ドォン!
一際大きい爆発音がして、キラは振り返る。
見覚えのある色の破片がキラキラと太陽光線を反射して砂漠の砂へと散っていった。
「アンディさんっアイシャさんっ___」
何かが、キラの中で疼いた。
見えるのは、恩師と仰ぐ人たちの機体の屑。
「あ・・・・・・ああ・・・・・・」
くしゃり、とキラの顔が歪む。
だが、ふとセンサーが砂漠の中からの救難信号に反応した。
「!・・・・・・生きている?」
乾いた闇
結局脚付きはそのまま逃し、虎の連勝記録は途切れた。
しかし、レジスタンスもかなりの打撃を被い、結果としては、両者の力が弱まっただけで均衡状態は改善されていない。
レジスタンスは引き際がよく、脚付きが逃げられたのを見ると、砂による煙幕を利用して引いた。
虎としてはしてやられた、という他ないのかもしれない。
「まいったね。仕切りなおしだ。」
右腕のダコスタと幹部の数人、そしてクルーゼ隊がアンドリューの前に集まっていた。他は後始末をしている。
ポットから這い出たアンドリューはいつもと変わらぬ笑みで皆を迎えた。
そこには悲しみも怒りもなく、ただ、冷静な指揮官の顔があった。
「アイシャは不本意なことに俺のラゴゥと爆発。
そのことは俺から本部へ連絡する。
今は後始末優先だな。」
淡々と指示していくアンドリューに、ダコスタと幹部は少しだけ戸惑ったような顔を見せた。
それに気づいたアンドリューが苦笑していると、そこでクルーゼが声をかけた。
アンドリューと同じ、淡々とした何も感情のこもらない声だった。
「バルドフェルド隊長、我々はこのまま脚付きを追うようにとの命令が先ほど届きました。
力添えできずに申し訳ないが、我々は先を急がなければなりません。
誠に勝手ながら、挨拶はこれにて簡略させて頂き、我々は行きます。
私の部下へのご指導ありがとうございました。」
「そうですか。
未来のエリートたちの役に少しでも立てたのなら光栄ですよ。
後始末も指導としては非常にいい経験だと思うのですが、上からの命令では仕方ないですね。」
さりげない棘が混ざる言葉を吐くアンドリューにイザークが少し顔を歪ませたが、何も言わなかった。
クルーゼは隊員に手で乗艦するように合図する。
クルーゼが背を向けたところでダコスタたちが眉をひそめると、アンドリューは肩をすくめた。
ニコルやアスラン、イザーク、ディアッカと次々と機体に乗り、戦艦に向かう中、キラはアンドリューを振り返った。
「どうした?キラ。
さっさと行かないと乗り遅れるぞ。」
いつも通りの言葉。
いつも通りの口調。
いつも通りの表情。
けれど______
キラは何かいいかけて、けれど何も言えずに俯いた。
けれどすぐに顔を上げて、アンドリューを見つめる。
まるでアンドリューの中の悲しみを見つけるかのように。
そんなキラを避けるかのように、アンドリューは目をそらして、軽そうに言った。
「キラ、そういえば、お前にアイシャから伝言だ。
あいつの手はお前に重なっているらしいぞ。」
「・・・・・・」
その言葉に、少し救われた気がするのはきっと、自分だけではない。
だけど、目の前の人はそれすらも自己嫌悪のもとにしてしまうのだろう。
そんな人だから、彼女はこの人を庇ったのだと、キラは思う。
「______それでも、僕は、貴方が生きていることに感謝しているんです。」
どんなにこの言葉が貴方を傷つけるとわかっていても、生きていて欲しいから。
はっとしたようにキラに視線を戻したアンドリューの瞳を見つめた。
乾いた砂風が二人の髪をかき上げたが、視線は逸らされることはなかった。
去っていくストライクを見ながら、一人がじっと佇むアンドリューに声をかけた。
「隊長。」
「お前ら、さっさといつもの作業に戻れ。」
その言葉に皆戻って言ったが、ダコスタだけがそんなアンドリューに違和感を覚える。
どうしたのだろう、と彼の顔を覗き込もうとすると、自然にアンドリューの顔は逸らされた。
「隊長?」
「・・・・・・察しが良過ぎるのも考えものだな。
今は、少しだけ・・・・・・独りにしてくれ・・・・・・」
「はい・・・・・・」
ざ、ざ、と去っていく音を聞きながら、アンドリューは額に手を当てた。
顎を伝っていたものが、乾いた砂漠に音もなく染み込んだ。
湿り気のない砂漠ではすぐにそれは乾いて、何も遺さない。
何も遺らなくていい。
乾いていけばいい。
湿っぽいのは似合わない。
ただ、願わくは君の思い出が乾くことがないように
「まだ、君の元に逝けそうにないよ。
アイシャ・・・・・・待っていてくれるかい・・・・・・」
憎んでいる。
けれど、前の嫌悪感は不思議となくなっていた。
彼も傷ついているとわかってから。
「あの女の人と仲、良かったんでしょう?」
最後に乗り込んできたキラに、シンはそう声をかけた。
またこいつ、と睨むイザークに気づかないまま、シンは言葉を紡ぐ。
「泣かないんですか。」
「・・・・・・」
「怒らないんですか。」
「・・・・・・」
キラは答えない。
ただ、自嘲ともとれる微かな笑みがその口元に浮かんでいた。
シンはいらいらと髪をむしって怒鳴った。
「叫べばいいじゃないですか!
怒ればいいじゃないですか!貴方にはその権利がある!
罵ればいいっっ泣けばいいっっ____っそうすればっいいじゃないですかっっ!」
哀しみを静かに堪える彼に無性に腹が立った。
何故、叫ばないのか。
「・・・・・・君のように、叫べ、と?」
抑揚のない言葉がキラの口から出た。
普段の柔らかな口調との差が、その言葉をより鋭くさせた。
けれど、感情の高ぶったシンはそんなものおかまいなしに叫んだ。
一体何が気に入らないというのか、周りが困惑する中で。
「だって、俺が叫び続けなきゃ、マユや父さんや母さんが死んだ意味がないじゃないか・・・・・・
誰も、気にしなくなってしまうじゃないか!
俺が叫ばなきゃ・・・・・・無い事になってしまうじゃないか・・・・・・」
シンがキラの胸倉をつかんだ。
それに反応したイザークとアスランをニコルとディアッカが止める。
シンの瞳が真っ赤に燃え上がった。
「あんたみたいに、そうやって哀しみに堪えるだけだなんて_____っ
それでいいのかよ?!
それで戦争がよくなるのかよ?!
そうやって堪えて堪え抜いて何かよくなるのかよ?!
誰にもその悲しみを伝えられない!誰もその哀しみをわからない!
それで、一体何が変わるっていうんだ?!
誰かにその哀しみを苦しみを痛みを辛さを伝えなけりゃ____っっ」
どうして、そうやってただ、哀しそうに微笑するんだ!
どうして、何も言葉を叩きつけない!
哀しいのだろう?!悔しいのだろう?!憎いのだろう?!
シンの胸倉を掴んでいた手の力が目に見えて弱った。
「そうしなけりゃっっ____っあんまりじゃないか・・・・・・
あんまりだ・・・・・・あんただけが堪えるなんて・・・・・・あんただけがっっどうしてっっっ
だってっそうしなきゃ、誰もあんたの哀しみをわからないじゃないかっっ
そんなの、だめだっ」
まるで、縋るように、シンはキラの胸元の軍服を掴む。
キラの肩に、俯いたシンの前髪がさらさらとあたった。
囁くように言いつづける。
「だめだ・・・だめだ・・・・・・そんなの・・・・・・」
キラは何も言わない。
哀しそうな瞳が、シンの頭を黙って見ていた。
「シン・・・・・・僕は・・・・・・」
シンはがば、と決心したように顔を上げて、必死に訴える。
「誰もっっ誰もっっ誰も失ったものの哀しみを訴えなきゃ、なかったことになる!
あんたの哀しみもっ
それはだめだっ
戦争でどれほど傷ついたか、伝えなかったらっ戦争の悲惨さを、体験しなかったものはわからないっ
そうしてまた、無駄な争いが続くだけじゃないのか?!」
不器用な、伝え方。
けれど、そこにいた誰もが、シンを鼻で笑いはしなかった。
その思いが痛いほど伝わったから。
励ましたい思いと、まだ燻る思いと。
「・・・・・・ありがとう、シン。」
キラがそう言えば、そうじゃない、とシンは首を振った。
首を振りながら、けれど、これ以上何もいえることはなかった。
一番悲しんでいるのは他でもないキラだったから。
そして、彼が一番静かだから。
首を振って、少しの否定と、少しの思いを。
ああ、違うんだ、シン
僕は、ただ、泣けないんだ
あの人が泣かないから
なんだか、胸が苦しくて
違うんだ
叫べないんだ
だって、何を叫べばいいのか_____僕にはわからないから
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05.4.28
あとがき
ちょぉお〜っと飛びすぎたでしょうか。
うう〜ん。難しいです。若輩者の私には雰囲気をこうかもし出すのが難しく、そしてシーンをどこで切ればいいのかわからない。
えーと、とりあえず砂漠編はこれにて終了です。
おつきあいありがとうございました。今度はオーブ編かな?
カガリが本格的に登場。ケイもガンガン暴れる予定です。(なにそれ;)