ふとオーブの街中で、空を見上げる。
今日は綺麗な青空だ。

『貴方はあの子のことを忘れちゃだめよ。』

ふと、あのときの母親の声を思い出す。
泣きそうな、寂しそうな顔で僕にそう言った。

その言葉の真意はわからないまま・・・・・・




聞こえた闇




「平和ですね・・・・・・」
「・・・・・・ひどく不安定な平和だけどね。」

オーブの大通りの賑わいを見て、深く帽子を被った少年が感想を漏らすと、隣にいた茶髪の少年が言葉を返した。
元々オーブで情報収集をしていた諜報員に手引きをしてもらい、侵入を果たしたキラ達である。
イザークやアスラン達は議員の子供のため、顔が知られている可能性があり、一応眼鏡や帽子で変装している。
イザークとアスランはその少し長めの髪を帽子の中に納め、少し違う印象を与えている。
唯一素顔なのはキラであったが、そのキラも普段は着ないだろうだぶだぶの服を身に着けている。

「レンタカーでも借りていかないと、あそこまでは行けないな。」
「それはあちらで用意してくれらしい。」
「早く待ち合わせ場所にいかないと。」
「だったらなんでさっきくれなかったんだ?」
「急だったからあっちにも都合があったんだろ。」
「ああ、確かに・・・・・・不機嫌そうだったもんなぁ・・・・・・」









庭を見渡せるくらいの、大きな防弾ガラスが張られた部屋に男がドア側に背を向けて立っていた。
開いたドアから誰が顔を覗かせるのか知っているとでもいうように、彼は窓の外から視線を逸らさない。
おずおずと部屋に入った少女はその背中を見ながら、小さく呼びかけた。
彼があまり好いていない軍部にいるのは自分のせいだとわかっているからなおその声は小さくなる。

「お父様・・・・・・」

沈黙が痛い。
自分が判断して行動したことだが、結局は迷惑をかけたことを自覚している。
もともと、自分の立場上、そう身勝手に外を出歩いてはいけないことはわかっていたのだ。

「外を見てきて、何を得た。」
「え・・・・・・」
「お前は見たかったのだろう。
その目で見て、一体何を得た?」

男の深い声は怒りを滲ませているわけでもなく、悲しみを含んでいるわけでもない。
ただ、淡々としていた。
それが余計に、少女の瞳を揺らした。

「その前に聞きたいことがあります。
ヘリオポリスのアレはお父様、何故ですか。何故アレがあそこにあるのですか。」
「・・・・・・カガリ、我々だとて、一枚岩というわけではないのだ。
あちこちに向かう矢印を必死に一つの方向へと促しているに過ぎない。」
「・・・・・・お父様はご存知なかった?」
「不甲斐無いながら・・・・・・な。」

そう言う父親は今まで見てきたどんな背中よりも疲れているように見えた。
カガリは疑いが晴れた嬉しさと、父親の表情への心配で複雑な表情となる。

「・・・・・・ここは・・・・・・平和だと思っていたけれど、違うことを知りました。」

ぽつりと呟いた言葉は何故かひどくこの場所に似つかわしくない気がした。
けれど、その溢れる言葉は止まろうとしない。
無意識に流れ出る言葉をカガリの唇はひたすらに紡いだ。

「私は頭では分かっていましたが、ヘリオポリスの一件でこの身体にそのことを刻みました。
世界は・・・・・・血を流しているのだと、間近で見て、経験しました。
私はっっ流れる血を止めたいっっっ
今回未熟であることを改めて実感しましたっけれどっ私はっっ_____っ」

くるり、と背を向けていた父親が振り返る。
厳しい表情をしていると思われた彼にカガリは眼を見開いた。
彼は____微笑んでいた。

「それでいい。
お前は少しずつ少しずつ学んでいきなさい。
苦しみなさい。悩みなさい。その中できっとお前の道が見えてくるだろう。
・・・・・・カガリ、お前にあまり外を見せれなかった私を恨んでいるか。」
「いいえ、いいえっお父様っっ」

ぶんぶんと力強く首を振るカガリに父親であるウズミはふ、と笑う。
その真っ直ぐな魂がいつまでもそうであれることを祈る。

「私はこの混乱した戦場でお前を外に出すのは危険だと思った。お前の顔は知られているから。
お前が抜け出したと聞いたとき、ひどく心配したと同時に安堵もしたのだよ。
おかしいと思うか?」
「・・・・・・安堵?」
「成長したのだと、思った。
自分で運命を掴める子に育ったのだと、誇らしい気もした。」
「おとう・・・・・・さま・・・・・・」
「無事で良かった。カガリ。
お前の帰還を私はひどく喜ばしく思うよ・・・・・・」

次の瞬間、ウズミの胸の中には涙を溜めた少女がいた。
しがみつくその力に、少し苦笑しながらも、彼は娘をいとおしそうに抱きしめたのだった。















「結構頑張ってるんだな〜諜報も。」
「ああ。まさかここまですんなりと通れるとは思わなかったな。」

軍部内を作業服姿でイザークとディアッカが歩いている。
あれからAAが隠れていると思われる軍施設に二人ずつ分かれて向かったのだ。
だが、さすがに秘密裏にされているAAの場所(AAがここにいること自体が機密であるが)は中々分からない。
諜報の用意した作業服では行くところも限られてしまう。
ここから先は自力でやれということらしい。
『これも経験だろう。君たちの能力を上げることに役立つと思うが』そう言うだろう自分たちの隊長を想像できて、イザークは少しうんざりとした顔になった。
その隣でイザークの表情で分かったのか、ディアッカが珍しく苦笑いを浮かべていたことも述べておこう。




「キラ、ここの端末で大丈夫ですか?」
「わからないけど、やってみるよ。」

キラとニコルは海岸に近いある軍施設に来ていた。
施設に侵入したキラとニコルはキラのハッキング能力を使ってAAの場所をつかもうと端末を探していたところだった。
ちょうど空いていた部屋に侵入して、キラはキーボードに手を滑らせた。
ニコルが外で怪しまれないように自然な仕草で見張っている。






















「坊主の予想通りになっちまったな。」
「でも、良心的でしたよ。
AAの修理もしてくれるというんですから。
本来ならこんな怪しい奴ら、ボロボロのまま外に追い返してもいいくらいですから。
あちらは画像さえ手に入れば良かったんですし。」
「そのときはお前が交渉したんだろうが。」
「まぁ、損はしないようにね。」
「・・・・・・お前、軍でなくともくいっぱぐれないぜ、きっと。」
「ほめ言葉ですよね、それ?」
「お前の罠にかかった消費者は哀れだ・・・・・・」

フラガはそういいながら、大げさに嘆きのポーズをとって去っていく。
ケイは肩をすくめると、フラガとは反対の方向へと歩いていった。

















娘との再会を果たしたウズミの部屋がノックされ、許可もなしに開く。
見覚えのない顔がそこから覗いて、ウズミは身体を強張らせた。
それは抱きしめた娘にも伝わる。

「君は・・・・・・」
「あんたは何も知らないんだね・・・・・・」

声でわかったのか、カガリがドアの方を向いた。
そこには醒めた表情のケイが立っていた。
漆黒の瞳がカガリの横の男を捉える。

「お前っケイ____」
「ケイ?あの機体のパイロットか・・・・・・」
「そうです。以後、お見知りおきを。」

ケイはそう言って、いやに丁寧なお辞儀をした。
そこにどこかしら悪意を見出して、カガリとウズミは顔を険しくした。

「地球軍のパイロットと知り合うことは大いに歓迎しよう。
私は前線へ出る彼らと一度話したいと思っていた。
しかし、君は・・・・・・何者だ?」
「・・・・・・今わからなければ、もう二度とわかりません。」

ケイはくい、と口元を吊り上げて、ウズミに何か含みがある笑みを向けた。
眉をひそめて、ウズミは何かを考える。
しかし、ケイの思惑が一体どこにあるか全くわからない。
ケイはそんなウズミを一瞥すると、軽蔑したような表情でふんと鼻で笑った。
それに我慢ならないのはカガリだった。
だが、カガリが何か言う前にウズミがそれを制す。
カガリはそんなウズミを見上げるが、それにふと、ウズミの脳裏に蘇った声。

『3つのうち、1つを失い、もう2つはここに。』
『この子達には誰よりも深い愛情を____』

考え込むウズミにケイはそのまま興味を失ったようにくるりと背を向けて出て行った。

「あいつっっ」

カガリは父親の腕から離れて、ドアに駆け寄る。その目的は明らかだ。

「カガリ、待ちなさい!カガリ!」

父親の声を後ろに聞きながら、カガリは駆ける。
どうしても許せないことがある。
自分を育ててくれた、尊敬する父親。
その人にあれだけの無礼を働いたケイ。
悪意しか、感じられない____

「お前ぇっっ!!」

ケイの背中にそう叫ぶが、その背中は振り返らない。
ちっと舌打ちをして、カガリは背中を睨みつけながら追いかけた。
ケイは歩いていて、カガリは走っているというのに、それほど追いついていないことにカガリは気づかない。
無事、ケイの背中へと辿り着いて、その肩を掴もうとすると、手が肩に触れるよりも前にケイに叩き落された。
完全な拒絶だ。
それでもなお、カガリは手を触れようとすると、今度はその手を掴み、ケイはカガリを壁に押し付けた。

「っ痛っ」

どん、と音がするほど強く押し付けられたカガリは顔を思わずしかめた。
壁とケイに挟まれて、カガリは身動きが出来なくなる。
間近に見上げたケイの瞳がその長い前髪から覗く。
ぞくり、とした。
あまりのその冷たさに。
あまりのその鋭さに。

「あ・・・・・・」
「お前は父親の何を知っているんだ?
俺が父親を何故軽蔑するかもわかっていないのなら、口を出すな。
目障りだ。」





何を知っている?
何を知らない?
真実はどこにある?
私の知らないことがまだまだある。
身近であった父親さえも知らない?
何を、知ればいいのだろう____





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05.6.15

あとがき
場面転換多いです。みんなばらけてしまったので・・・・・・;;