすれば逆に思い出したときの反動が強い。
ゆっくりでいいんだよ。時が、癒してくれるから。

それにね、キラ、キラは愛されてたよ。本当に。邪魔なんかじゃなかったよ。
見てて本当に大切にされていることがわかる。

ご両親は本当にキラのこと好きだったよ?
理由はわからないけど、それはキラのためだったんだろう?
・・・・・それに納得できないから今回そのことも調べるつもりだったんだろ?

もし今回みつからなくても俺が一緒に探すから、キラ。
愛されてたって俺が証明するから・・・・」

慰めるようにキラの髪をすく。キラは目を閉じてその仕草にしばし身を預けた。
感情の奔流が鎮まるのを感じる。

「ねぇ、アスラン・・・・・」

キラが静かに言葉をいいかけたその瞬間、

「君達は何をやっているのだね?」

すぐそこの廊下の角から聞きなれた声が聞こえた。

「たっ隊長!!」

こちらも聞きなれた焦った声が聞こえた。しかし、姿勢を正すような気配はひとつではない。

「・・・・・5人もそろって何をしていたのだね?」
「え、いや・・・・」

キラとアスランはそこで顔を見合わせて、さっきの会話が聞かれていたことを知る。そして、気配を消してそこへと近づいて行った。

「何していたんだ?」

アスランは角できちんと敬礼している隊員5名に呆れた声をあげた。

「げっアスラン・・・・・キラ・・・・」

ラスティはやばいというように顔をしかめた。
その反応ですべてを悟ったクルーゼはしかし、そのことについては何も言わなかった。ただ微かに口の片端を上げた。

「今、少し動きが見られたのでな、君たちに招集をかけようとしていたところだ。ちょうど良かった。クルーゼ隊は全員そろっているようだな。」

クルーゼは場所を指定して、そのままあっけなく去っていった。
残された7人の間に気まずい雰囲気が流れる。最初に口を開いたのはキラだった。

「いつからいたの?」
「おそらく全部会話聞いていただろうな。そうじゃないか?」

キラの問いに畳み掛けるようにアスランも問う。

「・・・・・悪かったよ。そんな大切な話しているとは思わなかった。ただ、皆でキラの部屋に行こうと思ったら話し声が聞こえてさ・・・・・つい・・・・」

気まずそうに視線を下に泳がせてミゲルが言う。他の4人も居心地悪そうに視線を泳がせていた。ゆっくりと紡がれる言い訳はしかし、キラのあっさりとした一言で破られた。

「別にいいよ。」
「え・・・・」
「キラ・・・」

またお前は・・・とアスランが言おうとした言葉をキラは少し微笑んでさえぎる。

「ただ、みっともないところ、みせちゃったね。頼りないとか思われても仕方ないかもしれないけど・・・・任務はしっかりとこなすから安心してよ。」

ね?と微笑むから、肯かないわけにもいかない。しかし、アスランとそしてイザークはそんなキラを厳しく見詰めていた。
意外にも次に言葉を発したのはイザークだった。

「・・・・・・無理をするな。お前は何故いつもそうやって無理やり笑おうとするんだ?
俺たちは別に今のでお前が頼りないなどとは思っていない。ただ・・・・・」

そこまで言って、イザークは言いよどむ。後をついだのはディアッカだった。

「そうそう、ただ心配なんだよ。俺らも。頼りないとか戦力にならないとかよりもさ。」
「そうです!!キラはもう少し自分をだせばいいと思います。無理やり押し込めたりなんかしないで、もっと感情をだせば・・」
「ありがとう」

キラは次々と心配の声を上げる5人に言った。最後に隣にいたアスランにも。自然と湧き上がってきた笑みは抑えられようもなく、久々に引き出された笑いを表にだした。
そのそっと花が開いたような笑みに惹かれないわけもなく、しばし目を奪われた。

「行こう。隊長が待ってる。」
「・・・・・ああ」

キラは少しすくわれたような心地にくすぐったさを感じて集合場所へと向かった。



全員の顔を見渡すと、クルーゼは言い放った。

「作戦開始だ。」

                                 03・7.19



BACK← →NEXT

あとがき
いろいろ手直ししたいけど眠くて勘弁です。すいません。誤字脱字やら繋がってない文やらありそうです。すいません・・・・