序章〜邂逅〜
「キラも後からくるんだろう?」
「それ、聞いたの何度目?アスラン?」
「う・・・・」
言葉につまった君がおかしくて笑った。
「大丈夫。地球とプラントが戦争になることはないよ。」
「・・・・・・そうだな・・」
「アスラン、そんなに不安なら・・・・・」
ざぁ・・・・・
桜が吹雪く。二人の隙間を通って舞い上がる。
「・・・うよ。僕のすべてをかけて。」
「キラ?ごめん。よく聞こえなかった。」
制止も聞かずにキラは続ける。
「だから・・・・」
「きゃ〜〜〜おくれちゃうぅぅ〜〜〜!!」
ばたばたと、けたたましい足音を鳴らして女学生たちがバスに遅れまいと急いで二人を通り過ぎた。
「・・・ないで。」
「キラ?もう一度言ってくれないか?聞こえなかった。」
僕はただ笑ってその問を受け流した。
その顔はいつもと同じであれただろうか。
決して悟られてはいけない。この思い。
守ると誓うよ。僕のすべてをかけて。
だから、独りでいってしまわないで。
「・・・・せん、着きましたよ。起きてください。」
「ん・・・?」
忙しなく呼びかける声に少年は重い瞼を開く。まだ寝足り無いようだ。
「着いた?」
「はい、プラントです。」
少年の瞳が大きく開かれる。どうやらその言葉に本格的に覚醒したようだ。
「すいません。すぐに降りますから。」
旅行にしては少々小さいバックを背負って、人好きのするような柔らかい笑みを船員に惜しみなく振りまくと、少年はそのまま足早に船を出口に向かった。その一連の動作には無駄がなくしなやかで、しばし少年の笑顔とともに船員達の脳裏に焼きついて離れそうに無い。
少年は入国手続きを済ますと、バスターミナルへと足を向けた。
「キラ・ヤマト君」
少年の名前なのか、声のした方に顔を向ける。そこには淡い金髪の、何故か仮面をした男がいた。仮面のせいで周りは不信もあらわにみるが、すらりとした体格に湛える笑み。仮面さえなければ不信な目でみられるどころか憧憬と嫉妬の入り混じった目でみられる容貌だろうに。
「迎えにきたのだよ。ついてきたまえ。」
「そんなに暇なところなんですか。」
特別扱いされていることがわかるのか憮然とした態度で少年は聞く。
「来ればわかる。」
口端をあげて、少しシニカルに笑う。
「怪しい人にはついて行かない事にしているんです。」
「それは正しい判断だ。」
「・・・・・貴方は充分に怪しく見えますが。」
「ならば、ついてこなければよかろう。」
その答えにため息をついて、少年が今度は顔を引き締める。
「・・・・・クルーゼ隊長」
ぴたりと男の足が止まる。それにとことこと追いつき、少年は言った。
「このような隊員ごときにご労足ありがとうございます。」
「素直にそういいたまえ。正式に隊員として勤めたら、さっきの言動はあまり感心しないこと、心得ておけ。」
「はい。」
出口からでると、高級車が待っていた。
「後ろに乗りなさい。」
「運転は隊長がなさるんですか。」
「そうだ。」
「・・・・・」
大人しくキラは車に乗り込んだ。運転席にクルーゼが乗り込む。大抵はこんな高級車を持っていると運転手も雇うものだが。
「これは私専用なのだ。他の者にハンドルを握らせたくない車なのでね。」
「どうして、そんな車で?」
「個人的に迎えにきたからだよ。凄腕のプログラム・プロフェッサーでも学会にでたわけでもない、一部の人間しか知らない君だ。それに、今はまだ新米軍人でしかない。迎えがきても私自ら___ということはありえんよ。ザフトも暇でないからな。これでも無理やり時間をつくってきたのだよ。」
「何のためにですか?わざわざ迎えにいらっしゃらなくてもこちらから早々にいく予定でしたが。」
「見極めたくてね。」
「?」
「君が我々にとって危険分子となりうるか」
「!」
「・・・・・第一印象はそう悪くない。しかし、諸刃の刃と化しそうだ。危険分子ならば、適当に理由をつけて処分しようかと思ったが、その必要は今のところなさそうだ。」
「何故・・・・」
「君の力はそれほど危険なものだからだ。___と私は思うからな。他の人間はどうやらそこまでは気づかないようだが。」
「買い被りです。」
「そうかな?」
クルーゼはバックミラーでキラの表情を確かめつつ言い放つ。仮面の下で目を細めているようだ。
それきり会話もなく、キラは初めて見る光景に目を奪われて窓の外ばかりを見ていた。
だんだんと家がなくなり、しばらくして検問があった。基地に入るのだ。
「検査完了。入場を許可します。」
機械音がして目の前の格子が開く。
“やっと・・・・・やはり君だったんだね。”
「!」
脳裏で響いた声にぎょっとする。空耳か、それにしてはやけにダイレクトで、しかし、すでに声は聞こえない。また、キラはその声にデジャヴを感じた。
「荷物はすでに届いている。部屋に行ってすべて届いているか確認してから集合しなさい。集合場所はわかるね?」
「・・・はい」
思い出しかけたものがクルーゼの声にかきけされ、記憶は遠くへといってしまった。
キラは思い出すのを諦めて改めて窓の外を見る。広い。そこここで訓練をしていたりするのだが、込み入った様子は見られない。面積の割りに人が少ないのかもしれない。のびのびと訓練ができて良さそうだ。基地の第一印象は悪くなかった。
しばらく行くと、車が大きな建物の前で停車した。どうやらこの基地の本部へ着いたようだ。
「ここで降りてもらおう。君のIDカードはこれだ。宿舎への道案内は受付にでも聞くがいい。では、また会おう。」
「はい、ありがとうございました。」
敬礼をして見送る。クルーゼもそれを見て、唇の端をあげて手を軽く敬礼のかたちにあげる。そして走り去った。どうやら本部へはキラを送るのみの目的できたようだ。
隊長自らのお出迎えで少々緊張したキラは、気を取り直すために深呼吸をひとつして本部へと足を踏み出した。
IDカードを入り口で通し、受付に向かう。
「すいません。今日クルーゼ隊に入隊する者ですが、ここの基地の見取り図か何かありませんか。」
「少々お待ちください。」
そこにある端末でデータを呼び出しているようだ。
「キラ・ヤマト隊員ですね。そちらにデータを移しました。他に何かありますか?」
「いえ、結構です。ありがとうございました。」
「君!忠告だけど、クルーゼ隊長には気をつけた方がいいですよ。あの人のデータはすべて謎につつまれているんだから。入隊したら色々な噂を聞くと思うけどね。例えば・・・」
他に聞こえないように小声で話す。どうやらこの受付は噂話の好きなタイプのようだ。こういう会話に慣れている。
「ご忠告ありがとうございます。考慮します。」
それ以上捕まらないうちにさっさと受付を離れ、もらったデータをもとに宿舎へと急いだ。あまり集合まで時間が無い。集合までに軍服を着るのはもちろん、荷物の整理をおおまかにでもしてしまいたいキラだ。明日からはきっとスケジュールが多く入るだろうから、今のうちに済ませたいのだ。
「彼はキラ・ヤマト。欠員がでたので優秀な人材を要請したところ、彼自ら志願してきた。今日から私の所属隊員だ。
互いに命を預ける相手だ。・・・・この意味を理解できない君たちではあるまい。仲良くしろとはいわないが、死ぬことになるような事態は避けるように。では、新人への紹介が終わり次第、本部へくるように。以上」
「はっ!」
隊員が敬礼する中、扉を開いてクルーゼはすぐさまその姿を消した。
「ったく、欠員補充かよ。しかも、欠員でたのは二人なのに補充されたの一人なわけだ。そんなに優秀なんかね?あ、俺はディアッカ・エルスマンだ。よろしく。キラ・ヤマト」
片手を差し出し、シニカルに笑うディアッカにキラは笑顔で返す。もちろん、手もきちんと握り返す。受け流されたディアッカは思惑違いに少々驚く。
「役に立つかどうかは見て確かめて下さい。」
「そうさせてもらおう。イザーク・ジュールだ。」
ディアッカとキラの間にイザークが入り込み、キラを斜め上から捕えて片方の口端をあげる。完全に軽視している。
「イザークさん、よろしくお願いします。」
ディアッカ同様にキラは手を差し出す。しかし、イザークは手を触れただけで、すぐに引っ込めた。冷たい声で言い放つ。
「『さん』はつけなくていい。」
妙な沈黙が流れ、それを取り直すようにまた別の声が聞こえた。
「一応これから一緒になるみたいだから?みんな呼び捨てでいいよ。キラ。俺はミゲル。こっちはラスティであれがニコル、んで、その横がアスラン。よろしく。」
「おい、ひとまとめに紹介するな。」
「いいじゃん。すぐに終わるし。これから本部に行くんだろ?さっさと行こうよ。こんなところでおしゃべりしてても実力なんかわかんないし。一見は百聞にしかずってね。」
「・・・・・話が違うような気がしますけど。」
いままで黙ってみていたニコルが口をはさむ。
気にするなよ〜そういいながら、ミゲルは扉に向かう。そのときだった。
「アスラン、久しぶりだね」
キラの声が部屋に何故か大きく響いた。その意外な言葉に5人は動作が止まった。
「キラ・・・・何故、軍隊に?」
「・・・・・・君とは連絡とって無かったからね・・・・・」
「戦争を憎んでたじゃないか」
「今でも憎んでいるよ?だからだよ。」
「キラ?」
わからないというようにアスランの眉が寄せられる。
「君こそ、どうしてこんなところにいるの?」
「・・・・・それは・・・・・」
言うまいと口をキツク結んでいるアスランにキラは歩み寄る。
「仕方・・・・ないじゃないか・・」
絞りだすようなアスランの声は側に行ったキラにしか聞こえない。突然の衝撃に周りはついていけない。アスランの知り合いというのはまだ良い。しかし、ここまで親しげだとあのいつも一線ひいたようなアスランに対して意外というしかない。親友と思しき者がいるとは。
息をひそめたような空気が流れる。
それを打ち消したのはイザークだった。もともと気は長くない彼だ。
「先に本部ヘ行く。」
ドアを開けて誰に言うでもなくそう言って部屋にでた。その後を追うようにディアッカも出る。
「じゃぁな。」
「あ、俺もそろっと行こうかな。すぐ行った方がいいみたいだったし。」
「あ、俺も。」
親密な会話を聞きたくないわけではないが、空気に耐えられないというようにミゲル、ラスティと出て行く。
「僕も、行きますね。」
いない方がいいと思ったのか、気を利かせたニコルも姿を消す。但し、釘はさしておく。
「早くこないと僕らが怒られますから。」
ドアが閉まる。
「・・・・・」
「キラ・・・・・」
「・・・・・・・僕の両親はナチュラルに殺された。それで充分だろう?」
理由としては・・・・キラは真っ直ぐアスランの瞳を見ていった。
「ナチュラルに?!」
何故?キラの両親はナチュラルだろう?!それがどうして!!そう続けようとした言葉はキラの言葉にかき消された。
「僕を生んだから。裏切り者だってさ。」
「・・・・っっ!!」
どうしようもない悔しさ。キラの手が真っ白くなるほど硬く握られている。
淡々と語るその言い草とは逆に、拳ががたがた震え始める。それが彼の傷の深さを物語っていた。
「キラ・・・・・もういい。わかった。」
「・・・・・・」
そっとキラの握った拳をアスランは丁寧に両手で開いていく。強く握ったせいで爪が皮膚に食い込んでいた。早々に開いたせいか皮がめくれているが、そんなに深くはない。自分が怪我をしたわけでもないのに眉を絞るアスランにキラは救われたように感じて、
「・・・・・・・・・行こうか」
ドアの外へ促した。
それきり二人の間には沈黙が降りた。
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03.4.26
あとがき
続き物・・・・ずっと書こうと思ってたんですけど。長くなりそうな・・・・(泣)
キラザフトに所属ものです。見ていくとわかるのですが、これはとりあえずラブラブにはならないものだと思います。主人公が誰とくっついていくのかは読んでいくうちのお楽しみ。とりあえず、キラ受けになると思います。なるべく早く更新していきたい物語。