「あれ?いつの間に君、軍人になったの?
それともその格好は単なる趣味なの?」





思い起こす闇








地球軍の制服を着たフレイを食堂で見かけて、ケイはそう聞いた。
フレイの隣にはサイがいて、いつものように飄々とからかいをこめるケイに向かって苦笑する。他のメンバーは皆仕事か珍しい海を見に行っていて、今食堂にいるのは三人だけだ。

「趣味なわけないでしょ?!
私も軍人になったの!砂漠についてしばらくしてから!
どうして貴方ってそういう言い方しかできないのかしら!!」

ふざけたケイの問いに、突発ながらもそれなりに考えて軍人になったらしいフレイが眉を吊り上げて怒った。
隣のサイがまぁまぁ、となだめる。恋人、というよりはどうも兄弟にみえるのは気のせいだろうか。
その光景を面白そうに見ながら、ケイは言いにくいことをあっさりと言い放った。

「・・・・・・復讐したいのか?」
「そうよ、悪い?」

言いよどむかと思ったフレイはけれど即答して、そこに憎しみに深さを垣間見る。サイは苦い顔で、けれど口を挟むことはしない。
そんな様子にケイは肩をすくめて言った。

「いや。一体誰にするのかと思ってさ。」
「そんなの、決まってるじゃない。コーディネーター全員よっっ!!」
「ふぅん・・・・・・君たちの友達にコーディネーターがいたと思ったけど、気のせいかな??」
「・・・・・・あの子なんて私、あんまり知らないもの。」
「知らないからか・・・・・・まぁ、別にいいけどね?あんただけじゃないし。」

そうつまらなそうに言って、ケイは食事をさっさととると、出て行ってしまった。
どこか釈然としないものを感じて、背中に向かってフレイがわざと大声で言う。

「あんな言い方ってないんじゃないの?
まるで私が何もわかってないみたいじゃない。ちょっと腹立つわ!」

ケイは振り向かずに廊下を歩く。その歩調が変わらないことにフレイはなぜか唇を噛み締めた。
その隣でサイが慌てて言う。

「フレイ!やめとけよ。」
「あら、どうしてよ。サイだってそう思ったでしょ?」
「あ・・・・・・いや、それは・・・・・・」

サイとしては友人にコーディネーターがいるのだろう、と言われたことが引っかかっていた。そして、確かにフレイにとって自分たちの友人キラ・ヤマトはそんな程度の存在かもしれない。だが、友人を討つという行為ならば、同じ地球軍に属する自分も間接的にそうなるのではないだろうか。
ここまで色々忙しくてそんなことを考える暇はなかったが、今思えばそういうことになる。
サイは初めて軍人になったことを後悔した。
そして、トールたちはどうなんだろう、と思っていると、答えないサイに焦れたフレイがぷい、と食堂を出て行ってしまう。
焦ってそれを追いかけるが、ついてこないでと言われればついていくのはどうもためらわれる。仕方なく、先ほどのことを話そうとトールたちの元へと向かった。
押しが弱いサイであった。そして、押しの弱さが原因で未だに恋人未満なのだと本人は気づいていない。













「海か、本当何年ぶりだろ・・・・・・」

脚付を追って、キラたちもまた海の上へと艦を進めていた。
プラントや月などの衛星で育ったキラ達はレプリカは見たことがあっても、本物の海は初めての方が多い。
その中にもちろんアスランも入っており、キラも当然そうだと思っていたが、その呟きに自分の憶測が間違っていたことを知った。

「キラは来たことがあったのか?」
「え?うん。アスランがおばさんに会いに行ったとき、家族で地球の南の島に旅行したんだ。」

てっきりアスランは月でわかれた後だと思っていたが、意外にもまだ交流があったときだったらしい。それにしても、そんな話を聞いたことがあっただろうか。
記憶力はいいはずだが・・・・・・とアスランは首を傾げつつ、キラに問う。

「へぇ・・・・・・そうだったのか。あのときに・・・・・・じゃあ、二回目?」
「うん、そうかな・・・・・・」
「・・・・・・初めて知ったな。キラ、土産話もしなかったし。」
「あれ?そうだっけ。あ、そうだった。僕、帰ってきたらさ、アスランが確か課題がどうのっていって怒って、それで忘れてたんだった。」
「・・・・・・そうだったか?」
「ん〜多分。」

頼りなさそうにキラがそう言ったとき、後ろのドアが開いて、イザーク、ディアッカ、ニコルが顔を出した。

「うわ〜僕海って初めてですよ〜〜!」
「俺は6回目くらいか。」
「・・・・・・貴様もしかしてそれで肌が浅黒いのか?」
「なわけねぇだろ。真顔でぼけるなよ、イザーク・・・・・・」

まじまじと改めて肌を見つめるイザークにディアッカは呆れたように肩を落としてそう言った。
それにム、とイザークが眉を吊り上げたが、ニコルとキラの会話が聞こえてきて、自然とそちらに注意が向かった。

「キラさんは二回目なんですか〜アスランは?」
「俺は初めてだ。」
「の割にはそんなに感動したように見受けられないんですけど。」
「さっきまでは興味深そうに下を覗いてたよ。」

一気に騒がしくなった甲板にキラが微笑む。
そんなキラを4人は微かに眉をひそめて見ていた。無理をしているのではないか_____と。
4人のその僅かな表情の変化を感じながら、キラはその視線を海の遠くへとやる。
懐かしいな、とそう思った。
それは現実からの逃避かもしれないけれど。












「僕は鍵だ。」
「カギ?それが名前?」
「まぁ、そう呼ばれている。」
Key、と。

少年はそう名乗った。
海で遊んでいて知り合った子供だった。
キラが6歳のときのことだった。



「ねぇ、お母さん、僕ちょっと海行くね!!」
「ん?キラ、まだ早いわ・・・・・・まだ4時よ?もう少し寝てなさい。」
「え〜〜僕早く泳ぎたいよ〜。ねぇ、じゃあ一人で泳いでていい?」
「だめよ。ココから外に出てはだめ、危ないんだから。ほら、まだ寝てなさい。」
「え〜じゃあ、ココを探検してくる!!」
「キラ!」

ばたん、と扉の音がして、子供が部屋を出て行ったのがわかった。
母親はふぅ、とため息をつき、隣の夫を見る。そうすると、隣では父親が苦笑しながら、まぁ、ココなら大丈夫だろう、と安心させるように言った。
けれど、子供は両親の予測とは裏腹に外に出て、浜辺を歩いていたのだ。

「もう〜みんな遅いんだから〜。僕早く泳ぎたいな。」

外に出るな、といういいつけは破ったくせに泳ぐな、といういいつけは守っている子供はそう呟く。
浜辺では太陽が白々と海を照らしている。
それを眩しそうに見て、子供はうーんと伸びをした。
浜辺に打ち寄せる波の泡にきらきらと太陽光線があたり、まるで宝石のように見える。
それをにこにこと眺めていると、ふと、海から尾びれがでていることに気づいた。

「サメ?」

大人はそれに青くなってしまうだろうが、まだサメを見たことのない子供は目を輝かせる。
だが、それは予想に反してイルカの群れだった。それはそれで月からきた子供には珍しいので、子供はまた目を輝かせた。
太陽で眩しい中、目を凝らしてそれを見つめる。
と、イルカが何かを背負っていることに気づいた。

「・・・・・・人?」

子供は浜辺に近づいてくるイルカに近寄った。
イルカは子供と触れることはなかったが、すぐ間近まできて、その人物を海に浮かべ、海を蹴って泳いでいった。
まるで自分の役目は終わったというように。
それを不思議そうに見て、子供は浮かぶ人物に目をやった。
その人物は自分と同じ子供で、歳も同じくらいの少年だった。
紫の瞳。栗色の髪。身長。顔の造り。
自分に似ているということに子供は気づかずに、子供はその人物を浜辺までひっぱっていく。
そうしてから、少年が目を覚まさないことに今更ながらにうろたえた。
どうすればいいのかわからずに、両親を呼びにいこうとすると、後ろから声がした気がして、子供はくるりと振り返った。

「ここは・・・・・・?」

少年はうっすらと瞳を開け、そして何度も瞬きを繰り返した。
そうしてから、だんだんと状況がわかってきたのか、瞳の焦点が合ってくる。

「良かった。目が覚めたんだね。」

子供がそう話しかければ、少年はその声のしたほうをはっと振り返る。そうして、次の瞬間子供から転がるように離れ、距離をとったまま、子供を睨みつけてきた。
子供はわけがわからずにきょとんとしている。
少年が相手が同い年の子供で、何もわかっていないようだと認識すると、その緊張していた身体を少し緩めた。
子供はやはりよくわからないというように首を傾げ、それから、思い出したようににこっと笑う。

「僕、キラ。キラ・ヤマトっていうんだ。よろしくね。
君は?」
「・・・・・・何故、俺はここに・・・・・・?」
「え?んとね、わかんないけど、なんかイルカさんが運んできたんだ。僕はただ浜辺に引き上げただけ。
イルカさんにありがとうって言わなきゃね。」

にっこりと笑うその姿を2、3度瞬きして見ると、少年はあることに気づいて、警戒を完全に解いた。
相手が自分の鏡の中のそれとあまりに酷似していたのだ。
少年は相手のことを何度が耳にしたことがあった。そして、相手がそれだと確認したのだった。

「・・・・・・どうして、違う・・・・・・?」
「え?」
「お前は何故、そうやって笑う?笑ってられる?」

同じだと、思っていた。
同じ扱いを受けているのだと思っていた。
けれど、実際の彼はひどく違っていて。
羨望と共に、憎しみが湧いてくる。
何故、と_____

「俺たちは同じなはずなのにっっどうしてっお前は_____っっ!!」

目を見開く彼に、彼は知らずに育ったことを知る。
それがますます理不尽だと思った。
同じように生まれてきながら、この差はなんなのだ、と。

相手が戸惑っているのがわかった。
その困ったような瞳がひどく癪に障って、少年はつかみかかるようにキラの胸倉を掴むと、足払いをしてその身体を浜辺に押し付けた。
動けないように胸にひざを乗せて、自分と同じ顔のキラを少年は憎憎しげに見下ろす。
胸倉を掴んでいた手はいつの間にか首筋を辿り、どくどくと脈打つ動脈に辿り着く。
両手でぐ、と首を掴めば、相手の身体が強張ったのがわかった。

「怖いだろ?俺がさ、力をこめれば死ぬもんな。
でも、お前は今までこんなこと、されたこと、ないんだろ?
だったら、俺にされても仕方ないよな。」

キラにとってはひどく不可解な言葉を呟いて、少年は首にかけた手に力を込める。
途端にキラの表情が歪んだ。それに少年は暗い喜びを覚えながら、力を強めていく。

「強者である俺に弱者であるお前は跪かなきゃならないんだ。
それが自然の摂理なんだ。そんなこともお前は習わなかったんだろう?」
「ぐっぅっっ」
「弱者は強者に何をされても仕方ないんだ。
それが嫌なら強くなるしかないんだ。強く、なるしか・・・・・・」

まるで呪文のように「強く、強く・・・・・・」と唱える少年にキラは苦しい息の中で声を出す。
それは本当に微かに空気を震わす程度のものだったが、少年の耳にはよく届いた。

「君は・・・・・・強者なんかじゃ・・・・・・ない・・・・・・」
「何だと?!」

怒りで少年は首を絞める手を強めた。
空気の通り道が遮られ、唾液でさらに通り道が狭められる。

「ぐぅっごほっ」
「もういっぺん言ってみろ!!」

キラは視界が半分ぼやけながらも、締め付ける手を必死に引き剥がして、少しの息の通り道を確保しながら言った。

「イルカは・・・・・・弱者を助けるんだって・・・・・・前、テレビで言ってた・・・・・・
イルカにとって・・・・・・君は・・・・・・弱者に見えたんだよ____」
「弱者?俺が??」

イルカの習慣など習ったことのない少年は手の力を緩めたことに気づかずに、呆然とキラの言葉を繰り返した。
げほげほ、とキラが肺に息を送り込む音を聞く。
何かが少年の中で崩れたようだった。

「・・・・・・俺は、強い。」
「・・・・・・そうなの?」

あんなことがあったのに、無邪気に首を傾げるキラ。
言葉にかちんときた少年はそれにまた苛立って、声を上げた。

「当たり前だっっ!!
俺はっ強いんだ!強くなきゃ・・・・・・だめなんだ・・・・・・」
「どうして?」
「そう、言われたから____」
「どうして?」
「っっそんなのっ俺が知るわけないだろっっ!!」

強くなければ、要らないと言われた。
従わなければ意味がない、ごみだと。
だから強くなければならないと思った。
何故なんて知らない。
知ったところで、何も変わらないから。

「強いことこそ、俺の存在証明なんだよっっ」

そうしなければ生き延びれないことを知ったから。
そうしなければ、アレと同じように惨めに捨てられていくだけだから。

その様を想像するだに、少年はその瞳を揺らした。
キラは少年から僅かに怒りが削がれたことを感じて、す、と歩み寄ると、手を差し伸べる。

「・・・・・・でも、強くなくとも、君はここにいるのに。」

真剣な紫電の瞳に貫かれて、少年は戸惑う。
自分と同じ色のはずなのに、朝日に照らされて光るその瞳は今まで見たどんな宝石よりもどんな貴金属よりも鮮やかに輝いていた。
気がつけば、その差し出された手を掴んで、離さないようにぎゅ、と力を込める自分がいた。

「ここに・・・・・・いる・・・・・・」

呆然と少年は呟く。
うん、と笑った彼はひどく綺麗だった。











ふと、外を見れば、甲板の上で眩しそうに海を見つめるケイを見つけた。
フレイはしばしそこで迷ったような仕草をして、それから何か怒ったような顔でケイに近づいていった。

「ちょっとケイ。」
「ん・・・・・・?なんだ、あんたか。」
「私、あんたなんて名前じゃないわ。」
「名前で呼んで欲しいの?」

最近見かける、口の端を上げて、小ばかにしたような表情。
それにフレイは反発を感じて、挑むように睨み付ける。

「そんなおっかない顔して睨むなよ。怖いからさ。」

全く怖くなさそうにそういうから、余計に相手を煽るのだと知っているのだろうか。多分知っているだろう・・・・・・
フレイはこの男に近寄ったことを早くも後悔した。
砂漠についてから今まで、こちらのことを見向きもせずにオーブの重役の娘だとかいう女と会話を交わしていたのを見て、フレイが不機嫌だったのをこの男は知らないのだ。
ふと、フレイから視線を外した男にフレイは違和感を覚えた。
どこか、いつもと様子が違うような、だが、外見上は全くいつもどおりだし、行動も表情も同じだ。

「何?俺の顔に何かついてる?」
「べ、別に。」

つん、と顔をそむければ、笑う気配。
横目でケイを見れば、笑う瞳と目があった。
不覚にもどきりとする自分に嫌気がさす。話したいことがあったが、それよりも今のこの状況が嫌でフレイは別れを切り出した。

「じゃ、じゃあ、私仕事あるから行くわ!」
「あ〜お疲れさん」

もうすでに背を向けてケイはひらひらと手を振った。
フレイはそんなケイにむ、としながらも甲板から内部へ入っていった。
だが、次の瞬間、何か音がした気がして、少しケイの方を見ると、ケイが片ひざをついていた。
どうにも具合が悪そうだ。さっきの違和感はこれだったのか、とフレイは急いでケイの元に戻る。

「ケイ!」

駆け寄れば、荒い息の元、声が返ってくる。
長い髪に隠されて、その表情は見えないが、涼しい潮風が吹くここで大量に汗をかいているのはまずい証拠だろう。

「っはぁっはぁっ・・・・・っ別に、なんでも、ない・・・・・・っ」
「なんでもないって!苦しそうじゃないっ」
「っ寄るなっ!」

フレイがケイの肩に手を置くと、そうケイが怒鳴った。
びくり、と肩を震わせて、フレイは手をそこから退ける。そして、どうしようかと顔を左右に走らせて、

「人を、呼んでくるわね。待ってて___っ痛っ」

踵を返したフレイの手がケイにつかまれる。ケイの力はかなり強く、フレイは痛みに顔を歪ませた。
荒い息をしながら、ケイがフレイを睨みつけて言う。その顔は険しく、フレイはびく、と体を強張らせた。

「っ誰も呼ぶなっ・・・っはぁっ誰にも、言うな・・・・・・っ」
「でもっ」
「・・・・・・俺は・・・・・・っ誰も、要らないっ」

その言葉にフレイの口からぽろりと零れた言葉。
その言葉をフレイは後悔することになるのだが。
ケイの険しい表情と、その苦しそうな言葉に半ば反射的に言葉が洩れた。

「・・・・・・私、も?」
「っ必要、ないっっ俺には誰もっっ___っぐっ」
「ケイ!」
「すぐに・・・・・・おさまる・・・・・・っ」

ケイは苦しそうに自分の体を抱きしめた。
その姿に、フレイは自然とケイの体を柔らかく抱きしめる。
なぜか、そうしなければいけない気がした。触った瞬間にケイの体が強張り、また拒絶されるかと思ったが、今回はそんなことはなかった。
それとも苦しみでわからないのか。
必要ない、と言われても自分を見て欲しいと思うことに変わりはない。
そして、荒い息の中でケイがつぶやいた名前をフレイは聞き取れなかった。

「っ____っラっ」






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05.5.25
あとがき
弔いの闇でアンディが光速なみにパトと会っているのですが・・・・・・でもSEEDは一日くらいでプラントにつけちゃったりしてるから可能なのかな〜と思ったり。。
サイがなんとなく煮え切らない、曖昧な、というか野暮な男になってますね・・・・・・あんまり好きなキャラじゃなかったからか?てか、なぜかこういうイメージがあるらしい。私の中で;
あとキラが6歳のくせに大人びているのはコーディネーターだからかな??