誓い





『側に来い。俺の側に。
戦争が終わったら、迎えに行く。』









どこにいるんだ?

焦燥感と無力感で埋まっていく毎日
己の決めた相手さえ探し出せない

どこにいる?
キラ・・・・・





戦争が終わって二ヶ月近く。
戦争終結後、いろいろな処理に追われて、本格的に探し始めたのはつい一ヶ月前。
しかし、なかなか思うような情報が手に入らない。

迎えに行くと約束したのに・・・・・
どこにいても探し出すと決めたのに。
戦争は終わったのに、何故俺はここにこうやって一人でいるのだろう

あいつはどこにいった?
やはりあの時に無理やり連れてくれば良かったのか?
望まないところに?



「俺は何をしているんだ!!」
すぐに探し出せば・・・・・・・!!







安心していた。
彼はもう戦わなくてすむと、これで彼の苦しみも終わったのだと。
自分は彼をすぐにでも探し出せる。
彼とこれからいつまでも側にいれると・・・・そう確信していた。

愚かな自信。否、思い込みか。
何もかもをこの手に得られると思ったのは間違いだったのか。





「・・・・キラ・・・・・」
苦しげな声は届く相手もいないまま、虚空で消えた。

















戦争が終わって、すぐに僕は誰にも言わずに見知らぬ土地に移った。
ここにいるのを知っている人はひとりだけ。両親もアスランも知らない。・・・・・・イザークにさえメッセージを残さなかった。
知っているのはここを貸してくれたあの人だけ。



なんとなく、離れたかった。
何もかもから。

終戦はしたけれど、その中で自分は何をできたのか、
これから何をなすべきなのか、それを考えたかった。
皆の中にいるのが辛かった。守れなかったものがたくさんあって、その分守ったものも当然あるけれど、あのままあそこにいて、自分は何を望むだろう。
整理をつけたかった。
周りに流されていく前に。



「会いたいな・・・・」

イザーク・・・・・あれから彼を思わない日はなかった。
思い切り泣いた。あのとき包んでくれた優しい腕はなにものにも変えがたく、このまま時が止まってしまえとさえ思った。そのまま、何もかもを捨てて、身を委ねたいと思った。

でも・・・・・それはできなかった。してはいけなかった。
守る者。それがいるのに、彼と一緒に自分だけ幸せになど、できようはずもなかった。

死に行く人々、傷つけあう兵士。
その中で自分はのうのうと生きていて何も知らず、何もしない。
そんなことはもう、できなかった。
戦争の悲惨さを知ってしまったから。

「もう何も知らなかったころには戻れない・・・・・」

戻ってはいけない。戦争の中にある苦しみを痛みを哀しみを、知らなくてはいけない。
指導者であるならなおさら、知らないことは罪に値する。
前線にいる者の叫びを聞いて、恨みを聞いて、嘆きを聞いて、どうして無視できようか。

『何故あの人が死ななければならないの?!』『何故俺が死ななきゃならない?!』『私には家族が・・・・』『お願い、助けて!!』

無力、脱力、虚無、何もこの手に残らない。
助けることさえ、出来なかった。叫びは届いたのに、悲鳴は確かに聞こえたのに・・・遅かった。遅かった。何もかも。
昨日のことのように、今もまざまざと脳裏に蘇る。

自分は何が出来た?



「・・・・・・選択が間違っていたとは思わないけど・・・・」

だけど、どうしてもあの声は消えない。
この胸の焦りさえも。

「・・・・・・・・・」

キラはそこでため息をついて、目を閉じた。
安眠など訪れはしないとわかってはいたが・・・
独りのはずの部屋なのに耳に響いてくる声はいつまでも消えることはなかった。













「・・・ザーク、おい、イザーク!」

ふと自分の名を呼ぶ声で目が覚めた。
重い瞼を開けてみるとそこには旧知の姿があった。

「なんだ・・・ディアッカ・・・・」
「何だじゃねーよ!ここで寝てんじゃねーよ。風邪ひくぞ。」

「・・・・今、何時だ?」
「あ?7時だよ。」
「・・・・・夜のか?」
「いんや。朝。」

ディアッカのその言葉にイザークはその瞳を大きく見開いた。

「朝だと?!」

それなら自分はかなり寝ていたことになる。時間の無駄をしたことにイザークは思いっきり眉根を寄せた。
それを見て、ディアッカもまた顔をしかめる。

「お前、必死になるのも分かるけど、体調崩したら元も子もないじゃねーか。
こんな・・・机の上で寝るまで疲れてるんなら少し休めよ。」

ディアッカの視線の先にある机には通信機器と通信機器から送られてきたデータと大量のファイルが所狭しと置かれている。それだけでなく、机の周りには足場もないほどにディスクやら何やらが溢れていた。
そこに半ば埋もれるようにして眠っていたイザークにディアッカが忠告するのも理解できるというものだ。何しろ、その状態がここ一ヶ月続いているのだ。

「だめだ。これは俺の失態だ。
あのとき、もっと早くに本格的に探し始めていたら・・・・
約束を、したんだ。俺は・・・・なのに・・・・・・」

イザークの絞りだすような声にディアッカは目を細めて、何か言おうとした言葉はしかし音になる前にその喉元で消える。痛ましいような色を浮べてイザークを見るしかできることはなかった。

もうすでに彼がここに詰め始めて一ヶ月。そろそろ効果は出ていいはずなのだ。
しかし、目撃情報すらない。
もちろん、個人的な探索であるから指名手配などできるわけもないが、それでもイザークはとうとう母の力までも手伝ってかなり広範囲の情報源を持っている。

戦争時に死亡していないことは多くの証言があるから確かだが、その後の消息を誰も知らないというのはおかしな話だった。両親さえも知らないとなると、もう手の打ちようがない。
新たなる情報を待つばかりで、それと今まで調べていた中で見落としていた点がないか、どれかが繋がらないかと模索している最中なのだ。

本格に探し始めてから情報がないと知れると、だんだんイザークは食事も、睡眠さえも惜しんで情報を集めるようになっていった。見るたびにやつれていくのがわかる友人達は、机にへばりつくイザークに無理やり睡眠を取らせたり、食事を取らせたりした。
自分達も情報を集めるからといってもいっこうに安心できるはずもないイザークは、代わりにやっているから食べろ、寝ろといっても容易には納得しない。

それはもう執念としかいいようのないものだった。
普通なら倒れてもおかしくない状態だ。
否、実際何度もイザークは倒れていた。
その度に休養をとったほうがいいという友人とそんな時間の無駄はできないと言い張るイザークが言い争う声が聞こえてくるのだ。結局どちらも妥協してその場は収まるのだが。

しかし、その余裕すら最近のイザークにはないように見える。

「イザーク・・・・でも、いくらお前でも体がもたない。そんなんじゃ、会ったときにキラが心配するぞ。」

ちょっと前のイザークなら、この言葉に寂しそうに笑って「そうだな・・・」といって多少休むこともあったのだが、最近は焦りが顕著に現れ始めている。
その証拠に今はその言葉に首を振って頑なに拒むようだ。

「早く、見つけないと・・・・
あいつが待っているんだ!!
待っているんだ・・・・待って・・・・」

脳裏に浮かぶのはあの寂しげな瞳、微笑み。

戦争には全く向かないと思った。
心が壊れてしまうのではないか。こんなところにいるべき人間じゃない。
もっと・・・・・・暴力とか破壊とかそういうものよりもむしろ、癒すような安らげるようなことにお前は向いているんじゃないかと・・・・正反対の位置にいるんじゃないかと・・・・・・・そう思った・・・・・

やっと・・・・・・やっと・・・・
そこから連れ出せると・・・・そう思ったのに・・・・

悔しさに涙が滲み、目の前がかすむ。
あの声が、表情が、涙が、脳裏に焼きついて離れない。
どうして・・・・その苦しみを俺は取り除いてやれないのか・・・・

「俺は・・・・・何故見つけられない?!」

キラ・・・・・・・っっ

搾り出すような声、その表情は例えようも無いほどに苦渋に満ちている。
下を向いてじっと耐えるようなイザークにディアッカは沈黙せざるを得なかった。こんなに苦しむ者に何を言えば救いとなるか、彼にわかるはずもなかった。ただ、じっと見詰めることしかできなかった。




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