誓い3
アスラン達が話している一方で、イザークはラクスに話し掛けられていた。
「お久しぶりですわね。イザーク」
「ラクス・クライン嬢・・・・お久しぶりです。」
つい先ほどのディアッカとの会話が影響してイザークの表情は曇りがちだ。それとは対照的にラクスは穏やかな笑みで応じている。
「キラを・・・・お探しなんだとか・・・・」
「・・・・・・・誰から?」
「アスランからですわ。」
「・・・・・・そうですか」
イザークはそれっきり言葉を紡ごうとはしない。ラクスはそんなイザークを見て、
「・・・・・貴方にとってキラはなんなのですか?」
静かに切り出した。
「側にいなくてはならない者です。」
そう、側に
側にこいといった。
迎えにいくと、言った。
あいつがそれを望んでいると思ったから・・・・・・否、望んでいるのは俺か。
側にいて支えてやらなければと思った。
「貴方はキラの側にいたいのですか?それともキラを側におきたいのですか?」
側にいなくてはならない者。
いなければならない?誰が誰の側に?
俺がキラの側に?それともキラが俺の側に?
たぶんどちらともが正解で望みなのだ。
近くで、熱を感じられるほど近くでキラと共に生きたい。
「キラの側に、キラを側にたぶん、どちらもが俺の望みです。
あいつと初めて会ったときに感じた。
こいつは支えなきゃ壊れてしまうと・・・そして二度目に会ったときは確かに強くなってはいましたが・・・強くなればなるほどに俺にはもろく感じられて仕方なかった。
独りで・・・・・たった一人で向かっていく背中がひどく寒そうでした。
だから・・・・・・・・・・・」
「キラを支える者となりたいと?」
本当にそれだけなのですか?ラクスは覗き込むようにイザークを見た。その瞳は隈一つなく澄み渡り、何もかもを見通してしまいそうだと思われる。
「・・・・・・・・・・・」
「イザーク、貴方はそれだけではないでしょう?貴方こそが、求めているのでしょう?キラを。」
「・・・・・・・・」
ひたと注がれる視線。それに観念したかのようにイザークは言った。
「わかっています。俺がどうしようもなく求めてしまうんです。」
二度目にあったときからすでに気づいていた衝動。
探しても見つからない日々にその衝動は加速していくばかりで。ブレーキはどこにいってしまったのかすら、わからない。
「・・・・・・・・私はこのパーティーにでて正解のようですわ。」
ラクスはそう言って微笑んだ。決して華やかな笑みではないけれど、大半のものは思わず見惚れてしまうくらいに穏やかで包み込むような温かさが滲み出ていた。
そこでラクスは改めて問う。
「貴方はキラを癒す自信がありますか?」
つい先ほどまでの穏やかな表情が嘘のように、その視線は強い。
まるで、子を守る親のようにそれは崩しがたいもののように見える。
真っ直ぐに突き刺さる視線を前にイザークは自分でも驚くほどに自然と見つめ返す。
「自信など・・・・・・あいつに関しては自信などもてるはずがありません。
俺はあいつの動作ひとつひとつに振り回されるだけです。だから・・・あいつが俺を必要としているのかさえも断言できません。
でも、それでも・・・・俺にはあいつが必要なんです。
あいつでなければだめなんだ。
代わりがきくものじゃない。どうしようもなく、あいつが・・・俺は・・・」
敬語が途中からなくなったのにイザークは気づいていない。言葉をつむぐので精一杯のように必死に言葉をつむごうとする。
言い表せないもどかしさに顔が歪む。俯きがちに目を伏せる。
湧き上がるどうしようもない焦燥。
足元が崩れてしまいそうな____恐怖。
手の届かない先。
「彼は言っていました。僕には帰る場所がない・・・・と。」
はっとイザークは顔を上げた。
ラクスは問う。貴方は彼の帰る家となれるかと。
真っ直ぐに透き通った瞳を見返して
「俺の居場所があいつの側だけなんです。」
それが、答えだった。
今日もまた、彼はいた。
この島にきてからここに来ないことはなかった。
どんなに雨が降っていても、風が吹こうとも、いつもこうやって墓の前に立っている。
その背中は思わず抱きしめてしまいたいほどに華奢で、しかし手を触れられないほどに哀しい。
墓を見ている瞳。
しかしその視線はどこか遠くにあって。
「・・・・・・ヤマト、君は誰かを待っているのか。」
「・・・・・・僕には待つ人なんていません。」
遠くを見たまま視線をよこそうともせずに紡ぐ言葉に強さはない。
「・・・・・ならどうしてそんなに苦しそうな顔をしている?」
「僕は・・・・・・・誰も迎えになどくるはずがない。」
そのこちらを見ようとしない横顔が痛い。
「どうして・・・・・」
「僕は・・・・・」
誰かを待つという行為に耐えられないから。
そんなのは無理だから。
誰かにきて欲しいと思うはずもないから。きてくれるはずもないから。
独りで・・・・・・・今は独りでいい。
「・・・・・・・・・」
ならばこの地を去ってしまえば、もう知る人などいないのに・・・
くる人もいなくなるはずなのに・・・・
だけど・・・・・・ここにいてしまうのは・・・・・
「・・・・・・・・意味がない」
待ってもきてくれるはずがない。
自分がそうするように仕向けた。
待っていてもくるはずはない。
意味がない行為。
“貴方は彼の帰る家となれますか?”
居場所を聞いてからずっと離れない言葉。
それは教えてくれた島に着くまでイザークの頭を離れなかった。
(帰る家・・・・・か)
なれるだろうか。自分は。
キラの家となれるだろうか。
でも、いつも自分は胸の中のキラに帰っていたような気がした。
だから、あんなふうに答えた。
彼女は微笑んで場所を教えてくれたけれど、それで良かったのか。
“帰る家”
キラにとってそうした存在に自分はなれるのか自信はない。
それでも・・・・・どうしても・・・・会いたい。
窓から吹き込む涼しげな風が銀色の髪を優しく梳いていった。
ここはカリブ海に浮かぶ小さな島である。
復興作業にあたる島民が活気強く動いている。
その活気に当たっていると、終戦によって生まれ出ずるものに微かな微笑が浮かんだ。終戦を迎えたといっても、彼の周りには相変わらず物騒であまり好ましくない噂が広がっていたからだ。
しかし、こうして一個人として空気を感じるとようやく終戦の実感が湧く。
強い風が気まぐれに銀髪を弄び、乱れる。
それをうっとしげにかきやってイザークはまだ見ぬ面影に思いを飛ばす。
(キラ・・・・)
彼は今、どうしているのだろう。
自然と歩みは速くなった。
どうして俺に連絡をくれなかった?
俺は頼りなかった?
どうしてここに?
今までどうやって生きていた?
彼は俺なしで苦しくはなかったのだろうか。
俺は彼なしでは苦しくて仕方なかったのに。
この思いは通じる?
一方通行の押し付ける思いにはならないか?
過ぎ去る風景を楽しむわけでもなくぼうっと見ていると、町のはずれに向かっているのがわかった。
どこか懐かしい、小奇麗な家が姿を現した。
それは存在を強調するわけでもなく、その風景によく調和していた。
どこにでもあるような小さな家。
「ここですか、お客さん」
「・・・・ああ、おそらくな・・・降りる。」
そうして代金を支払ってイザークはその家に向かった。
そこは静まっていて人の気配を感じない。
と、
「あっ・・・・・」
後ろから声がした。イザーク振り向くと二十台後半だろうか、なかなかに好印象を与える顔の青年が居た。
「・・・・・・ここの住人か?」
ありえないと思いつつ慎重にイザークは問う。しかし、それに相手は慌てて首を振る。
「とっとんでもないですよっえ〜と・・・貴方は?」
「まずは自分から名乗るのが礼儀ではないのか?」
「ああ・・・・・・俺はタージだ。ここからちょっと離れたところに住んでいる。」
「・・・・・・イザークだ。ここの住人はどうした?」
家を指差しつつ言う。
「え?あ・・・・っと・・・・留守かな?」
「いないのはわかる。どこへいったのかと聞いている。」
そう尋ねると相手は明らかにうろたえて、少し考え込んだかと思うと言った。
「貴方は・・・・・・あの人の待ち人なんですか?」
「は・・・・?」
我ながらまぬけな声を発したとイザークは思ったが、この問いには仕方ないだろうとも思う。
「・・・・・・違うんですね・・・・・」
目に見えて落胆したようにタージ表情は陰を落とした。イザークはその反応に眉をひそめて問う。
「その人はお前のなんなんだ?」
答えてはくれないだろうとは思ったが聞かずにはいられなかった。しかし、相手は意外にもあっさりと答えてくれた。
「彼は俺を救ってくれた恩人です。それ以上でもそれ以下でもない。かけがいのない人だ。」
(彼・・・・・・)
「キラ・ヤマト・・・・・?」
呟いた言葉に相手はそうだと頷く。そして再度同じ質問をした。
「貴方は彼の待ち人なんですか?」
(待っていた・・・・・・・)
「何処に居るのか、教えてくれ。」
イザークは強い眼差しでタージを貫いた。
それに相手は驚いてから笑う。
そのおかしな反応はイザークの気になるところではあったが、今はそれどころではない。
イザークの切羽詰まった気迫に圧されるようにして、しかしタージは穏やかに笑って答えた。
聞いた途端、もうどうしようもなかった。身体が勝手に動いていた。
日課になっている墓参り。
今日も花を持って、添えて、思い出して
そうして帰っていくものだと・・・・・少なくともキラはそう思っていた。
いつもどおりに花を添えて遠くを見詰めて・・・・・
そして・・・・・?
「キラ」
一瞬耳を疑った。いるはずのない人。
でも、焦がれていた人。
何度も何度も頭の中でその声を反芻した。
間違うはずはなかった。
キラは振り返る。
その瞳に映った人影に目を大きく見開いて。
息を呑んだ。
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あとがき
ああ、長い。あと一回で終わります。やっと・・・!!