赤ん坊____リボーンがいなくなってからの彼の落ち込みようは半端じゃなかった。
それでも約束を果たすかのように毎日忙殺されていく彼。
自分の足で立とうと、まるで生まれたての草食動物の赤ん坊のように。
その必死さが、見ていて苛立った。




愛情というには重すぎて




「隼人!!」

部屋どころか屋敷中に響きそうな大音量で綱吉はそう叫んだ。
それに右腕である彼が反応しないわけがなく、数秒もかからない内に部屋をノックする。

「さっさと入れ。」

まるで獣のうめきのように低く綱吉が言うと、控えめに扉が開き、獄寺の姿が現れた。
そこで部屋に佇むリボーンに少し安堵の表情を見せ、会釈をする。リボーンは当然のことのようにくい、と口元を上げるだけ。
それがまた、綱吉には気に入らなかった。

「余計なことをっっ____隼人、呼ばれた理由がわかるね?」
「・・・・・・はい。僭越ながら、10代目のためを思いまして・・・・・・」
「誰が、そんなことをしろと言った。」
「ですがっ」
「黙れ!」

目をかっと見開き、怒りに顔を紅潮させた綱吉は細身ながらも十分に迫力があった。
ベッドの上、裸であるにも関わらず、その迫力は並大抵のものではない。

「俺のことを思った?それなら隼人、お前にはもっとやるべきことがあるだろ?
中々捕まらない殺し屋を雇うなんてこと以外に!!」

獄寺は頭を下げて、その激高に耐える。
しかし、次には頭をく、と上げて、綱吉に申し立てをした。
それはどこか決意した顔。

「お言葉ながら、10代目、私にはこれが最優先かと思いました。」

1年間、苦しむ姿を見てきたからこそ____
怒られることを承知で、右腕の存在をかけてリボーンを呼び戻した。
綱吉はそんな決意のこもった獄寺にぎり、と唇を噛み締めるだけで、何も言えない。
自分を思う獄寺が痛いほどわかったから。
おそらく一番自分の傍にいて、この一年間支えてくれたのは彼だから。

「・・・・・・いくらだ。」
「は?」
「いくら払った。」
「それは・・・・・・」

綱吉の言外に述べる言葉に、獄寺は戸惑う。
中々言わない獄寺に焦れて、綱吉はリボーンに向かってこう言った。

「この際、いくらでもいい。
リボーン、契約金の倍払うから、契約を切れ。
手切れ金としてさらに契約金の半分を。」
「10代目っっ!!」
「隼人、お前は誰の右腕だ?」
「・・・・・・10代目です。」

逆らうな、とさらに目で念押しして、リボーンへ視線を送る。
リボーンは相変わらず無表情で、綱吉はこれなら契約を切るだろうと、安堵と寂寥が混じった複雑な気持ちを抱いた。

「残念だが、俺が雇われたのはお前じゃなくて、獄寺だ。
お前がいくら出そうとも切る気はねぇ。」
「なっ隼人は俺の右腕だぞ?!」
「だからどうした。俺は獄寺と個人で契約を結んだんだ。ボンゴレファミリーとじゃねぇ。」
「・・・・・・くそっっ」

ボン、と悔しそうに綱吉はベッドを叩く。
そして、リボーンと獄寺に出て行くように言った。
無理やりとどまるかのように思えたリボーンは意外にもあっさりと獄寺と出て行く。
とどまることを少しなりとも期待した自分にまた腹が立って、綱吉は枕を壁に思いっきり投げた。

「____っっなんでっっ今更っっ」
「何が今更なのさ。」

ノックの音は聞こえていない。ドアが開く音も。
ボンゴレの部下の中でボスに対してこんなことをするのはただ一人、雲雀だけだ。
後始末屋という一番厄介といえる仕事の長であるために、綱吉も毎回頭が上がらない。

「何、夜も明けてないこんな時刻から叫んでんのさ。うるさいよ。」
「・・・・・・すみませんでした。」

雲雀は中学のときから多少直ったとはいえ、何か少しの音でも目を覚ます男だ。
しかも先ほどの綱吉の殺気交じりの叫びで目が覚めないわけがない。
それに気づかないほどに綱吉は感情が高ぶっていたということだろう。

「で?」
「はい?」

しら、とさっきまでの激昂が嘘のように綱吉はとぼける。それは雲雀でなければ通じていた嘘だ。だが、長いこと一緒にいた上に、人を見透かすことが得意な雲雀にはきかない。
それを知りつつも、あがく綱吉に、雲雀はその切れ長の瞳をつい、と細めた。
気配に僅かながら怒りのような感情が篭もる。

「生意気。綱吉、その嘘くさい不快な笑みをさっさと消さないよと、無理やり剥ぎ取るよ?」
「・・・・・・」

雲雀は有言実行の男だ。
それを十二分に知っている綱吉は渋々ながらも、その笑顔を消して、ぶす、と不機嫌な顔を晒した。
その代わりように、雲雀はつい、と口元を上げる。

「リボーンが帰ってきたんだね。」
「ええ。雲雀は会いたかったんでしょ?隼人のところに行けばきっと会えますよ。」
「さっき見たよ。」
「そうですか・・・・・・」

それじゃあ、どうして自分のところに来たのだ、リボーンのところではなく・・・・・・
綱吉は中学のときから、雲雀のリボーンに対するある執着を知っている。1年間も連絡のとれなかったその相手を見つけておきながら、どうして自分の下に先に来たのか不思議でならない。
前なら自分を餌にリボーンを釣っていたというのに。

「不思議そうだね、綱吉。僕がリボーンのところじゃなく、君のところに来たのがそんなに変かい?」
「・・・・・・はい。」
「ふぅん。」

綱吉が素直にそう答えれば、雲雀は愉しそうに喉の奥で笑った。
何がおかしいのかわからない綱吉は不機嫌な気分をさらに急降下させて渋面をそこに晒す。

「まぁ、君と少し話したらあっちに行くさ。それで満足かい?」
「満足っていうか・・・・・・別に今の状況が不満足ってわけじゃないですし。」

そう言って、綱吉は肩をすくめた。
そのとき、するり、とドアの隣に立っている雲雀の脇を抜けて獅子が部屋に入ってくる。
リボーンのレオンやディーノのエンツィオと同じく、ツナのペットである。
情事のときのために寝室だけは別にしてあるのだ。
毛並みのよいその金色の獅子はベッドの上の綱吉に甘えるようにその頭を綱吉の手に擦り付ける。
綱吉はそれに目を細くして、ゆったりとその毛並みを撫でてやる。顎もゆっくりと撫でてやれば、気持ちよさそうにゴロゴロと喉を鳴らした。

一見猫のようにおとなしく見えるが、百獣の王にこんな芸当ができるのは綱吉だけである。
他のもの、例えば幹部でも、顎を撫でるどころか頭を撫でることすらできないだろう。
但し、例外はあるもので、動物の本能的に逆らってはいけないものはわかるのか、リボーンと雲雀にだけは逆らわない。かといって、懐いているわけでもないが。
山本と獄寺、了平、そしてハルには一応主の特別ということがわかるのか、牙はむかない。ただ、撫でられるのを嫌がるが。

雲雀は百獣の王さえ手懐けている綱吉に、くい、と口元を上げる。それはそれは愉しそうな笑み。
だが、それもすぐに綱吉の憂いを帯びた表情に消される。

「リボーンの帰還を待ち望んでいたのは誰よりも君だろうに。
何故、喜ばないんだい?」
「・・・・・・わかっているくせに聞くのは悪趣味だと思いませんか。」
「・・・・・・綱吉も言うようになったよね。」

ベッドには上がらないように躾けてあるために、獅子は綱吉の手をもっと欲して首を精一杯ベッドの上へと伸ばす。
その仕草がどこか自分に似ている気がして、綱吉は自嘲気味に笑った。
ふん、と面白くなさそうに雲雀はそんな綱吉を鼻で笑う。

「何をそんなに恐れているのさ。
君が弱い草食動物だなんてとうの昔に知っているんだから、そんなに気張る必要があるのかい?
____本当は嬉しいんだろうに。」
「でもっそれはっっ俺はっっそんなことっ」
「綱吉。僕を偽ろうなんて10年早いよ。」

なおも違うと言い募ろうとする綱吉に、元々気の長くない雲雀は苛立ちを隠せずに壮絶な笑みを向ける。
何をここまでためらうことがあるのか。
雲雀はさっさと言え、とばかりにくい、と口元を上げた。瞳は笑わずに。

「・・・・・・怖いのは、また、あいつに依存する俺です。
あいつはまた去っていくのに、またすがりつきそうになる俺です。」

ああ、そんなこと、ずっと前から知っていたよ。
雲雀はそう言おうとして、ふと顔を歪めた。
自分もまた、『同じ』なのだと気づいてしまっていたから____














「で、リボーン、君は何をそんなに苛立ってるの?
僕は相談役なんて真っ平ごめんで弱音なんて聞きたくないんだけどさ、うざいから。
そんな不機嫌なオーラだしといて言い訳はないよね?」

いつものクールフェイスはどこへやら、ぶっちょ面のリボーンを珍しそうに見ながら、雲雀はそう問う。
リボーンもまた自分の感情が表に出ていることがわかっているために、沈黙によって肯定する。
しかし、話すつもりはないようだった。

「全く、妙に頑固なところは似てるんだよねぇ。
でも、綱吉の方が素直だけど____」

ため息を吐いてそういえば、投げられる憤りの気配。
雲雀はこれ以上自分が骨を折るのも馬鹿らしいとばかりに部屋をあとにした。
残されたのは不機嫌な殺し屋。
不穏な空気が部屋に垂れ込め、部屋の中はそうそう足を踏み入れることができないほどの圧力がひしめきあっている。
けれど、その部屋をノックした果敢な男がいた。山本武その人である。

「お邪魔するぜ〜」
「・・・・・・」

リボーンは顔を向けようともしない。
それには慣れているのか、武は軽い足取りで中へ入り、どかっとリボーンの向かいのソファを陣取った。

「久しぶりだな」
「・・・・・・」

視線すらも向けないリボーンに武はこのまま話すのを待っていても無駄、と悟って口を開く。

「俺が聞きたいのはさ、たった一つなんだ。
お前が帰ってきたのは、ツナがここにいるからなんだろ?」

向けられた銃口がその答えだった。





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05.6.2
あとがき
雲雀さんやっと出したよ・・・・・・疲れた・・・・・・笑。
でも、あまりかっこいいところを見せられなくてすみません。
最初らへんはツナのボスとしての威厳とか〜を出したくて・・・・・・
次回リボさんのお話。。。