銀の闇
すらりと伸びた手足
物腰は柔らかく、そのせいか雰囲気も柔らかい
白いわけでも、黒いわけでもない中間色を持つ滑らかな肌
さらさらと零れる栗色の髪の毛
そして、何よりも、そのどこまでも澄んだ菫色の瞳に惹かれた。
「イザークさん、よろしくお願いします。」
差し出された手は男の癖に細く、つい意識してしまって握手をしたらすぐに手を離してしまった。
動揺を悟られたくなくて、
「『さん』はつけなくていい。」
思わず冷たく言い放っていた。
「イザーク、お前もしかしてあいつに惚れたのか?」
「あいつ?」
思い当たる節があったが、わざと聞き返した。
「キラ・ヤマト」
その名を聞いてイザークは眉をひそめた。
ディアッカは笑ってそれ以上言ってこない。
負けたのはイザークだった。
「なんでだ。」
「あいつにだけやたら不自然に冷たいから。」
さらりと言われて、そうだったかと思い起こす。
いつも意識してしまって突き放すから、他人から見るとそうなるかもしれない。
「わっかりやすいよな。あの態度。」
「うるさい」
「でも、ニコルはどうだかわかんねーけどアスランも気づいてねーし。ミゲルも。
キラにいたっては皆無だな。虚しいねぇ。」
「貴様・・・・殺して欲しいのか」
さっきからずけずけとものを言う___しかも的確に___ディアッカにイザークは怒りを隠せない。
いかにもからかうのを楽しんでいますという笑いも気に障る。
「冗談。でも、やっぱそうだったのか。まぁ、キラ綺麗だしな。一瞬女かと思ったくらい。第一印象もそう悪くなかったし。」
「・・・・・・・・カマかけたな・・・」
「いや〜十中八九わかってたけど、やっぱ本人の口から聞きたいし。」
それなりにつきあってきたせいか、ディアッカは氷のごとく怒っているイザークを見ても動じない。
それどころか楽しんでいる風だ。まだ絶頂には達していない怒りがそれを見て冷める。
なんだか馬鹿らしくなったのだ。
「で?襲ったりしないのか?」
率直なディアッカのとんでもない問いにイザークもとんでもない返答をした。
「馬鹿か貴様。襲うチャンスが何度あったと思う。」
「・・・・・・五回もないな・・・」
あるときはアスランと話し、あるときはクルーゼと・・・その他は翌日が戦闘だったり、スケジュールが合わなかったりであった。
「あいつ隊長のお気に入りだからな〜」
「・・・・・・」
そうなのだ。初めの二回を除いて夜の指定はすべてキラになっている。
加えて、あの空気。お互いわかりきったような会話。
実はよくキラを見ているイザークには、いらだちしか与えないものだった。
(それに・・・あいつは・・・・・)
表情を険しくしたイザークに、ディアッカは触らぬ神に崇りなしとばかりに肩をすくめるだけだった。
そのとき、控え室のドアが開いた。
「イザーク、終わりました。」
ニコルの番がちょうどおわったらしい。
「わかった・・・・」
立ち上がって出て行こうとするイザークにディアッカが声をかける。
「がんばれよ〜」
「・・・・・・」
憮然としたおもむきで出て行くしかないイザークだった。
「・・・・・・誰もいないじゃないか」
イザークの言うとおり、そこには人っ子一人見当たらな・・・・・
「あ、イザーク」
いや、一人いた。
その人は無重力もあるが、本当に体重が無いようにふわりと舞い降りた。
「イザークなかなか来ないから、他の方をちょっとね。
じゃあ、やろうか」
「・・・・・・ああ」
「どうしたの、イザーク。気分悪い?」
「いや・・・」
見惚れていたのだと、どうして云えようか。
その仕草だけでも充分に惹かれるのに、目を合わせて笑いかけないで欲しい。
内心そう思っているのを気づかれないよう、イザークは目をそらした。
「さっさとやるぞ。俺も暇じゃないからな。」
動揺を悟られたくなくて冷たく言って、機体に足を進める。後ろにキラがついてくるのが気配でわかる。
「イザーク」
「何だ」
振り向かないまま、デュエルに進みつつ答える。
「イザーク」
「だから何・・・」
言葉の途中で無理やりキラがイザークの顔を自分の方に向けた。
イザークの銀がキラの紫とぶつかる。
そらすことなどできなかった。凄まじい引力を持ってそれはイザークを縛る。
「キ・・・ラ・・・?」
「イザークが僕のことを嫌いなのはわかるけど、話をするときくらいは目を合わせてくれてもいいんじゃない?それともそれも嫌なほど嫌いなの?」
少し咎めるような口調だったが、その瞳は澄み切っている。
好きなのだと云えたら、どんなに良いことか
だが・・・・・口から出たのはこんな言葉だった。
「お前が好きなのはアスランだろう。」
突拍子も無い、会話の繋がりさえない問いだった。否、確認だった。
だが、イザークにとっては重大なことで、怪しまれそうなくらい突然な問いだということにも言った後から気がついた。
「・・・・・・・なんでわかるのかな。そんなに僕ってわかりやすい行動している?」
動揺するかと思った表情は諦めに似たもので、正直イザークは戸惑った。
わかりやすいというよりも、キラの視線がアスランに向いているのがわかるほど、キラを意識して見ていた証拠なのだが。
「あのさ、アスランには・・・その、黙っていてくれない?色々とこじれるとやだから。
それに・・・・婚約者もいるし?」
「ああ・・・わかった。」
それ以外に何をいっていいかイザークはわからなかった。
少し視線がキラの横を泳いだ後に、小さな声で問い掛けた。
「・・・諦めるのか」
つい、口から出た言葉だった。
聞かれたキラの方は少し驚いたように目を見開いて、
「というより、側にいればいい感じ。」
「・・・・・・」
さらりととんでもないことを言い出したキラにイザークは何もいえない。
「あ、なんかそんな捨て身というわけじゃないから。独占欲もあれば、願望もあるから。
ただ、なんていうか、別にこのままでもいっかって。変にこじれるよりは。だから・・」
「・・・恐れているのか?」
拒絶されるのを__
その問いにキラは笑って何も言わなかった。
カタカタカタカタ・・・・・
キラがキーボードを打つ音だけが格納庫に響く。
その動作を見詰めながら、イザークは先ほどのキラとの会話を何度も反芻していた。
『側にいればいい感じ』
(それはどんな思いなんだろうな・・・・・)
欲望はあるといった。なのに、それを望まないという矛盾した考えにイザークは困惑を抑えきれない。
イザークは今こそ大人しくしているが、いつかキラをものにしようと思っていた。
それとは違う。時期を待っているわけでもない。思いが弱いわけでもない。
それでは・・・・
(ただ、わかるのはアスランがむかつくことだ。)
こんなにも、キラに愛されていることがイザークには妬ましかった。
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あとがき
・・・・・というかディアッカの性格フラガ属性?
なんか言葉づかい荒いし・・・いいのかなぁ・・・このごろイザークとともにディアッカも好きになり出した。