浮かぶ闇


ゆらゆらゆれるこのこころ
ふみとどまるところさえふたしかで
ひかりだけをたよりにここまできたんだよ




「アスラン・・・・・お母さんが亡くなったんだってね。」
「どうして・・・・ああ、死亡者情報が流れているからか・・・・」
「最初は信じられなかったけど・・・・」

(本当は知らされてはじめて知った。
あの事件と血のバレンタインは同時期にあったから。
正確に言えば、事件の直後に血のバレンタインは起こった。だから・・・・)

事件の報道を、情報を___見たくなかった、聞きたくなかった。
そこで認めてしまえばそれまでだと思ったから。
だから・・・・・・自分の部屋に篭ってうずくまりながら、ただ去るのを待っていた。
待っていればすべて無くなるのでは、と思った。
そして、何事もなかったかのように、皆戻ってくると思った。
無くなるのは目に付く情報だけで本当は何も変わらないと言うのに。
あのとき自分はすべての情報源を断ち切っていたから・・・・・君の凶報も知らなかった。

自分の覚悟を振り返る。
僕の都合で君を無視した・・・・
「キラはどうしてここへ?」
アスランは復讐のためにキラが軍に入るわけはないと信じている。
だから、きっかけは両親の死にあると思ってはいるが、根本的な理由は他にあると思っていた。
キラはその問いに、じっとアスランの眼を見て、それから、少し眼を斜め下方にずらして言った。
「・・・・・・戦争を終わらすために。僕独りでどうなるものでもないけれど・・・」


そして、君を守るために・・・


キラはあえて、アスランの父、パトリック・ザラの名は口にしない。
裏のある彼とアスランを関わらせたくないのだろう。
関わっているといえば、すでに血縁でつながってはいるが・・・・・

(彼は・・・危険だ。)

どこかで直感していた。
その直感が当たるかどうかは別として、危険の可能性には触れさせたくない。
それに、キラはしばしばこの感覚に頼って、ここまできた。
それは第六感というものでもなく、ただ、本能が感じるものなのかもしれない。が、それはしばしば当たり、キラの中で従うべき一つになっていた。

(彼は何かを始めようとしている・・・・・)

それが何なのか、今はわからないけれど、それにアスランを関わらせたくないと思う。
彼は他人を切り捨てることに容赦ない。それが、息子であっても、彼はそれを実行するのか?それはわからない。でも、いやな感触がする。

「ねぇ、アスランはどうしてここに居るの?」

どうして戦争なんてものに関わっているの?
母親が死んだから?
父親が国防委員長だったから?
自分にその能力があったから?
それとも、・・・・・・・戦争を終わらせたいから?

君は何故ここに来たの?
何故ここに居るの?

アスランはそれに困ったように眉根を下げて、
「キラと同じだよ。母が・・・・殺されて、僕も・・・・俺も戦わないと終わらないと、そう思った。」
「・・・・・そう」
強い色でそう言われれば承知せずにはいられないが、納得はしない。

(・・・・・殺された・・・・そうだね、君の母親は殺されたんだ。ナチュラルに・・・)

そう思うキラの表情は苦しげではあるが、憎しみはない。
そのキラの表情を読み取ってか、もともと聞きたかったのか、アスランは話題を変えた。
「キラは、どこに居たんだ?その、ここ二年間・・・・・月にいた?」
「ううん・・・・・ヘリオポリスにね。」
「ヘリオポリス・・・・中立国だね。
・・・・・何故、プラントにこなかったんだ?キラ?
何故、中立国なんかに!お前も後から来るって言ってたじゃないか!!」
途中から声を張り上げたアスランは言った後、予想外に高まった自分の感情を抑えるように息を深く吸った。
「どうして・・・・・・」

側にいて欲しかった。
それが自分の勝手なことだとは思う。
けれど、あの血のバレンタインのとき、その瞬間、一番居て欲しいと思ったのだ。

たった一人の親友。
他にも友と呼べるものはいたけれど、親友はキラただ一人だった。
そばに居て、大丈夫だと言って欲しかった。
いつもの柔らかなその優しい声で・・・・・
慰めて欲しかった。
意外に自分が甘ったれだと知る。
もしかしたら、甘えん坊と思っていたキラよりも・・・

それでも、甘えだと言われても、いて欲しかった。
だけど、いてはくれなかった。
お前は側にいなかった。
お前にとっては理不尽かもしれないが、何故いてくれない!!とお前に対して怒りを覚えたことさえ、あったよ。


そう、そんなとき彼女がいてくれた・・・・・


「親の都合。」
そう思い出していると、キラが先ほどの答えを出す。
そこで思い描いていた少女の像が消える。
「親?キラの両親って・・・・・確か・・・・」
「技術者だよ。」
「それで、どうして?」
「・・・・・・・呼ばれたんだろうね。」
「どこに?」
「さぁ?どこかの企業じゃない?」
「ヘリオポリスの?」
「もちろん」
そこで、思い当たる。
キラの両親はナチュラルであった。だから、もしかしたら、コーディネーターばかりのプラントに来たくなかったのではないかと。

(そして・・・・・・・彼らが亡くなったからきたのか?キラ・・・俺はそんなことも気がつかない。)

自分のことばかり、思っていた。
なんて薄情な自分。
キラに側にいないと憤りをぶつけときながら・・・・・
自分は何も、知らなかった。
そう、キラの両親が死んでしまったことさえ、知らなかった。

「キラ・・・・・・両親は・・・・・どうして?」
「・・・・・・裏切り者。」
ぎくりとした。その声の低さに。
キラは俯いていて、その表情は知れない。

「どうして、人に人を裁くことが許される?法を破ってもいない者を、どうして、裁けるというんだ?」

どうして?そんなのは僕が聞きたい。
どうして殺された?
どうして巻き込まれた?
彼らの側にいたから?
コーディネーターがナチュラルと仲良くしてしまったから?
僕が悪い?
僕が生まれてしまったから?
僕はいなければ・・・・・・・生まれなければ良かったの?

「どうして、どうして・・・・・」

僕はまだこんなにも引きずって、全然乗り越えられやしない。
乗り越えたつもりで、全然足りない。

「キラ・・・・」

アスランの辛そうな声。
だから、
「僕は、大丈夫だよ。アスラン。」
俯いた顔を上げて、真っ直ぐ眼を見つめて言った。

大丈夫。
君さえ側にいてくれれば、寄りかからなくとも強く生きていけるから。

「あ、そろそろ戻ろうか。イザークとか、きっと遅いって思ってるよ。」
今気づいたようにキラは声を上げ、会話を打ち切る。
言葉が思いつかなかったアスランは会話をそらされたと思いつつも、キラの気持ちを思いやって相槌を打つ。
「・・・・・・まぁな、無理やり時間つくったようなものだしな。」
二人の会話を聞いたメンバーが空気を察して、わざわざつくってくれた十分。
すでにその時間は過ぎている。
「あんまり遅いと、僕、入隊した途端にくびにされちゃうことになるよ。」
「ほら、早く」そう言ってキラは何事も無かったかのように明るい空気を纏って通路に向かう。

(キラ、お前は何を抱えている?変わらないと思っていたのに、今、お前の考えていることが分からない。)


“僕の両親はナチュラルに殺された。”


一体誰に、何のために・・・・

“それで充分だろう?”

何かが変わってしまった。
でも、それは自分も同じなのかもしれない。

無邪気に笑えなくなった自分。
戦争に敏感になった自分。
何かを恐れるように感情を隠すようになった自分。
人を殺しても割り切れてしまう自分。
戦争をしているのだと、冷たく思う自分。

もう、あのときのようにキラと無邪気に笑いあっていた頃には戻れないだろう。
この世の汚さを知ってしまったから。この世の愚かさを知ってしまったから。
何よりも自分の無知を______


                            03.5.18


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あとがき
あ〜う〜アスラン甘えっ子らしい。彼女とは・・・・もうモロバレですね。
二人しか出てこない(汗)次はやっと皆出てくる〜〜〜〜!!