茫洋とした光から、輪郭が浮かびあがる。

それは何の輪郭?

自分の存在する証。
相手の存在する証。
このまま二人溶け込めれば・・・・・幸せなのに。



衝撃が起こった瞬間にひかれた腕にあいつの存在を感じて、

そう思った自分がいた。


                                          輪郭












「・・・・・・・何故、助けた・・・」
「助けたかったからです。」
「殺した方が楽だったろうに・・・・」

そう言って笑った男は息をひきとった。

「・・・・くそっ・・・!!」

キラは拳を振り上げて力いっぱい地面に振り落とそうとする。しかし、その行動はキラが助けたもう一人の少年によって妨げられることになった。
少年は銀色を映し出す瞳を細めて、

「手を痛める。」
「・・・・・・」

かち合った視線をすぐに離すことができずにキラは顔を歪める。
やり場のない憤りがあふれ出てきて仕方ない。
誰に対する怒りなのか。それすらも曖昧な感情。
ぎゅっと止められた拳をもう一度堅く握って、相手の手から自分の拳をとる。
そして、言葉を発しようとして何も言えぬままにキラは俯いた。

「やはり・・・・・お前だったのか。生きて・・・いたんだな・・・・」

キラは瞳を固くつぶるだけで返答はしない。後ろで控えていたフラガはその言葉に衝撃を覚える。

(ザフトに知り合いが・・・?)

否、いて当たり前だった。キラはもともとコーディネーターであるのだから。
だとしたら、自分達の与えた言葉はなんと残酷なことだったろう。
あの状況で仕方ないとはいえ、キラが置かれた状況のあまりの悲惨さに後悔せずにはいられない。
しかも、相手はデュエルのパイロットのはずだ。

「生きて・・・・いて・・・くれたんだな・・・・」

搾り出すようなかすれた声にキラもフラガも少年の方を思わず見詰める。

「・・・・・・キラ・・・」

そう言ったかと思うと、突然少年がキラを抱きしめた。
表しきれない激しい感情をぶつけるかのように強く抱く。

「・・・イ・・・ザーク・・・・」

呆然とした表情で抱かれているキラが相手の名を呼ぶ。
見開いた瞳から、ひとすじの涙がすべり落ちた。











「なんだと?!貴様が捕えたわけでもないのにでかい顔をするな!!」

ナチュラルふぜいが!!そう叫ぼうとしてキラが側にいることに気づいて言葉を止める。

「だってねぇ?敵を生かしたままにするのは捕虜ぐらいと相場が決まっているでしょ。」
「・・・・・この艦は戦線を上司の命令無くして脱しました。それは重罪に問われるのでしょう?もう、地球軍ではいられない。それなのに、捕虜が必要なのですか?」
「・・・・・・まぁ、それは艦長が決めることだな。」

普通の口調だが、うむを言わせぬ反論を言うキラに、ぽり・・と頭を困ったようにかいて応じるフラガにはコーディネーターに対するナチュラル独特の嫌悪感は無いように思える。

エンディミオンの鷹と呼ばれるのがこの男と知って数分。この男が自分の隊長と戦ったというのだから驚きだ。しかも今だ生きているということはクルーゼが仕留められなかった証拠だ。いくら逃げ回ったといってもエリートのコーディネーターから逃れたその能力は確かにナチュラルの中では評価すべき能力になるだろう。あまつさえ、張り合ったというなら・・・・・

「貴様、本当にナチュラルか?」
「ん?何?俺がコーディネーターだと思うの?まぁ、コーディネーターが人工でやるところの配置を俺の場合は自然でやられたというだけのことだろうよ。」
「・・・・己を天才といいたいのか。」

「い〜や、そこまでは〜。でも、まぁ、他のやつよかは戦闘素質では上だな。
だが、そんなことだったら、コーディネーターにも差があるだろう。遺伝子を改造した部分が同じでも決して同じ能力にはならないはずだ。限りなく近くは出来ても同じにはならない。なれない。
そういうものだろう?人間は。他の動物と違って精神状態が肉体状態を大きく左右する生き物だからな・・・・・。」

そこで一度口を閉ざし、艦に乗ろうとしているキラを見る。

「・・・・・・ある意味最も完全に程遠い生物なのかもしれないな。」
「・・・・・・・ふん、何を完全とするかによるだろう。」

イザークが憎まれ口のように紡いだ言葉に、フラガはふと疲れたように笑う。
キラが艦の入り口で何かに出会ったようだ。イザーク達からは死角で見えないがキラが話している声が聞こえる。

「・・・・え?・・・・んですか?」

「いいわ。彼は貴方の思うようにしてかまいません。今、こちらにいる彼に関してはもう少し待って。
私たちは、いないとはいえ勝手に司令官の指示なく撤退した身。あの作戦に乗せられた時点でAAは地球軍にとっては厄介ものでしかなくなったの。表向きはどうであれね。
私たちは地球軍であって地球軍ではなくなったのよ。・・・・・・正直軍に裏切られたといっても過言ではないしね。表では裏切ったのは私たちということになっているけれど・・・。
だから、今は貴方の意志に従います。」

「・・・ありがとうございます。でも、AAはこれからどうするんです?」
「それは・・・・・とにかく貴方は今を考えなさい。」
「はい。あの、もう一つ、頼んでいいですか?」
「何?」
「今、捕虜になっている人と彼を会わせていただけませんか?」

少しの躊躇いの後にマリューは決断を下す。

「・・・・いいわ。ただし、」
「僕がついています。お願いします。そうしてください。」

先制されてマリューはすこし驚いたようにして、そしてキラの瞳を覗きこんだ。

「・・・・・信じてもいいのね?」
「はい」

「・・・・・貴方は変わったわ。以前あまり話す機会はなかったけれど、・・・強くなった。瞳に力が、宿った。
・・・・・信じることにするわ。貴方を。」









面会する部屋はもう何も置かれていないかつてのキラの部屋だった。そこは隣に人がいないので望みにかなうだろうとのことだ。

「イザーク、久しぶりだねぇ〜。あ、あんたが今回俺らを面会できるようにしてくれたんだって?どうも、ご親切に。」

ディアッカの口調はいつでも本気と冗談を区別できないようなふざけた調子だ。それに最後のセリフでキラの手にキスをしたのだから、イザークの眉根に深い溝が入ったのは言うまでもない。

「ふざけている場合か。ディアッカ、貴様死んだかと思えばこんなところで何をしている!!」
「見てわかんないのかよ。捕虜だよ。
・・・・・それに俺だって何の考えもなく捕虜になったわけじゃない。まぁ、半分どうしようもないのもあったけど、何もせずに死ぬよりは情報を探ろうと思ったのさ。」

キラが側にいるというのに平然と同じ音量同じ口調でしゃべるのがこの男らしい。

「・・・・で、探れたのか?」
「いや・・・この艦見捨てられたみたいだし。地球軍に。なぁんもないね。
ただ何故か青臭い少年少女が乗っていることぐらいと、そのうちの女の子二人がコーディネーターを殺したいほど憎んでるようだということだ。」
「・・・・・馬鹿か貴様は。」

先ほどサイにその事件を聞いたキラは複雑だ。その表情をちらりと見たディアッカは尋ねた。

「で、これだけなの?してくれるのは。」
「貴方を帰すことはできます。但し、バスターはたぶんAAに残したままで。」
「・・・・・こちらさんなりの譲歩か・・・・・お前は?」
「俺はデュエルに乗って帰る。お前も仕方ないから乗せてやる。」
「・・・・・そりゃ、どーも。」

(ったく生きていたんだからちったあ喜べっての。まぁ、不器用なイザークにはもともと期待しちゃいねーけど。)

「キラ、お前はどうするんだ?」
「僕のやりたいことは軍の中にいては出来ない。きっと。
だから・・・・僕はもう、地球軍でもザフトでもない。
これ以上憎しみを増加させないために、僕はこのモビルスーツを与えられた。
出来ることは限られているのかもしれない。でも、僕は出来ないといってしなかったら余計出来ない。だから・・・・・・・」

言葉を選ぶキラの脳裏を占めるのはラクスのあの言葉



『力だけでも、思いだけでも、だめなのです』



「ああ、そうだな・・・・・・俺にも決断が必要なのかもしれない。」

戦争の醜さをだんだんと知ってきた自分がいる。迷う自分が輪郭を現す。

「イザーク・・・・?」

キラは弾かれたようにイザークの顔を見る。それを少し表情を柔らかにして受けとめるイザークの目には確かな困惑があった。

「お前を見ているとわからなくなる。
自分は本当にこれでいいのか。
これで本当に守りたい者が守れるのか。
本当に戦うことによって戦争は終わりへと向かっているのか。
だんだん過酷になっていくようにしか見えないこの状態。積み重なる戦闘によって軍人でないものの命すら奪われ、広がっていく戦火。
俺は・・・・ここにいて、このままでいいのか?」

最後の言葉は吐き出すように紡がれ、イザークの顔を疲労の色がちらりと掠めた。
イザークの以前とは異なった考えにディアッカが目を見開く。

「・・・イザーク・・・お前・・・・」

(・・・・・・信じられないな。こいつの口からそんな言葉が出てくるなんて・・・

だが迷っているんなら俺も同じだろうな・・・・あれから、あいつの顔見るたびに・・・・・
迷っているのかもしれない・・・・

この思いの輪郭さえつかめたなら、そのときこそ俺は迷いを断ち切ってやるのに・・・)



「・・・・・答えは貴方にしか出せないよ。」



ぎくりとする。それはイザークに向けた言葉であったが、思い沈んでいたディアッカすら突き刺して。

「・・・・分かっている。」

視線を向ければあの鮮やかな紫電の瞳に捕えられて、数秒何を言うわけもなくただ見詰めあう。そのまま惹かれるようにしてイザークの手はキラの頬に触れる。
瞳に誘われるようにしてイザークはその顔をキラに近づけた。
唇が重なりあう一歩手前

「・・・・・・・ふ〜ん。やっぱそうだったんだ。熱いね〜」

見計らったようなタイミングで言葉がかかると同時にイザークは間髪入れずに言い放つ。

「なんだ。まだいたのか貴様。」
「・・・・・・・」

あまりなイザークの言葉にディアッカは怒りを通り越して呆れる。

「はいはい。俺はお邪魔でしたね〜。まぁ、時間はあるし?
腰に負担かけすぎて戦えないようにはさせるなよ〜。あ、それも一種の戦略か〜」

あいさつのかわりというように軽口をたたいて出て行くディアッカは、出て行く前に振り向いてにやけることを忘れない。
数秒のブランクの後、キラがその言葉の像を結んで理解すると同時に顔がゆっくりと真っ赤になっていったのはいうまでもない。



                                03.7.3


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あとがき

甘甘!次はVERY SWEETで!!
次は裏です(汗)