序章〜邂逅〜
「うぅ・・・・あ・・・」
何だと?爆弾?!
混乱する間もなく、第一の爆音がした。それに続いて次々と爆発音が聞こえる。
逃げ惑う、足音。
振り向く。
迫る光。炎、煙、風
叩きつけられた身体
どれだけ気を失ったのか、立ったとき、周りに動く者はなかった。煙が立ち込め、周りは飛んできた瓦礫でひどい有様だ。
静かだった。
生きているものがいない。
地獄とはこんな静かな寂しいところかと思った。
耳が痛い。そう思い始めると、身体のあちこちが痛みを訴え始めた。
それなのに、現実味がない。
近くでうめき声が聞こえた。友人だった。
急いで駆け寄って、呼びかける。それに反応したのか、そこここでうめき声が上がりはじめた。
生きている・・・・・
だんだんと感覚も戻り、記憶も鮮明になる。
目の前のことが現実だと頭が理解したとたん、どうしようもない焦燥感と喪失感に襲われた。
「ああああああ!!」
キラは簡易ベットの上で飛び起きた。
(夢・・・・・)
ひどく汗をかいていた。
二年前、ブルー・コスモスの間でも過激派が爆発事件を起こした。
それに僕の両親は巻き込まれたのだ。否、ヘリオポリスの住民なら誰でもよかったらしい。
どこから嗅ぎ付けたのか、中立国ヘリオポリスに住んでいた僕たちの前に現れた。
中立国なだけに、カレッジにはナチュラルとコーディネーターが共存していた。そこに爆発物を仕掛けられたのだった。仕掛けられたのは、親も生徒も集まれるようにつくられた大きなホール。
ちょうど一年に一度人が一番集まる文化祭に起こった。
彼らの主張は『不自然を自然へ戻せ』
「不自然なる者・コーディネーターに、我らが自然なる者・ナチュラルが裁きをもたらすのだ。我らが創った者を我らが責任を持って処罰する!!無へと帰すのだ!そうして崩れかけたバランスを取り戻す!!
コーディネーターは世界の異分子だ!!
消滅しなければならない。この世界のために!!」
突然スピーカーから流れた声。皆、何事かと足を止めた。
荒々しく、陶酔しきった男の声。その内容は信じられないほどに無茶苦茶で、乱暴なものだ。正当化できるものでない。しかし、声の調子は人が思わず惹きつけられるような洗練された口調であった。指導者たる所以。
「だが、この国ときたらどうだ?!倒すべきコーディネーターと共存し、排除すべきコーディネーターと同化している!!
裏切り者めが!!
我ら崇高なる断罪者はこれを許さぬ!!
世界の秩序を守るため!その旗のもとに!!」
その声が終わるや否やあちこちで爆発が起こった。
後ろから膨れ上がった熱気と煙が襲い掛かり、気を失った。
しかし、自分は運が良かった。
人酔いしたために、今まさに混雑した人ごみの中からでようとした矢先だったから、爆風に呑まれつつも助かった。自分を心配して一緒にきた数人の友人と、自分と同様に運が良かった者は助かった。だが、そうでない人は______
自分の学科の研究を見に来ていた両親も、受付していた友人達も、楽しんでいた知り合いも、盛り上がっていた教授も、皆・・・・・・亡くなった。
それほどの凄まじい爆弾をどこから手に入れたのか、どうやって仕掛けたのか。情報は飛び交い、結論は内部に通じる者がいたということだった。しかし、あてはまる人物もいないまま、血のバレンタインによって忘れ去られてしまった。
世間では。
当事者たちは忘れようもない。
忘れたくない、忘れられない傷となっていた。
キラもその一人であった。
忘れられずに引きずったまま、一年を過ごした。
そう、ちょうど一年経ったころだった。親友アスラン・ザラの父、パトリック・ザラから連絡があったのは。
内容は簡潔に言うと次のようなもの。
“君の両親のことは残念だった。私もひどく心を痛めている。
一年も連絡が遅れてしまってすまかったが、君を迎えに行きたい。プラントに来る予定だった君が何故そこにいるのか疑問だったが、それはどうでもいい。とにかく、当初の予定のプラントにこないか。君の気晴らしにでもなってくれれば幸いだ。アスランも会いたがっている。
それと、これは提案だが、君のプログラム能力を軍にぜひとも欲しい。軍人でなくとも、協力者になってはくれないか。
戦争を終わらすために。“
「・・・・・・戦争を終わらすために・・・・」
この切りのない憎悪の連鎖を断ち切れるのか
しかし、自分一人戦いに加わったとて、何が変わろう。
それでも、何かせずにはいられなかった。
戦いを戦いで終わらせる。
そういうことをしたいわけじゃない。
でも、戦わなければ、守れないのなら・・・・
“そうそう、言い忘れていたが、アスランも軍に入ったのだよ。
血のバレンタインで母を、私の妻を失ったことが原因のようだ。“
アスランが?!
それで、すでに心は決まってしまった。
守ると誓った。己のすべてをかけると。
「・・・・・貴方の文章に策略めいたものを感じるけど・・・・」
アスランを守ると誓った・・・・・
だいたい、忙しい彼の親とはそんなに会えなかったし、パトリック・ザラと個人的に会ったこともない。ただ、アスランの父として見てきた。だから、アスランのためにこい、はわかる。しかし、迎えに来る・・・・?そして、最後の文は軍人としての意見だ。だんだんと変わる内容に戸惑いを感じる。おまけに最後はアスランの入隊を書いて、念押ししている___ように思われる。彼にこの思いを悟られた覚えはないが、この文があまりにも的確なところを突いてくるので、疑いを持ってしまう。
考えすぎか・・・・・それならばいいけど・・・
暗い部屋に二人の男がいた。明かりをともしているのは部屋の壁に埋めてある大きな水槽である。
静寂が部屋を支配している。
「どうだね、彼は・・・・」
静寂を破った声は低く、威厳に溢れている。
「手元に置いて正解だと申し上げておきましょう。」
答えた声は若く、耳に心地よい音階だ。
「ふむ・・・・・保険はあるが、確信はない。なんとも不安定だ。」
「だから、手元で監視しておくのでしょう?
それに、彼の能力は我々にとって利益をもたらすものになりうる。」
「当たり前だ。そのために呼んだのだからな。」
「しかし、あのあからさまな文は彼に何か感づかせるのではありませんか?」
「仕方ない。緊急なのだ。オーブが動いたとのことだからな。もう少し、時間をかけたかったが・・・・」
「貴方のご子息を使って縛るつもりですか。」
「彼と息子は仲が良かったよ。まるで、本当の兄弟ように。そして、彼は・・」
「貴方のご子息に大きな執着を抱いている・・・と?」
「こんな仕事をしていると、人の心が読めるようになるのだよ。
私は特にその能力が長けているらしくてね。
・・・・・・・・・・・・そのおかげでここまで上り詰めた。」
最後の言葉は小さく、かろうじて聞こえるほどで、自慢げな様子はない。
またしても、沈黙が訪れる。片方の男がもう用はないと手を相手に向かって降る。どうやら、この男にしては珍しく、言ったことを後悔しているようだ。
「失礼します。」
深々と礼をして相手が去る。
残った男はため息をついた。
「飼った犬に噛まれぬといいが・・・」
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03・4・27
あとがき
いろいろな思惑・・・ということで。本編的に全然進んでない・・・(泣)
次はきちんと進めます。でも、次も邂逅編・・・次で邂逅編終わりの予定・・・。
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