少年はベッドにうつ伏せのまま、呟く。
息は枕に阻まれて、しっかりとした発音にはならないけれど。

「ごめんな、マユ。
俺、お前の仇を討てそうにない・・・・・・」

惹かれている。まるで家族のように。
抱きしめられた温かさが、忘れられない。
哀しそうに笑う瞳に、手を差し伸べたくなる。

「ごめん・・・・・・ごめん・・・・・・」




弔いの闇





「君の力なら、また暗部に戻ることも可能だろう。」
「いえ、遠慮しておきます。もう俺も若くないんで。足手まといでしょう。」

渋く深い声で可能性を述べる男に、もう片方の男は肩をすくめて言った。
薄暗い部屋は彼らの輪郭をばんやりとしかあらわさない。
一人は座り、もう一人は立っていること以外は闇は何も示してはくれない。

「足手まといを私がこんな重要な役につけると思うのか?」
「いいえ。私をこれほどまで評価して頂いて光栄です。ですが、暗部は経験よりもやはり体力勝負ですから。」

苦笑気味にそういえば、目の前に座る相手も苦笑した。

「暗部へ戻ることを躊躇うのは『彼女』のせいか?」

その言葉に、今まで飄々と相手の言葉をかわしていた男の顔が強張る。
そうして、その強張りが消えた後には苦い顔が浮かび上がっていた。

「・・・・・・隠し事はできませんか。いつから知っていたんです?」
「さぁ・・・・・・だが、まさか君の監視者が君にたらされるとは思ってなかったよ。」
「たらされたのは私が先です。」
「まぁ、そういうことにしておこうか。」

ぎぃ、と重たい音がして、椅子に座る男が体重を預けたことがわかった。
苦い顔のまま、立っている男はそのゆっくりとした動作を見つめる。
深く皺が刻まれた顔はまだそこまで歳はいっていないというのに、随分と疲れたように見えた。

「_____暗部に戻らないのが彼女のためなら、君がまた私の傍に来たのも彼女のため・・・・・・か。
人は全くおかしな生き物だ。そう思わないかね。」
「そうですね・・・・・・」
「だが、私はそれでいいと思う。
胸の底から湧き上がる感情を、何も無理やり押し付ける必要はない、とね。」
「・・・・・・無理やり押し付けても、湧き上がってきてしまうんですよ。」
「ああ・・・・・・まったくだな・・・・・・」

椅子に身を沈めた男は身振りで退出を促す。
それに立っていた男は敬礼をすると、音を立てずに扉の外へと去っていった。

「・・・・・・そうだ、何度も何度も湧き上がってくるものなのだ____レノア・・・・・・」











『アンディ、貴方は自由よ。
私が自由を与えるわ。
だから、生き延びて。
貴方の信じる道にいつも、私がいるから。』

「わざわざ君が軍から逃れる方法を提示してくれたのになぁ・・・・・・」

男が一人、廊下を歩きながらそう呟く。
呑気な口調とは裏腹に、その動作には無駄がなく洗練されている。

「せっかく、逃げれた、のに・・・・・・」

爆破して何も残らなければ、きっと自分も戦死と報告されていた。
あの脱出ポットから救難信号を自分が出さなければ、皆に発見されることもなく、砂に隠れてきっとどこかへ逃げれた。
けれど、それをしなかったのは、やはり憎しみを抱いたからだ。
彼女を殺した、者へ・・・・・・
けれど_____

「でも、もう、決めたことだ。
アイシャ、僕は_____」










彼女は死んだのだ。
そう、言っていた。
けれど、自分は決して哀しいと思っていないんじゃないかと思う。
あんなに再会が嬉しかったのに。
きっと、あの人が泣かなかったからだと思う。
だって、あんなに仲が良かったのに・・・・・・部下の死を悲しむ彼が、彼女の死に泣かなかったから・・・・・・生きているのでは、と少しなりとも思う。

彼女が死んだといって、彼女と別れたときとどう違うかといえば、彼女と一生、本当に一生会えないことだ。
彼女が今頃きっと誰かと幸せになっているんだろう、と想像できないことだ。
けれど、結局、当分は彼女と会うわけはないし、彼女の未来を予想するよりは目の前のことに忙殺されて・・・・・・
なら、何が変わったというのだろうか。
こうして、冷静にものを考えて、相変わらず胸は苦しいけど、これはきっと心のことじゃない。何かの病気なのだ。
だって、泣けないんだ。
泣きたいはずなのに、泣いてもいいはずなのに、泣くべきなのに_____
泣けないんだ。
親しい人が亡くなった。
それも戦場で。
それもついさっきまで会話をしていたのに。
それなのに、それなのに、自分はその呆気無さに驚くばかりで、彼の表情を伺うばかりで。
どうして悲しまないんだろう。
どうして哀しくないのだろう。

『パトリック・ザラのPCをハッキングして重大機密ファイルを取り出せ。』

ああ、また任務なんだ。きっと。
だから、彼女は傍にいない。
最後の、任務なんだ・・・・・・

最後の一歩が踏み出せない。





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05.5.12
あとがき
題名はパトリックのためでもあり、虎のためでもキラのためでもシンのためでもありました。
確かパトリックの妻はレノアという名前でよかったと思うのですが・・・・・・もし間違っていたら掲示板かメールかで指摘してやってください。(汗
ここらへんはちょっとした謎??というか、含みを持たせたので、あまりコメントいうとネタバレして面白くないかな〜と思いつつ・・・・・・次回、キラやケイサイドにまた戻ります。