序章〜邂逅〜



ちょうどキラがプラントに到着した頃、オーブの姫と言える存在が多くの守役の監視をかいくぐって宇宙へと飛び出していた。
「こんなに宇宙は広いのに。こんな狭いところで私たちは何をやっているのだろう。」
ぽつりと呟いた言葉は隣の席の者に聞こえる間もなく空気に吸い込まれ消えていった。
「着陸いたします。席から立たずにシートベルトを着用してください。まもなくヘリオポリスです。」
船体は炎に包まれ、圧力が身体を襲う。思わず耐えるように力を全身に込める。抗いがたい力が船体を引き寄せ、吸い込まれるようにヘリオポリスに着いた。
「本日はオーブOPCをご利用いただき、誠にありがとうございます。
忘れ物がないようにお降りください。それでは、良いたびを。」
はきはきとしたアナウンスが流れ、オーブの姫と呼ばれる少女がやっと力を抜いた。
周りを見ると、すでに人々は荷物を降ろして出口へと向かっている。
「・・・・・私は知らなすぎる。」
一般人と自分の違い。こんな圧力は知らない。恐ろしいとさえ感じた。でも、彼らはどうだ?こんなことで精神をまいらせていたら、やっていけない。慣れるしかないのだ。
オーブの姫として育った自分。普通の家庭で、環境で育った彼ら。
こんなところでも、些細な違いがある。胸を通る何かがあったが、あえて無視する。こんなことでくじけてどうする。その違いを自分は知りにきたのだ。真実を見極めるために。
少女は自分の荷物を降ろすと、それを背負ってインターホールへと出た。
オーブとは違う、穏やかな雰囲気が自分を包み込むように感じた。同じ中立国でもこんなに違う。
それは彼らが戦争を知らないからなのか。
だから、平和なのか。関係ないと安心しているからなのか。一般人は戦争をどれほど正確に把握しているのだろう。どこか遠い話だと思ってないか。戦争中の緊張感すら感じられない。
確かに平和だと、素直にそう感じた。
「それなのに・・・・・」
この空気が崩れ去ろうとしている。つかんだ情報が正しいのなら。この穏やかな国に一気に火がつくような情報。一般人が知るはずもない、軍機密。
この空気を壊すのか。我々は、また一つ過ちを犯そうとしてやいないだろうか。
「そうかな?」
「?」
近くで自分の思考に答えたような声があがった。辺りを見回すと、数歩離れたくらいの場所にこっちを見ている少年がいた。自分よりも一つ二つ年上だろうか。
ひどく愛嬌のある表情で、肌は浅黒く、だがそれに反して服は真白いスプリングコートをまとっていた。そのはっきりした色の反発が不思議とどちらの色も鮮明に浮かび上がらせている。
自分を見る黒瞳と一つに結んだ黒髪はさきほどまで見ていた宇宙の闇を思わせ、美しい。
ひとめで強い印象を与える少年だった。
「こんにちはブラフマー。」
声は低いテノールで、その口調はなんともいいがたい不思議な調子だった。しかし、不快感は与えない。
「人違いだ。私はそんな名前じゃない。」
少女はきっぱりと言い放つ。その声は力強く凛々しい。
「うん。でも、役割はそうなんだ。君がいうところの名前はカガリでしょ。」
「・・・・・お前、何者だ?」
名乗ってもいないのに自分の名を知っているということは、私の立場を知る何者かか・・・
それはまずい。まだ真相も確かめてないのに、できるだけ逃げることはしたくない。しかし、もしも敵対する組織か何かに運悪く見つかったら・・・・オーブのために逃げに徹する。自分の立場は忘れてはいない。わずらわしいとは思うが、名はもう変えられないし、自分が望んだことではないと責任逃れなどできるはずもない。
「怪しいものじゃないよ。
ただね、見たかったんだ。君を。
もう、ヴィシュヌは見たし。」
「・・・・・・・お前、なんなんだ?」
もしかして、何かの病気の患者か・・・そう思うが、こちらを見詰めてくるその瞳に曇りはなく、仕草も自然でそういう者には見えない。それとも組織内での何かの暗号なのか。
確かめたいという探求心がもたげてきたが、オーブを思えばここで逃げをうったほうがいいいとわかっている。
「その深慮は正しい。
一つ教えてあげよう。
君はここで真実を見つけられるよ。それを望むか望まないかは別として。
そう、なっている。」
自分の目的も知っているというのか。カガリは瞳に力を込めて睨む。しかし、それを少年は黒い闇で受け流して、背を向けた。
「僕はシヴァ。また会おう。」
静かな、しかし心に響く声で少年は言った。背中が人ごみで見えなくなる。予想外の行動に眼を見張っていたカガリは背中が消えたと同時に正気づき、少年を追う。
しかし、すでに少年は姿を消し、いくら探してもみつからなかった。
「・・・・・・シヴァ・・・」
一体なんなのだ。それは・・・・
彼の言っていた三つの名はすべて地球で信仰されていた神の名だ。確か、・・・仏教・・・いや、ヒンドゥー教の三神だ。
その中で破壊神であると同時に創造神がシヴァだ。
破壊と創造の象徴神。
カガリの背中に悪寒が走った。
それと同時に指が震える。
普通の少年だった。それなのに、この震えはなんだ。
恐ろしい、そんなはずはない。彼はとても穏やかであったし、怪しいところを除けば、結構好感はもてる少年だったはずだ。
しかし、この溢れる不安は何か。
それを振り切るようにカガリは首をふり、目的地へと向かう。
答えはでないまま、カガリは先を急ぐ。急がねばならなかった。



カガリの後姿を見ているものがいた。さっき姿を消したと思われた少年だった。
「でも、ヴィシュヌは覚えてるかな。
最近忙しそうだし。・・・・・思い出させるのは後でいいか。」
カガリを追っていく男がいる。さっき自分を睨み、殺気まで振りまいた男だ。
「まぁ、関係ないし?」
少年はそう呟いてカガリ達に背を向けた。
あとにはかすかに何かの花の残り香があった。


BACK← →NEXT



                             03.5.6
あとがき
・・・・オリキャラのくせに重要な役割を任せてしまった。最近自分が黒髪と黒瞳が大好きなことが発覚。SEEDそういうキャラでてこないかな〜。
感想はBBSにお願いします。