だってほら、俺って昔からそんなに根気強くなかったし。
だから、さ。
お前を待つこと、もう、やめにしたんだ____
愛情というには重すぎて
暗い部屋は照明をつけるとあの人が嫌がるから。
少々の酒はそうしないと行為にたどり着けないあの人の要望。
こうして今、あの人を縫いとめるのは10年越しの努力のため。
そう思いたいのに、他の理由を思いつく頭をふるりと振った。
「ランボ?」
「何でもありませんよ。」
荒い息の中、交わす言葉は案外に少なく、ボンゴレ10代目は呼びかけるときしか俺の名前を呼ばない。
不意に闇から忍び寄る腕に彼を取られる錯覚を覚えて、彼を抱く手に力を込めた。
そんなときに切なそうに笑う彼の顔がひどく綺麗で、何もかもを捨てて、彼の前に跪きたくなる。
それで彼が自分のものになるならば、いくらでもしただろうに。
自分のそんな後ろ向きな考えを押しやるように、ボンゴレ10代目の中に欲望を押し込む。
艶やかな喘ぎとともに、仰け反った彼の真っ白な喉がひどく淫猥だ。
「貴方の前では、どんな女も色をなくすでしょうね。」
「何っそれっっ褒めてんのか?!」
いやそうに眉をしかめて___その仕草は途中から快感によるものに変わったが__彼は言う。
もちろん、褒めてますよ。
少々棘のある俺の口調に彼は何か言いたそうな瞳を向けて、むすっとした。
おそらくは俺の棘の原因を知っているからだ。
だが、その拗ねた顔も可愛らしくて、俺は苦笑した。
ああ、だめですね____
「あんたにはかないませんよ。
どうしたって惹かれちまうんですから。」
諦めるには気持ちが大きすぎた。
諦めるには気持ちが長すぎた。
諦めるには傍にい過ぎた。
この思い、ちゃんとあんたに届いているんでしょうね?
なんだかいやに焦りが浮上してきて、それが行動にも出てしまって。
俺はいつもよりも性急に彼を求めた。
誰よりも彼に自分を刻むために。
彼の中のあいつよりも____
「・・・・・・若いね、お前・・・・・・」
もうベッドから起き上がることも出来ないボンゴレ10代目はそう言ってひきつった笑いを浮かべた。
こうして多少の無茶をしても怒られないのは、昔からの俺の行動の賜物だと思う。
「っていうか・・・・・・もう、無理だから、抜いてくれない?」
いまだにボンゴレの中に入ったままの俺に彼は気だるげにそう言った。
疲れて今にも寝てしまいそうなボンゴレの顔を見ると、本当にもうだめそうだ。
だが、
「ボンゴレの中、温かくて心地いいんですよ。」
とさらにひっついて、年下らしく甘える。
しかし、いくら俺に甘い彼でも、今回ばかりはだめらしく、拳骨をくらった。
「だめ。そう言ってお前朝もやるでしょうが!俺は明日午前中は予定いっぱいなの!」
俺の行動パターンはすでに把握されていて、彼は呆れたようにそう言った。
自分から抜かないのは、きっともう動けないからだろう。
仕方ない、と渋々抜くと、もう帰れ、とまで言われる。
それはいくらなんでもひどいのではないかと抗議の目を向ければ、
「朝早いからお前起きないと思うんだよね。
でも、起こしにくるの、隼人だからさ。」
なるほど、あのボンゴレに心酔している右腕の男は確かに自分と仲が悪い。
顔を合わせればまた面倒なことになることは目に見えていた。
朝の苦手な自分を知っていての配慮だが、どこか不服だ。
それが表情に出たのか、ボンゴレはくすり、と笑って、ベッドサイドに置いてあった飴を口に含む。
そうして俺を引き寄せると、飴を口移しでくれた。
ころり、と舌で転がせば、それはブドウ味の飴だった。
「これで今回は我慢してよ、ランボ。」
我慢はお前の得意分野だろう?
そう笑いかけられれば、憮然と頷くしかない。
俺は未練がましくボンゴレに触れながらも、身支度を整えた。
「それでは、ボンゴレ10代目。
また夜中の訪問者を優しく受け入れてくださいね。」
「はいはい。」
別れに軽くキスを交わすと、俺は窓の方へと歩き出し・・・・・・
「!」
驚いた。
一年前にいなくなった奴が向かう窓枠に座っていたのだから。
いつからそこにいたのだろう。
気配は全くしなかったのに。
相変わらずの無表情で俺にはどうして奴がここにきたのかわからない。
ただ、わかるのは、ボンゴレに近づけたくない、ということだった。
「何しにきたんだ?リボーン」
俺の言葉にベッドの上のボンゴレがはっと息を呑んだのがわかった。
「お前にゃ関係ねぇよ。格下。」
闇に埋もれそうなほどの真っ黒なスーツ。
くやしいが、その触れたら切れそうな漆黒の瞳に勝つことはできない。
だが、それでも、俺はもう彼を悲しませたくなかった。
こいつの気まぐれで、彼をもう哀しませたくなかったのだ。
「関係ない?関係ないというならそっちが今は関係ないだろう?
俺とボンゴレの仲は見てのとおりだと_____」
俺の言葉が終わらないうちに、俺の頬に銃弾が掠めた。
誰が、といえば、予想通り、目の前で無表情をさらして銃口をこちらに向けている最強のヒットマン。
「さっさと出てけ。でないと殺すぞ?」
勝てないことはわかっていたが、俺は立ち向かおうと一歩踏み出した。
あの人の言葉がなければ____
「ランボ、帰るんだ。」
「!ボンゴレ10代目?!」
振り返った視線の先には硬い表情の彼。
だが、ボンゴレのボスにふさわしい、抗議を許さない口調で俺に命令した。
「ランボ、帰るんだ。リボーンに構わず。」
「・・・・・・はい・・・・・・」
悔しくて、悔しくて、涙が出そうだった。
逆らえない俺も、守れない俺も、何よりも震える貴方を残していくことが____
「残念だったな」
擦れ違う一瞬。
そう囁いたあいつ。
かっとして、飛び掛ろうとした瞬間、とん、と押されて。
自分は真っ逆さまに庭に落ちた。
「リボーン、何故来たんだ?」
「何故?カテキョが昔の生徒に会いにきちゃだめってのか?」
「・・・・・・そうじゃない。」
「お前も随分とボスらしくなってきたじゃねぇか。」
「そうじゃないだろ?!リボーン!!」
息を荒くして、睨めば、返ってくるのは冷笑。
一年前には慣れていたその仕草が、現在の自分にはひどく苦しい。
ピン、と互いを糸で結んだような、それをたるませれば一瞬で殺されそうな、そんな空気が流れる。
ごくり、と唾を飲み込む自分の喉の音がいやに響いて、ドクドクとこめかみを流れる血の音がうるさい。
口を開こうとして、けれど何を言えばいいのかわからずにまた口を閉じる。
「てめぇ、格下と随分と仲良くなったようじゃねぇか。」
少年期に相応しくないその低い声に綱吉は戸惑うようにリボーンを見た。
帽子の影によって隠された目元は見えず、口元はゆるい弧を描いているというのに、その声は随分と不機嫌そうだった。
いつも無表情で無感動な殺し屋には珍しく、その感情は今表にわずかながらに漏れていた。
「・・・・・・たった一年の間にってこと?」
「一年前はまだあいつが勝手に慕ってただけだったろう。」
「・・・・・・お前には『たった』一年でも俺には一年『も』の歳月だったってことだよ。」
もういいだろう、契約は終わりだ、と勝手に出て行った殺し屋の面影を追っていたのは綱吉。
それを慰めて傍にいて、綱吉にとってリボーンという存在に最も近かったのがランボ。
そうしたときに繋がった二人の線。
けれどそれは細く、はかないもの。
互いに代わりだと、わかっていたから。
「今更、何しにきたんだ?リボーン。
俺はお前を呼んだりはしていないよ。隼人や雲雀が呼んだなら、そっちに行けよ。
俺には関係ない。」
今更だ。
一年、リボーンのいない中、綱吉は苦しんできた。
そして、今やっと一人歩きができるようにまで復帰したのだ。
今更、惑わせないで欲しいと思う。
その気まぐれにつきあわされるのはもうごめんだ、と。
どうせ傷つくのは自分ひとりで、相手は平然と去っていくのだ。
「関係ない・・・・・・だと?」
「そうだよ、関係ないねっお前が去ったとき、契約が切れたとき、もう俺とお前の縁は切れたんだっ今更っっ_____っっ」
綱吉は滲みそうな視界を精一杯に睨みつける。
そんな綱吉にリボーンは不機嫌そうに言い放った。
「残念だが、切れてないぞ。
獄寺が俺を雇った。」
「何____っっ?!」
ぶつり、と綱吉の中で何かが音を立てて切れた。
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05.5.16
あとがき
10年後でも雲雀さんと呼ばせているサイトさまが多いのですが、獄寺や山本を名前で呼び捨てなのに、雲雀さんだけ、さん付けもボスとしてどうだろうと思い、苗字のほうで呼び捨て。
みんな苗字で呼び捨てでも良かったんですが、雲雀さんとの格の違いを・・・・・・(笑。