白い闇
ときどき疼く、彼への激情
どうしようもなくて
それを取り除いてくれるなら、誰でも良かった
彼以外なら・・・・・誰でも・・・
「う・・・・んぅ・・・・」
照明を絞って薄暗くした部屋の中で、蠢く
ベッドの軋む音、何かが打ちつける音、そして何よりも嬌声がそこで何を行っているのか物語っていた。
ベッドの上で絡み合う二人
一人は未完成の身体をもった少年。いま一人は完成された身体を持つ男だった。
「・・・ん・・・・っ」
苦しげに眉根を寄せる少年は、仰向けに寝た男に跨っている。
嬌声を上げないように我慢している少年に、男は下から一突きした。
喘ぎを上げて思わず上を仰ぐと、男にはその細い首、喉元があらわに見える。それは淡い光を受けてひどく扇情的だ。
男は何もせずに少年の動きをじっと見ている。
と、上を仰ぎ見ていた少年が男を見詰め返した。
普段仮面をつけているその顔は、今は何の障害もなく見て取れる。
暗くとも、美しい造作で、瞳は深い蒼であることはわかった。
見詰め返すと言うより睨むような少年の眼に、男は苦笑して言った。
「そんな目をしても誘うようにしか見えんぞ。」
「・・・・ぅくっ・・・もう、いい加減・・・」
「いい加減なんだ?」
わかっているくせに言わせようとする目の前の男が恨めしくて、言うまいと唇をかみ締めた。
その仕草が余計そそるのだとこの少年は知らないのだろうか。
唇を噛み切りそうなほど力を入れている。
「切れるぞ」
そう言って、そっと頬に手を当てる。
そのまま後頭部に手を滑らして、ぐいっと自分の顔に近づけた。
目を細くして見詰めあいながら、口付ける。
少年の紫電の瞳は潤んでいたが、睨む眼力は衰えていなかった。
同じだな・・・・あの時と・・・・
深い接吻を仕掛けながら、クルーゼの意識は少年___キラ・ヤマトのその瞳に会った頃に向かう。
いつからだろうか。彼のこちらをみる大きな瞳が気になった。
正確に言えば、その中に宿す感情に。
それはこちらを非難するような色で。
初対面なら、表面には出さないが、仮面を胡散臭そうに見たり、不思議そうに見たり、引くような笑顔を見せたりする隊員はいる。
だが、その彼の睨むようなその瞳は違う。
その理由にふと思い当たって、内心苦笑した。
もともと軍には女性が少なく、ヴェサリウス・ガモフではさらに少ない。
上官の夜伽相手には、総じて部下が指名のような形で命じられることが多かった。
恋愛ではなく、性欲の捌け口として。
もちろん、指名されたからといって絶対というわけでもない。
過去に断った者も少ないが存在する。どこをどう間違ったのか、あちらから寄ってくる場合もあった。
そうして、キラが入って最初に選んだのはアスラン・ザラ。別にお気に入りと言うわけでもなかったが、前のときに一番身体の相性が他のよりは良かったかな、と適当に決めただけだった。
そして翌日、キラはその目つきを向けたのだった。
キラがアスランに対して特別な感情をもっているというのは知っていた。
嫉妬____そう判断がついた。
だが、そうとも言い切れなかったのだった。
その瞳の強さに興味が湧いて、指名した夜。
ベッドに腰掛ける彼に問い掛けた。
「君が私を睨むのは、嫉妬なのかな?」
ゆっくりと見せつけるように、唇を笑みに形作った。
そうしてまだあどけなさの残る顔の線をなぞり、顎を自分の方に向くように固定した。
少年は少し目を見開いて、気まずそうに眼を逸らすと、
「・・・・・・違います。」
小さな声で否定した。
その答えにクルーゼは笑みを深くして、
「では、何故?その瞳で違うと言っても私は信じられんな。」
ゆっくりとベッドに押し倒し、上から覗き込むようにして顔を寄せた。
相手がため息をつく。
しばらく天井を見てから、クルーゼに視線を戻した。
「後で言おうと思ったのですが・・・・・・
貴方の指名された人に翌日の戦闘はきついんです。貴方も一応日時を気遣っているのもわかるのですが・・・・
貴方が思っている以上に身体に負担がかかります。
慣れない身体ではなおさら。
このままではいつか死傷者の原因になります。_____慣れる前に。」
キラの紫の瞳がきらりと光って、クルーゼは仮面の下で目を細めた。
「つまり、隊を乱して隊員を殺すのはやめろということかな?」
「そうです。だから、指名するなら、他の隊かもしくは・・・・・・僕に。」
クルーゼ隊は他の隊よりも出動が頻繁だ。
というよりはほぼクルーゼ隊しか出ないといっていい。
エリート軍団の実践力を高めようという魂胆もあるが、何より、あっちのガンダムに対応できるのもガンダムだけだからだ。よほどいい腕をしていなければ、あの性能のいいガンダムは捕えられない。
そもそも、ガンダム強奪作戦は隠密なのだから、人が多いわけは無い。脚付を逃したのは予定外のことだった。
今回、他の隊といえば、クルーゼ隊ともう2隊が乗り込んでいる形だ。
その2隊も戦闘用ではなく、後方支援、船の操縦士として乗り込んでいる。
それに加えて、キラは前線でも戦うが、後方支援にまわることも出来る。
どちらにいっても役に立つ。どうしても厳しいとき以外は逃げることも可能という訳だ。
それに対し、他の隊員は前線向きであることは確かだ。
エリート隊と名がつくにだからどちらの能力も優れているのは当たり前だが、後方支援に関しては目の前の少年には敵わない。
だが、後方支援向きというにはあまりにこの少年の戦闘能力は高すぎる。
努力と素質と稀有な何かがあわさった、奇跡のような実体。
「ふむ。じゃあ、君が私を満足させてくれるというわけかね?」
「・・・・・・デメリットだとわかっていて行うのは愚かだと言ったんです。」
純粋なくせに素直じゃない。
「要は君の愛するアスラン・ザラを死なせたくないということかな。」
突如、キラの顔が真っ赤に染まった。
その初々しい反応にクルーゼは苦笑してしまった。
笑うとしても、ここまであからさま反応されるとこっちまで恥ずかしくなっていくのだから不思議だ。
「・・ん・・何を・・・考えて・・るんです・・・?」
今しがた思い出したものより少し大人びた瞳が覗いていた。
呑みこみの速さはやはり若さゆえか
どんどん大人びていくのが手にとるようにわかる。
入隊のときにあった幼さも一年も立っていないのに、その少年が経験するには重すぎる前線の厳しさのせいか、幼さは消えつつある。
そのかわり、押さえ切れようも無い若さが滲み出ているのだった。
「さぁ・・・・何かな・・・・」
「どうせ・・・・指名の最初の夜でも思い出しているんでしょう。」
少年はときどき驚くほどの洞察力を見せる
といってもそれは半分は勘のようなものらしいが。
本人は目を見れば・・・
「目を見ればわかりますよ。」
・・・・・らしい。
確かに瞳は口よりも雄弁に語る。
「あのときの目と同じ色をしている。」
「そうか」
息が整ってきたらしいキラにクルーゼは再びキスをする。
「・・・・はっ・・・ぁ・・」
逃げようとする舌を絡ませて、口腔をも犯す。
キスをしながら、そろそろ限界だろうと見て、クルーゼは下から何度も突き上げる。
「あぁはっ・・・んんっ・・ぅん・・あっ・・・」
キスに気を取られていて、突然の突き上げにキラの身体は敏感に反応する。
快楽の声はクルーゼの唇に阻まれ、まだ一度もいっていない身体の熱は出口を彷徨う。
やっと離された口からは文句の言葉を出そうとしても、下からの激しい突きで嬌声しか出ない。
「はっあ・・・やぅ・・・・・・・ずる・・・あ!!」
いままでわざとはずしていたポイントをクルーゼが責め始める。
「あっ・・・あっ・・んぁあっ・・」
もう何もかも、思考さえも快楽の波に流されて頭が真っ白になる。
いつのまにかキラは自ら貪るように腰を振っていた。
衝撃は最後に向けてますます激しくなり、それにあわせてキラの声もあがっていく。
「____っんああぁ!!」
「・・・・っ・・」
果てたと思った瞬間、内部に相手も果てた証の熱を感じる。
キラの脳裏には目の前にいる男ではない者が浮かび、白い闇に呑まれた。
「・・・・ラ・・・・ン」
キラが前のめりに崩れる。
それを優しく受けとめて、
「本当に・・・素直じゃないな。君は」
意識を飛ばしたキラを抱いて、シャワー室へと向かった。
BACK← →NEXT
あとがき
以前とかなり変えました。設定がかなり変わっていたので。
それにしても、あはは、互いに一度も相手の名前呼ばなかった。
しかもキラなんて別の名前言っちゃってるし。・・・・クルーゼの性格違う。難しい・・・・
クルキラ・・・・・なんてマイナー・・・・笑。