苦しい、とそう思った
今まで受けてきたどんな傷よりも
今はひどく____




愛情というには重すぎて





「リボーンさん・・・・・・あの・・・・・・」
「黙れ、獄寺」

ちらちらとこちらを見やり、書類を片付けながらもそわそわ落ち着きの無かった獄寺がリボーンに口を開いた途端に、間髪入れず答えが返る。
それは拒絶。
眉を寄せて、見るからに不機嫌な彼を見るのは初めてではないだろうか。
そんな妙にずれたことを思いながら、獄寺はこれからどうすればいいのか考えを巡らせる。
これ以上自分が口を挟んでも、どうにもならないだろう。
だが、自分が原因である以上、何かしなければならないのではないのだろうか。
動揺させてしまった主。
今までに無いほど不機嫌な殺し屋。
こんな再会を望んだわけではなかった。
ただ、自分は・・・・・・

自分では埋められない穴を知っていたから、だから____
一年間側にいて、ずっと支えて、陰で声を殺して泣く彼を見てきたから____
苦しんでいたのを知っているから____

だから

本当は自分がぽっかりと空いた穴を埋めたかった
求める手を握り締めて、自分を求めて欲しかった
けれど、できやしなかった

だから


「黙りません。俺・・・・・・私は、貴方を尊敬し、信頼してきました。
でも、ただそうやって何もせずにいる貴方を、私は尊敬も信頼もできません。」
「・・・・・・」
「十代目と話して下さい。
本当はそれをあの人は望んでいるんです。
読心術がある貴方なら、もう、知っているんでしょう?
わかっているんでしょう?!
何故、あの人の元に行ってあげないんですか!!」

「黙れ!!」

初めて聞いた、彼の怒号。
初めて見た、彼の手の震え。

それでも、自分の主はあの人ひとりだ。
例え、尊敬する彼であっても、優先順位はあの人以上にはない。
むき出しにされた殺意が真正面からあたり、まるで銃でも突きつけられているような感覚が身体を、口を巡る。
震える唇を必死に紡いで、獄寺は言う。

「貴方しか、いないんです。」

頭を下げる。
殺気と圧迫感が頭を床にまで押さえつけていくような気がした。
引き金が、ぎり、と音を立てたかと思われる。
死ぬか、と思った瞬間、ふ、と殺気が消えた。
不思議に思って顔を上げれば、そこにはもう、彼の姿はなかった。

思い出すのは、珍しく顔を赤らめた彼。
あの後すぐに消えたのだから、あのときが原因だとわかっている。
だからこそ、自分が呼び戻さなければならないのだと思った。
あの人も知らない、彼の心の欠片。
偶然見た、もの。













それはいつもの日常。
いつもの風景。
違っていたところなど何もなかった。

書類が散らばる部屋。
窓を閉めずに、適当に片付けているからこうなるのだと軽く眉を動かし。
けれど拾わずに真っ直ぐ向かうは執務机。
正確には書類を下敷きにして机に突っ伏す青年。
青年の脇に立った瞬間にすこし生ぬるい風。
夏がくるのだと何気なく思った。
そうして顔を向けた先にはいつもの____

いつもの青年であったはずだ。

けれど、その寝顔を見た瞬間。

すべての音が、色が、消えた。


『嘘・・・・・・だろ・・・・・・?』


今更。
そう、今更だ。
一体何年今まで側にいた。
11年。
ずっとだ。
それまで、何もなかったのに。
今更。
今更____













やばい、と思った。
その瞬間、囚われている自分に気づいた。
だから、逃げるように、あいつの側を離れた。

今まで知らなかった感情に、紛れもなく俺は混乱していたのだ。
そうして、一年、離れられないことを知った。
もう、離れられないところまで囚われていたのだと。
気づくのが遅かっただけで、とっくに囚われていたのだと。
だが、帰ろうにもプライドが邪魔して帰れない。
そんなとき、獄寺が俺を探してやってきた。
もう、これは、腐れ縁だ。
俺は無期限で契約をした。

代価は獄寺の言葉だけで十分だった。


戻れば、すべてまた元通りになるとどこかで思っていた。
けれど、そんなに簡単なはずはない。
自分のプライドと相手のプライドと。
伝わってない思いと。言葉と。
歪んでしまった関係と。


「・・・・・・胸糞悪ぃ・・・・・・」

自分の愚かさと滑稽さに吐き気さえする。
覚悟していたはずだった。
拒絶もわかっていた。
アレはそういうやつだ。
計算外だったのは格下の存在。
いや、存在自体はどうでもいい。
ただ、格下に対するアレの複雑なものが、また厄介だ。
けれど、一番厄介なのは____













ふわりとカーテンが揺れて、侵入者の訪れを告げた。

「ボンゴレ十代目・・・・・・」

少し憂いの漂う声に、ゆるりと呼ばれた主は視線をそちらに向け、微笑んだ。

「・・・・・・どうして来たの、ランボ。
来ちゃ、いけなかったのに___」

あまりにも儚いその笑顔にツキリと胸に痛みが走る。
まだ、この人の中では消化されていないのだと、改めて思い知らされる。
代わりにすらも、なれなかったのか、と。

「どうして、ですか・・・・・・」
「ランボ、分かっているんだろう。俺は____」

言わないで。
その先を。
手で彼の唇を塞ぐ。
いつもならキスで止めるのに、今日しないのはきっと偶然。
少し腫れた瞼にキスを落として、微笑み返す。
けれど、出来たのは引きつったような唇と、鼻水をこらえる鼻と、涙を必死にとどめる瞳と。
震える、手。

「捨てないで下さい。」
「ランボ・・・・・・」
「情けなくても、馬鹿みたいでも、女々しくても、構わない____っっ
あんたが俺を捨てないで側にいてくれるならっなんだってするっっ
縋り付いてでもっっ」
どうせあんたにはかっこ悪いところいっぱい見せてるしっ
最後くらいかっこよく去れよ、って自分でも思うけどっ
かっこよく去って、それでこの人を失って、失恋したよなんてかっこつけても意味が無い。

この人が側にいてくれなきゃ、意味が無い。

最後にかっこよくなっても、意味が無いんだ。
もう、とっくの昔にかっこ悪いところ見せて、かっこつけてもあんた笑うしっっ
失うくらいなら、なんでもする____

それで失ったら惨めだろ?

脳裏に響く声。
けれど、惨めでもなんでも、この人が、欲しいんだ
それ以上、何も望まない。
かつて抱いた世界制服も
ボスになることも
最強のヒットマンになることも

だから____

「捨て・・・・・・ないで・・・・・・」

好きなんです
愛しているんです
誰よりも
何よりも

例え、俺を見てくれなくても____



「ラ・・・・・・ンボ・・・・・・」

ぽたり
塞いだ手に落ちる雫。
じんわりとそれは温かさを俺に伝える。

「俺・・・・・・も・・・・わかんな・・・・・・」

泣く貴方は綺麗だと、そう思うけれど。
そんな痛い泣き方はやめて欲しい。
塞ぐ手を退けて、俺は貴方の流れ続ける雫を両手で拭って、キスをした。
触れるだけのキス。
何度も、何度も。
貴方の両手が俺の首に回って、貴方からキスを仕掛けてくる。
今だけは、今だけは。

この人を攫っていけたらいいのに____

まるで喰らいつくようにキスを仕掛けて、何もかも呑み込むくらいの激しさが必要で。
わけのわからない焦燥感と寂寥感と。
それを消したくてまた、強く強く抱きしめる。


こんなに身体は熱いのに、あんたがさっき流した涙はもう、冷えてしまっているんですね。
















独占したくて仕方ない
誰も手に届かないどこかに
攫って、二人だけで

子供のような独占欲



掴みたい。
手を翳してみる。
さわさわと揺れる木の影が綺麗だと思う。
ただ、ぼんやりと___思い出す、顔。

「迷っているうちにあの坊主に持ってかれても知らないぜ?」
「・・・・・・」

よいしょ、と木の枝に細身を横たえるリボーンの脇に山本は腰を落ち着けた。
その強引さにいやみがまったくないのは、本人のそのさわやかな笑顔と物腰のせいだ。
全く世間を渡っていくのにこれほど便利なことはないだろうに。
その道具で数々の口の堅いもの共を屈服させてきたかと思うと、さすがのリボーンも己の眼力に感心せざるを得ない。

「迷うなんてその歳からしてんなよ。
お前11歳だろ?まだ、11歳だぜ?
突っ走って傷ついて、転んで、また起き上がる、そういうことができる時期だろうが。」
「俺を他と一緒にするんじゃねぇよ。」
「一緒にしようと思ってもできねぇよ。」
「・・・・・・」

眉を寄せて、それを隠そうと帽子を深めに被るヒットマン。
それに少し苦笑して、山本はぽんぽん、と帽子越しにリボーンの頭を撫でた。
いまだにこれができるのは山本だけで、その山本もさすがに成長してきたリボーンにあまりしなくなってはいた。

「・・・・・・正直、俺は安心してるんだ。」
「安心・・・・・だと?」
「ああ。」

視線を向ければ、眩しいほどの笑顔。
初めて会ったときから変わらないそれに、一瞬初めてツナと会ったときのことを思い出す。
走馬灯のように駆け巡る記憶。
その中にはけれど、見覚えの無い感情が今は見える。
やっと自覚した感情。

「獄寺にも言われただろうけどよ、ツナ、ひどかったから。お前いなくなって。」
「だから、なんだ。」
「・・・・・・お前、見たことないだろ。ひどいんだ。本当。」

笑っているのに、泣いているんだ
笑っているのに、苦しんでいるんだ
笑っているのに、ただ、悲しいんだ痛いんだ
笑っているのに、ちっとも幸せに見えない
笑っているのに_____その笑みが怖い

張り付いたその笑顔の下に一体何が隠れているのかと思うと。

「そんな顔、見てないお前に、頼むんだ。俺らは。」

相手の苦しみを知らない男。
そんな男に頼むのだ。
一番悔しいのはきっと、山本や獄寺に違いない。

「もしも、だめだってんなら、俺はあっちを応援するぜ。
例え、偽でも、なんでも、あそこまでツナを回復させたのはあっちなんだからな。」

山本の言う「あっち」がランボのことだとすぐに分かった。
リボーンの知らない1年。

「・・・・・・わからねぇ。」
「何が?」
「何もかも。・・・・・・こんな、もん、捨てればいーじゃねーか。」
「・・・・・・それでも、お前はツナの側に来た。」
「要らない、ものだ・・・・・・」
「それでもお前はツナに笑いかけられれば幸せになれるんだろうに。」
「・・・・・・俺は・・・・・・何も」
出来ない。

最強のヒットマンと呼ばれる自分が。
いつも沈着冷静な自分が。
完全無欠だと思われている自分が。

こんなにも混乱して、こんなにも無力だと感じる。

「ん〜ここを乗り越えればきっと強引になるんだろうけどな〜」
「何?」
「いやいや、こっちの話。」

むす、と黙り込む横顔を見て、山本はポリ、と鼻の頭をかく。
山本はさほど心配してはいなかった。
それは本人の楽観的思考もあるだろうが、山本とて、両思いだから絶対に幸せになれるとは思っていない。特にツナたちの場合はひどくプライドやら他の感情が厄介に絡み合っていると思っている。
だが、今まで側で見ていたせいか、そんなにあっけなく切れる絆ではないと思うのだ。
楽観的といえばひどく楽観的だ。
それに、これ以上の介入はさすがの山本もできない。

「いくら『大人』でないといけなくてもさ、大人が『子供』をもっていてもいいだろ?」
「・・・・・・」
「そこんとこはあの牛坊主の方が器用だよな〜。
ツナってほら、情け深いから、ランボに泣き付かれるときっと振りほどけないんだよな。
まぁ、今回はツナも参ってたからなんだろうけど。
・・・・・・いい加減、折れないと、すべて失った後じゃ、遅いんだぜ?」
「何が、いいたい。」
「ツナはランボに傾きかけてるかもしれない。お前を諦めて。でも、諦めきれるわけない。
そんな泥沼から、ツナを引き上げるとでも思っとけよ。
何もプライドすべてを投げ出さなくてもいいと思うぜ。
ただ、少しだけ、ツナのために、プライドよりも思いを優先させて欲しいだけだ。」
「・・・・・・」

するり、とリボーンは枝から音もなく飛び降り、山本に背を向けた。
だが、どうやらツナのもとにいくわけではないらしい。
山本はふぅ、とため息を吐いて、親友を思った。






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05.7.6
あとがき
リボさんも子供ですから。
愛人何人ももっていても、やはり本気の恋には戸惑う、ということで。。
ランボはどこだ。一番かわいそうなのは奴だと思えてきた・・・・・;
ランボはプライドもなにも投げ捨ててツナを求められるけど、リボはプライドは捨てきれずにツナを求めても手を伸ばせずにいる感じ。

てか、終わらない・・・・・・3つで終わる予定だったのに・・・・・・泣。