「あ〜あ、なんで酒なんか許可したのかしら。
酒くさいし!士気に問題が出るし!最低!!」
「仮にも『砂漠の虎』と呼ばれる人だ。何か考えがあるんだろう。」
「あ〜それにしてもっなんでアスランさんいないんだろ〜?」
折角のレイの返答もルナマリアには雑音にしか聞こえないようだった。
というよりは、後半の言葉が本音なのだろう。
この機会に少しでも接近を、と。
「だったらこんなところにいないで探して来いよ。」
「散々探したから言ってんでしょ?!
さすがに部屋まで見るのはおこがましいし〜。」
ああ、私って結構健気じゃない??というルナマリアにシンは気のない返事をした。
今はあまりそういうことに興味はない。
レイはルナマリアの犠牲にならないように部屋を出ようとしたが、それを察したルナマリアに裾をつかまれて、逆にがっちりと捕まってしまう。
それを見ながら、自分が身代わりになってやるとは口が裂けても言えないシンは密かにレイに同情しただけだった。
ルナマリアが色々と今までのアプローチをレイにぶちまけている間にシンは窓の外を見た。
そこには昼とは違った砂漠が在る。だが、シンは生憎と文学的な才能はなく、それを見て砂漠は人生の云々と考えることはない。そしてその風景に感動するわけでもなく、その視線を下へと向けた。
「・・・・・・あ・・・・・・」
ある二人組みがシンの目を引いた。
(ラクス・クラインと、あの人_____キラ・ヤマト・・・・・・)
焦がれた闇
「送りますよ。」
「・・・・・・大丈夫ですわ。」
「だめですよ。さっきので懲りたでしょう?」
「・・・・・・」
キラは無言になったラクスの肩を叩いて、促した。
どこがラクスの部屋なのかは知らないが、なんとなくここにいるのも気が引けて、どこともなく歩き出す。
その後ろを少し離れてラクスがついてきているのが気配からわかった。
「・・・・・・何故、一人だったんですか?」
「え?」
「何故、護衛もつけず、一人であんな危ないところを歩いていたんですか?」
その口調はキラには珍しく少々責める様なものだった。
けれど、キラはどうしようもなかった。ただの疑問だったそれは彼女の危機感のなさを責める言葉にかわった。
何かわからない苛立ちがキラの中に生まれていたのだ。
おそらくそれはラクスに対してではない。
(どうして僕はあんなことを言ってしまったんだろう。
彼らだって、苦しくて辛くて仕方なかったのに。
彼女を助けるためとはいえ、もっと、他にいいようがあったんじゃないだろうか。
_____どこにも、行き場のない思いが、『ここ』にはたくさん詰まっている・・・・・・)
それをどうにかしたくて、けれどどうしようも出来ない自分がいる。
あんなに偉そうなことをいったのに、結局何も出来ない自分がいる。
キラの眼には廊下の無機質な壁がひどく冷たく、何者をも拒絶しているかのように思えた。
『ここ』には何も、心を癒すものはない。
否、心を癒すものが心を傷つけるものに負けているのだ。
「・・・・・・私は皆さんの身近にありたいと、そう思っているのです。
できれば、身近で、そう、一時でも家族のような関係になれれば、と。」
「・・・・・・」
無理なことは互いにわかっていた。
けれど、望むことは決して悪いことではないとわかっていた。
しばらくの沈黙の後、キラがぽつりと呟く。
「・・・・・・だけど、貴方が傷ついたりでもしたら、家族とか、ファンとか、他にも色々な___貴方に希望を貰った人が悲しむんじゃないんですか?」
そう言えば、ラクスは複雑な表情で笑った。
嬉しいような哀しいような、苦しいような、けれどそれを面に出せないような_____
それを見た瞬間、キラは自分が言ったことを激しく後悔した。
「私は・・・・・・私は・・・・・・きちんと・・・・・・慰めてあげられているのでしょうか。
時々、わからなくなるんです・・・・・・ああやって私を見てくれる人たちは私の肩書きを・・・・・・見ているのか、それともちゃんと私自身を見てくれているのか・・・・・・」
肩書きとはおそらくラクスの父が議会委員だということだろう。
しかも穏健派の第一人者である。
その娘が慰霊団代表とは、何ともはまり役であることは確かだ。
「私は、ただ、彼らに歌を・・・・・・それしかできないから。私は・・・・・・」
慰霊団代表、そう言いながらも戦争の実際の体験は無い。
死を悼むのは病死の人の死を悼むのと同様にしかできない。
それでいいのかもしれない。人の死に優劣などつけられないのだから。
けれど、戦争で死んでいくのは何か違う気がするのは気のせいか。
自分は出来ることをしているといいながら、本当は何も出来ていないのでは無いか。
歌を歌う、そんなことよりも戦ったほうがいいのだろうか。
でも、人を傷つけて勝つなど、したくなかった。
「私は・・・・・・私・・・・・・」
怖いんです。
最後の言葉だけはなんとか飲み込む。
だって、戦場に身を置く人に自分がこんなことを言う資格なんてないから。
さっき言ったように明日にでも死んでしまいそうな人たちにそんなことを言うことはできないから。
けれど、怖い。
怖くて堪らない。
戦争によって原型も留めない死体だとか、恐怖を浮べた表情の死体だとか。すがり付いてくる手だとか。
その現実を目の当たりにして、身体がすくんだ。
それなのに、どうして、こうやってここにいるんだろう、と思う。
こんな気持ちを持ったまま、こうやって慰めて、その言葉に一体どれほどの効果があるのだろう。
どれほどからっぽの言葉をかければいいのだろう。
「・・・・・・すみません、私、今日は慣れないことがありましたので、混乱しているみたいですわ。
申し訳ございません。貴方に・・・・・・」
今日初めて会った貴方に____そう言おうとして、ラクスの口が止まる。
不自然に止まった言葉に、キラが不思議そうな、心配そうな顔を向けてきた。
初めて、ではない。
けれど、キラは知らない。
あの墓場での思い出は何故かラクスにとって侵し難い聖域になりつつあった。
『ラクス・クライン』という肩書きなしに、歌を歌った。
ただ素直に彼の悲しみをとってあげたいと思った。
だから_____初めて、と言いたい。
けれど、知っていても欲しい。
あのとき、出会ったのだ、と。
あのとき、あの少年は自分だったのだ、と。
少しでも彼の心に残りたいから。
そこまで思いをめぐらせて、ラクスははっとした。
「・・・・・・わ、私・・・・・・」
何を、言ってしまっているんだろう。
けれど、弱音を吐いてしまった羞恥よりも、今気付いた気持ちにラクスは動揺した。
わけのわからない恥ずかしさでいっぱいになる。
「?どうしたの?顔赤いけど・・・・・・風邪でも引いたかな?砂漠の夜は寒いから。」
そう言うと、キラは自分の軍服の上着を脱いでラクスの肩にふわりとかけた。
ついでに少し混乱しているようなラクスに安心させるようににっこりと笑いかける。
その微笑みはゆっくりと花が咲いていくような、そんな穏やかで綺麗なものだった。
不意に何故だか胸が苦しくなって、ラクスはキラから顔をそむけた。
(・・・・・・泣きたく、なります・・・・・・そんな顔で笑われると・・・・・・)
ラクスはそむけた後に唇を噛みしめて涙を堪える。
それにキラはちょっと困ったような表情をした。もちろんラクスにはそんなことわからないが。
「えっと・・・・・・あの、僕のこと嫌っているみたいで悪いんだけど、君の部屋ってどこかな?
実は適当に歩いていたから・・・・・・」
嫌われた、と勝手に解釈したキラはそれでも送ることだけはしなくては、と義務を感じたが、まぬけなことに彼女の部屋がわからない。
「・・・・・・もう、大丈夫、ですから・・・・・・」
俯いてそう言うラクスの声にはいつもより覇気が感じられない。
やはり機嫌を損ねたのか、先ほどの恐怖が蘇ったのか・・・・・・だがそんな兆候を見なかったキラは小首を傾げた。
パーティー場から離れたとはいえ、やはり夜だし、女の子一人では、とキラはそこは譲らない。
「だめだよ。危ないから、送る。」
ラクスはその声が揺るぎないことを聞き取ると、では、お願いしますわ、と小さく呟いた。
顔の火照りはまだ治まらない。
心拍数も上がってきたようだった。
「じゃあ、僕はこれで・・・・・・」
いつの間に着いてしまったのだろう。
ラクスはいまいち時間感覚が鈍ったようだった。
あれから火照りはとれたが、心拍数は一向に元に戻らずに、両肩と背中に彼の軍服のぬくもりを感じて歩き続けた。
隣で気遣うようにキラが何事かを話していたが、自分はそれに差し当たりのない言葉を返していたように思う。
ラクスの部屋の前で、キラは踵を返した。
ラクスの部屋の近くには護衛も控えており、もう大丈夫だろうと思ったからだ。
だが、踵を返したキラの軍服の裾を、ラクスは思わず掴んだ。
「え?」
不思議そうにキラがこちらを向く。
ラクスは自分の行動にびっくりしていたが、掴んだ手は離れない。
「あ、あの・・・・・・軍服、ありがとうございました。温かかったですわ・・・・・・」
ぎこちなく感謝を述べると、キラは笑っていいよ、そんなの、と言った。
そして再び背中を向けようとする。
反射的に、ラクスは言った。
「あのっ前っ会ったこと______っっ」
自分のその言葉にラクスは己はキラの特別になりたいのだと、確信した。
否、きっとずっとそう思っていた。
きっとずっと、言いたかった。
貴方と会えたのはきっと、必然です、と。
馬鹿みたいな、言葉だと知っていても。
『そんなことないよ。君の歌声ってすごいいいと思う。月並みな表現で申し訳ないけど。
でもね、すごく、癒されるんだ。す、って心の中の濁りが水に流されるような・・・・・・
_____僕にもそんな能力が欲しかった・・・・・・』
貴方は素直に感想を口にしただけでも、私は、とても、嬉しかったんです・・・・・・
とても、嬉しかったんです・・・・・・・
「何?明日どこかへ行くの?」
そこはレジスタンスの基地のひとつ。
脚付がレジスタンスについたことで少し彼らに余裕ができたのか、いつもより空気は和んでいた。
話に割り込んできた少年に、会話をしていた少年は睨みをきかせる。
「お前には関係ない。」
「つれないね。一緒に戦う同士だってのに。
買い出しなら一緒に行こうぜ。俺たちも必要だからさ。」
そう言って、幾分か自分より低い肩に馴れ馴れしく手を乗せた少年は人懐っこく笑った。
そうするといつもはどこかつかめない飄々とした雰囲気が薄れ、その切れ長の黒瞳はいつもの鋭さを鈍らせた。
「・・・・・・買い出しにも行くが、他にも用事がある。なるべくなら一緒に行動したくない。」
「_____協力者だね。」
ぼそり、とケイは呟いた。
少年と少年と会話をしていた少女がいっせいに顔を強張らせた。わかりやすい。
「会わせてよ。」
ケイは先ほどの柔らかな笑みを消し、いつもの得体の知れない鋭い瞳を向けた。
口元の笑みは拒絶を許さない。
少年は少女を庇うようにして、ケイを睨みつけた。
それを面白そうにケイは見て、眼を眇めた。
だが、それにも飽きたのか、視線を遠くへ送る。
誰にも聞こえないように、そっと口の中で呟く。
「・・・・・・ずっと、このときを、待ってたんだから・・・・・・」
ずっと遠くに見える砂吹雪が、そこ一帯を覆い尽くす。
まるでそこを飲み込んでしまったかのように。
その先を見たいと思う。
きっと望む者が待っているんだろう。
自分は、この時を、ずっと、『あのとき』から待っていた_____
彼に、焦がれていた______どうしようもなく____
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05.2.27
あとがき
長いよ!キラ←ラク!!でも、結構好きなCPなので・・・・・・笑。
やっとケイ出てきます。やっと話が進みます。