Stand by me



ついてない。

整備士が無能なせいで出発が他より遅れ、やっと離陸したと思ったら今度は地球軍のモビルスーツ「ストライク」とあった。
そして、こんな小さな無人島へ落とされて、ディアッカ達が助けに来るのを待っている。

まぬけにもほどがある。

うまくいかないことにいらいらしていたが、ここまで来ると、自分の運の無さに呆れてしまった。
とりあえず、小さな島に足を着地させた。

「ったく、まったくもって馬鹿らしい。
何故この俺がこんなところでアスランごときの助けを待たねばならん。」

辺りを見渡すと海ばかりで何もない。本当に孤島のようだ。

「ふん・・・・」

海に手で触れてみる。冷たい。
海水を舐めてみる。しょっぱい。
砂に手で触れる。熱い。
海底の砂をすくう。ざらざらしていてそれでいて滑らかな感触が心地いい。

「っつ!!」

何かが自分の手をつついたような感覚がする。

「・・・何だこれは?」

手を引くと、指先にくっついている少し緑がかった赤褐色の小さなものが目に入った。
身体の横に足がつき、五本のうちの一番上についている大きなはさみのようなものが自分の指先をはさんでいた。

(これは・・・・・・・)

「かにか・・・?」

まじまじと見ていると、突然、何かが海に落ちた音がした。
しかも、大きい何か。

「つ〜〜〜〜!あ〜あ、上から下までずぶぬれだ。」

男の声にしては少々高い声が聞こえた。おそらく少年のものだろう。
しかし、ここに人がいたとは・・・・そこでイザークはさっきのモビルスーツ「ストライク」を思い出した。

(もし、あいつが一緒に落ちていたら?
あのとき、何をしていた?戦闘だ。
なのに戦線を離脱したということは・・・・・)

「パイロットか・・・・」

(こんな早くに顔がおがめることになろうとはな・・・・・)

イザークは銃を持って、足音を立てないように声のした岩に忍び寄る。
確信もないのに・・・・・どこか諌める冷静な感情は内にあるが、興奮する自分は抑えられそうにない。
音を立てないようにして、岩を登る。そして、岩の隙間から様子を窺った。

(・・・・あれが・・・・?)

砂浜に投げ出してあった銃のホルダーを取りに行く少年はストライクを操るには細身に思えた。
あの超人的な、コーディネーターの中でも上級のクラスの能力、否、それ以上のものを発揮する力があの身体にあるとは信じがたい。
だが、ストライクのパイロットではないとすると、無人島のはずのここにいる理由がわからない。

(あいつも銃をもっているからな・・・早々に始末した方がよさそうだ。)

そう判断したと同時に撃っていた。しかし、

(避けた?!)

イザークが驚愕している間に相手は素早く岩に避難した。
それからは・・・・・・まるで悪夢を見たようだった。
反応速度が違う。
ナチュラルでないことはすぐにわかった。こんなに自分を苦戦させ、あまつさえ、押さえつけられる者を誰がナチュラルと呼ぶだろう。

(ナイフを振り上げたときはもう死ぬと思ったが・・・・)


何故、こいつは泣くのだろう。


「あああああ・・・・ああ・・」

悲痛な叫びが聞こえる。頭を打ったせいで霞がかっていた頭が一気に冴えた。

「僕はっ・・・・・僕は・・・・」

涙は止むことを知らないかのように次々と溢れては、押さえつけているイザークの頬に落ちた。
落ちて弾けた瞬間はひどく熱く、弾けて飛び散った水滴はひどく冷たく感じた。


何故、泣くのだろう。


あまりに予想外な展開にイザークは抵抗することも忘れて、うろたえる。

「おい」

びくりと肩をすくませて、今気づいたかのように少年は大きな瞳をさらに大きく見開いた。
その拍子にまた涙が零れる。

「あ・・・・・」

それまで焦点のあっていなかった眼が像を結び始める。
だんだんと混乱した意識が醒めていく。それをイザークは黙って見ていた。
少年が落ち着きを取り戻す。それを見取ったイザークは素朴な疑問を口にした。

「貴様、何故俺を殺さなかった。」
「・・・・・・殺せなかった。」
「いや、出来たはずだ。お前になら。」

認めたくない事実。しかし、疑いようもない真実。

「できない。僕には・・・・・誰かを殺すなんて・・・したくないっ。」

苦しそうに言い放つ少年にイザークは眉をひそめた。

「お前・・・・・?」

キラはそのままイザークを縛りもせずに上をどく。そして、銃をふたつ拾って、海に投げ捨てた。

「おい」
「・・・・・・・」
「お前、ストライクのパイロットか?」

その問いに相手は振り返る。

「貴方はデュエルのパイロットだよね。」
「・・・・そうだ。」
「・・・・・・・そう・・・」

「貴様がこの傷をつけた。そうだろう!」
「・・・・・・消さなかったの?それとも、消せなかったの?」
「貴様を倒すまで、消さないと決めた。」

真っ直ぐに見詰めるイザークの視線を受けるのを避けるように少年は顔を背けた。
何かに耐えるように唇をかみ締めている。

「・・・・・だったら・・・・」

言いかけて、また少年は口を閉ざした。
まるで、自分がそれを言ってはいけないような・・・







燃え上がる火を見続けていると、眼が乾燥していくようだ。
ぱちぱちと静かに燃える火は目の前の、向かいあって腰をおろしている彼がつけたもの。
外では雨が降り続いている。

あれから、少年は自分を監視するといった。迎えがくるまで。

「何故、縛らない?」
「僕は上手く縛れないから。
どうせ縛っても、貴方は縄抜けができるようだから意味ないと思ってね。
縛って確信のない安心をするより、こうして警戒した方がいい。
縛ると視覚的に安心してしまうから。」
「ふん・・・・」

それからしばらくして、雨がやってきた。近くにあったちょっとした雨宿りになる岩の下にかけこみ、今に至る。

(何をしているんだろうな。俺は・・・・抵抗すればいいのにな・・・)

だが・・・・・


『・・・反抗はしないで。
僕は貴方と争いたくないんだ。』
『甘い奴だ。よくそんなんで生き残れたな。』
『・・・そうだね。』
『・・・・・・』

『でも、僕は貴方を殺したくない。』


侮辱と捕えてもいい言葉だった。
彼は自分と争っても勝つと確信しているのだから。しかし、不思議と反発は感じなかった。
それは、言葉を紡ぎだす彼の顔がひどく辛そうに見えたからだと今ではそう思う。
彼のは確信ではない。
だが、では何かと聞かれて自分に答えられるはずもなく・・・

(なんなんだ一体・・・・)

いらいらする。
原因はこの自分より貧弱そうな少年に負けたからだと思っていたが、どうやらそうでもないらしい。
何処か、違うのだ。
わけのわからない感情を持て余しながら、イザークはちらりと正面の少年を見た。
しかし、その瞬間、イザークは己のを疑った。

(・・・・・寝てる・・・・本当に?)

少年は横になり、目を閉じていた。微かに寝息も聞こえてくるようだ。
イザークは足音を立てないように忍び寄り、顔を覗いた。しっかりと寝ているようだ。
奪われたナイフに手を伸ばす。

『僕は殺したくない』

一瞬、手が止まる。しかし、イザークは止まった手を一度固く握り、再び手を伸ばした。
そのとき、寝ていたはずの少年は凄まじい勢いで跳ね起き、ふいを突かれたイザークは次の瞬間視界が反転していた。

首筋に冷たいものがあたっている。
瞬時にそれがナイフだと判断し、イザークは身体をひねろうとしたが、身動きがとれない。

「・・・・・どうして・・・・」
「・・・・俺はお前が憎い。」
「・・・・・だったら・・・・っ・・・・」
「俺を殺さない限り、お前は生き残れない。」
「・・・・・・・・だめだ・・・生き・・・ないと・・・・」

生きないと・・・・何故、義務のように言うんだ。
どうして、どうして・・・いらいらする。
こんな感情の原因を、俺は知らない。

「ならば、俺を殺せばいい。」

簡単なことだろう?
少年が息を止めた。

「戦争とはそういうものだ。
命を奪ったものが生き残り、より多くを奪えば賞賛される。
そういうものだ。
・・・・・・・それができないお前はここにいるべきじゃない。」
「僕は・・・・僕は・・・・それでも・・・」

うろたえているのが手にとるようにわかる。
いらいらする。

「・・・・・何がそんなにお前を縛っているんだ?」
「縛るなんて・・・・・僕は・・・・守りたいだけ・・・・・」

その言葉に一瞬我を忘れた。
自分でも制御できない感情が溢れて、解けないはずの少年の縛めを信じられない力でひきちぎって、上にまたがっていた少年を組み敷いていた。

「守りたいなら、殺せ。」

低い声で囁いてやった。
自分の下でびくりと肩をすくませた少年の瞳はひどく揺れている。
何かを恐れている。

殺されることに?殺すことに?
そう、自分を見失ってしまうことに。
怯えている。
まるで、必死に自分の子供を守ろうとする小動物のように。

こんな細い腕で、何を守れると言うのか。



                               03.4.28.


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あとがき
中途半端・・・・おかしいな。前編後編でおわりのはずが・・・・中編が・・・・あれ?おかしいなぁ。
随分前ので文体がかなり稚拙でウケる。いや、そんなに成長したわけでもないのですが、今の方がまだマシかな〜というくらいですが。昔のヘタさをしみじみと実感するこの頃。