ちっぽけな人間。
自然の前では何をもってしても無力な人間。
例えば、そう____砂漠。
砂塵が目に入って、目を抑える。
風が吹いてくる方向に背中を向ける。
砂風は気まぐれに方向をよく変えるから、人もよく方向を変える。
それを見ると、踊りたくも無いダンスを人が知らず知らず砂に踊らされているようで面白い。
それに翻弄されている人を見ると、自分だって外に出ればその人の二の舞であるのだが、なんとなく馬鹿らしく見えてしょうがない。
砂漠は生物に対して厳しい。
昼は焼けるように暑いのに、夜は昼間が嘘みたいに凍えるくらい寒くなる。
生きていく上で必要なものは与えてくれない。
不必要な、例えば蜃気楼のようなものは与えるのに。
じりじりと肌に焼鏝を当てるような暑さは水分を容赦なく吸い取り、張り付く砂は汗と混じってその感触を不快にさせる。
かつて、連れてきた少年は言った。
紫の綺麗な瞳を見開いて、砂嵐を見据えた。
まるでこれから戦う敵のように。
「砂漠は嫌いです」
「何故?」
「嫌でも孤独を感じさせるから。」
「俺は好きなんだけどなぁ。あの広大な砂の中に立つと、自分がいかに小さいかわかる。
そして、まだまだうぬぼれるには遠いと戒めてくれるのさ。」
待ち望む闇
「レジスタンスと?」
「ああ。そうだ。脚付はレジスタンスと手を組んだらしい。
まぁ、正確にはレジスタンスがこれ幸いと脚付と組んだのかもしれないがな。
どちらにせよ、厄介なことになったのには間違いない。」
休憩の合間に、状況説明のためにアンドリューは8人を呼びつけた。
スクリーンが静かに垂れ下がってきて、そこに砂漠の勢力図などが出る。
イザークがそれを聞いて、眉を顰め、こう言った。
「砂漠のレジスタンスは数が多いし、砂漠を知り尽くして色々と基地があると聞く。」
「そうそう。しかも、レジスタンスは上級階級に援助されている。
上級階級すべてがそういうわけではないが、いるのは確かだ。でなければ、あんな武器や情報を集められるわけがない。全く、厄介だ。
上級階級を隠れ蓑にして、絶対に繋がりをばらさない。
強制調査でもしてむやみやたらに彼らを怒らすのは得では無いな。」
ここらへんは自然信仰が多いせいか、確かにコーディネーターを嫌う人数は多い。
それに加えて、宇宙にいるコーディネーターが砂漠に慣れるのには時間がかかるために、ここは激戦区となっていたのだろう。
アンドリューが来てからは、レジスタンスもその力を垣間見て多少大人しくなった。慎重になったということかもしれないが。
「とりあえず、砂漠でモビルスーツ戦でもしてみろ。演習だと思って。
砂漠に慣れてくれないと、戦闘で役に立たないからな。まぁ、あまり当てにしてないけどね。」
最後に嫌味ともとれる言葉を言って、アンドリューは去っていった。
あ、そうそう、キラくんはアイシャのところでプログラム手伝ってね〜とひらひらと手を振りながら言うのも忘れない。
「砂漠の演習は?!」
「慣れてるだろ。」
アンドリューの背中に叫んだキラにさらりと答えが返る。
その態度にキラは眉根を寄せて、アンドリューを追った。
「アンディさん、僕との、その・・・・・・関係がばれるのはまずいんじゃないですか?」
「なんか、そうひそひそ言われると本当にやばい関係に思えてくるなぁ。」
冗談交じりにそう言えば、キラのにらみがとんでくる。
おお、こわ、と全く怖くなさそうに言えば、キラが頬を膨らますのが見えた。
本当に変わってなくてアンドリューはひっそりと笑う。
「別に俺は特別だとばれてもいいんだ。いい牽制になるし。
___てか、とっくに結構察してる奴もいるし。」
「は?」
「地域に根ざしたレジスタンス相手だとどうしても長期戦になる。
そのせいで、砂漠の連中っていうのは結構荒れたやつらが多いんだよ。」
「へぇ・・・・・・それで?」
「君は狼の群れに放り込まれた羊というわけだ。」
「・・・・・・」
言っている意味がわからないわけではない。
同じようなことを前にクルーゼにも言われたからだ。
だが、いくら細身といっても、鍛えていて、戦術も習ったキラはそれ相応の対処も出来るつもりだ。
軍人としての自覚というものが多少なりともあるキラが面白くなくなるのも当然だろう。
だが、その狼も訓練された兵士なのだから仕方ないのかもしれない。
「あ、そうそう羊といえば・・・・・・慰霊団が今夜来るんだったな。」
「らしいですね。」
「癒されるだけならいいんだけどね〜厄介なことにならないといいんだが。
今は脚付も居て、結構緊張状態だからね。戦意を高めるためってならいいんだが・・・・・・慰霊団とはね・・・・・・まぁ、君も念のため見張っといてよ。暇な時でいいから。」
「羊の僕がですか?」
「ん?そんなに気に障ったか?」
にやにやと笑うアンドリューにキラは肘鉄を軽く食らわせるが、その腹筋で覆われた腹には痛くもかゆくもないものだった。
「それに僕、砂漠に慣れてませんよ?」
あてつけにもならないが、キラは一応まだ反抗を試みる。
だが、それもやはり年の功かアンドリューには全く回答に苦労しないものだった。
「俺としては砂漠戦をいきなりして、戦い中に砂漠との接圧とか運動プログラムをいきなり組んで戦いまくった君に慣れてないなんていわれたくないな。
覚えてる?ザクだったくせに相手全滅させたの。
『砂漠』に慣れてる、というか、君は『土壇場』に慣れているからどこでも大丈夫だと思ったのさ。」
それが君の強みだね、と言われて、いきなり褒めるなんて卑怯だ、と思いながらも怒りをおさめたキラだった。
だが、それからアンドリューが真面目な顔をして言った。
窓の外の、どこか遠くを見ているようだった。
「そういえば、君達がちょうど来る前夜にね、俺たちは一度脚付に仕掛けた。
あのガンダムに乗っている奴は只者じゃないな。
それこそ砂漠に慣れている。君のように咄嗟にしたものじゃない。
そこは経験の差だな・・・・・・一体どんな軍人なのか会ってみたい気がするよ。
あそこまで速くバグーを葬り去れるとは・・・・・・」
「敵の情報というか、貴方の趣味ですよね、そういうの・・・・・・」
キラが呆れたように言った。
「慰霊団って・・・・・・ラクス・クラインが率いるアレのことだったのか。」
隣でディアッカがそう言った。
その視線の先には挨拶するラクスの姿がある。
今は慰霊団の式の真っ最中だった。
その後、ラクスの歌が流れ、ちょっとしたご馳走が出る予定である。
今は緊張体勢のためにあまりハメを外せないのだが、慰霊団が到着したのを機に、日頃ストレスをためている兵士達にちょっとしたご褒美をあげようとのことだった。
「脚付とレジスタンスが繋がったというのに、これか・・・・・・」
「逆に言えば、きちんと攻めて来ないっていう情報を持っているからしてんだろ。」
イザークがため息を吐けば、ディアッカが皮肉まじりにそう言った。
その隣ではアスランがどこか落ち着かなさそうにきょろきょろしている。
アスランの隣にいたニコルはキラがいた場所を見て、その理由を察した。
いつの間にかキラがいなくなってしまっているのだ。それでアスランが気にして周りを見渡しているのだろう。それにしても、自分達に気付かれることなくここから人ごみに紛れたというのは・・・・・・自分達が未熟なのか、それともキラが優秀なのか。
慰霊団が来て、いつもより随分と緩んだ様子の軍内。
式典の真っ最中の今は広場にほとんどがいて、中は手薄だ。
そのことが全くの偶然ではないことを知る男は薄ら笑いを口元に乗せて、隊長室へと忍び込む。
コーヒー器具や書類が散乱している机には見向きも出ずに、金属探知機を取り出して、何かを探しているようだった。
時折金属探知機が紅く点滅し、そこを探り、原因を見つけるとまたもとに戻す。それをずっと繰り返している。探す、というよりは調査かもしれない。
一通り部屋を探り終えてから、男はPCへと向かい、慎重にそれを操る。
だが、目的のものには何重ものロックがかかり、今すぐに取れそうなものではない。
男は一旦諦めたかのように見えたが、懐から何かのディスクを取り出し、PCに差し込む。そうすると見る見るうちに半分以上のロックが自動解除された。
男は満足そうに笑むと後のロックを外す作業にとりかかった。まだ時間はたっぷりある。
さらり、と少しくせのある金髪が一房、まとめた髪から零れた。
「クルーゼ隊長?」
すべてをやり遂げた瞬間、ドアが開き、参上者の一声が放たれた。
クルーゼは聞き覚えのある声にゆっくりと振り向き、口元を弧に描いた。
そこにいたのは予想通り、この部屋の主の教え子でもあり、自分の部下でもある紫電の瞳を持つ少年。
「・・・・・・バルドフェルド隊長に頼まれたのかね?」
「え、いえ・・・・・・はい。」
眼の前の男を騙すには自分はまだまだ経験が浅いと知るキラは正直に告げた。
だが、キラはアンドリューが何のために自分をここに寄越したのかも実はわかっていない。
ただ、総指揮官である自分が慰霊式を外すのはまずいから、お前がちょっと部屋で『鍵』を取ってきてくれ、といわれたのだ。何の鍵かも知らなかったが、部屋に入ればわかると言うので机の上にでも置いてあるのかと思い、気軽に抜けてきた。
部屋が閉まっているのには大して疑問は持たなかった。
部屋の鍵を渡されていたから。
だが、何故アンドリューの部屋に電気もつけずにクルーゼがいたのかという答えはキラには知れない。
「さすが、と褒めるべきなのか、自分の失態だと怒ってみせるべきなのか迷うな。」
「は?」
キラは知らないが、要はクルーゼの今回の砂漠での任務はコレなのだ。
任務は極秘で、キラたちにも言ったように脚付とレジスタンスのことではなく、アンドリューの身辺調査だった。
アンドリューは元暗部であり、その抜け方は異例。念のため、と監視者までつけてあるが、その監視者が言葉巧みに騙されていることもありえる。
そこまで危惧されるほどアンドリューが有能だったということだろう。また、監視者と組んで人質が逃げ出したりしても困る。
そこで今回クルーゼに身辺調査を行わせることにしたのだ。まだアンドリューは砂漠へ来て一年弱。
そこまで早く監視者をたらしこむことなどできない。監視者とて一流の暗部なのだから。
クルーゼの今回の任務は反旗を翻す準備をしていないか、逃げる準備をしていないか、監視者との関係、他との繋がり、そしてアンドリューへの警告でもある。
こうしてクルーゼを寄越すことそのもので警告を発しているのだ。
ここまで手間ひまをかけるのはおそらくは議会で決まったことではない。一人の暗部にここまでするなら殺したほうが早いからだ。よって、この手間ひまはおそらくパトリック・ザラの独断。
そこまでを察した上でアンドリューはクルーゼも気に入っているキラを使って、また牽制をしかけたわけだ。
わかっている、と。
「まぁ、いい。何をしに来たのだね。」
「え?えと・・・・・・鍵を・・・・・・」
「・・・・・・ああ、『鍵』ならば私が渡しておこう。さぁ、出ようか。」
クルーゼはアンドリューと直面することを決意し、キラに退出を促す。
キラはおそらく疑問を持っているだろうがそれをみだりに他に漏らしたりはしないだろう。アンドリュー以外には。
それをわかってのアンドリューの作戦だ。否、もしかしたら一応自分にも情けをかけてくれているのかもしれない。
そう思うと余計に腹立たしい。
もしかしたら、自分がキラに八つ当たりできないこともまた、計算づくなのかもしれない。
いつの間に、こんなに大切に思うようになったのか。
大して時間は経っていないのに。
最初は確かに興味はあった。
だが、今は興味の上に庇護欲が被さっている。
恋愛とは違う。きっと・・・・・・
ただ、その純粋さに、透明さに、惹かれているのだ。
そして、その先を見たいと、そう思っているのだ。
真相を知って、どこまで純粋であれるのかを____
「キラ」
暗い部屋を出る際に、少しだけ悪戯を仕掛けてみる。
知らずと言えど、やっぱりやられっぱなしは面白くない。
振り返ったところで、クルーゼはその唇に軽くキスをした。
「?!」
キラの瞳が見開かれ、驚いてその身体が後ろに飛びずさる。
そのイイ反応にクルーゼは目を細めて言った。
「バルドフェルド隊長と会ってくるよ。君はもう戻った方がいい。」
大分星の位置が変わっている。
キラが戻る頃には式はすでに終わり、食事を済ませた兵士達は盛り上がっているグループとさっさと寝る、もしくは任務に戻る兵士のグループとに別れていた。
残っている方にアスランたちがいるかと思ってきたのだが、見当たらない。
キラは食事を一人で取るしかないようだ。
酒を飲んでいるグループの脇を通り、テーブルに近寄る。
だが、どうもあまりこの場所で食べる気にはなれない。
(・・・・・・部屋に何かあったかも・・・・・・なかったら、まぁ、朝食べればいいか・・・・・・)
そこまで食事に執着しないキラはそう思った瞬間に踵を返した。
しばらく行くと、外から何か声が聞こえた。
それはどう聞いても友好的なものに聞こえない。しかも兵士同士の喧嘩ならどうでもいいが、その中に女の子の声が混じっていれば事情は変わってくる。
つくづく今日は何かに出くわす日だと感じる。
キラはため息を吐いて足をそちらに向けた。
『厄介なことにならないといいんだが。
まぁ、君も念のため見張っといてよ。暇な時でいいから。』
いやでもアンドリューの声が耳をかすめ、キラは眉を顰めた。
そのうち、なんとも使い古された言葉がはっきりと聞こえてきた。
「なぁ〜歌で慰めるのもいいけど、俺らはもっといい違う慰めが欲しいなぁ」
「止めてください。
私は皆さんを歌で支えて差し上げたいとここに参りました。
私は歌人です。だから歌で私の出来る精一杯のことをやります。
歌以外にも少しは出来ることはあるけれど、あなた方の言うことは出来ません。
それは私にとっても、あなた方にとってもルール違反なのではないですか?」
沈黙が降りる。歌姫の声はさすがに発音もしっかりとしていて迫力があった。
男達の酔いが少々醒める。しかし、完全には醒めるはずもない。
突然開き直ったように三人のうちの一人が大げさに手を広げた。
「・・・・・・だって、明日には死んじまうかもしれないんだぜ?俺ら。」
「・・・・・・」
これには歌姫もうまく対応できない。戦場に身をおいたことのない者がどういえばいいのか。否、いえることなどないのかもしれない。
何も言えなくなった歌姫に調子に乗ったのか、酔いがさらに回り始めたのか男達は歌姫の手を強引に引っ張り出した。
「だからさぁ〜もう、ごちゃごちゃ言わずに楽しいことしようぜ〜」
「止めてください!」
酒臭い息が鼻をつき、ラクスは眉を寄せた。
しかし、振りほどこうにも、何も訓練をしていない女と訓練で鍛えられた男では全く勝負にならない。
それまで毅然としていたラクスもこれには焦りの色を浮べた。
「その手を離してください。」
冷たい声がしたと思った瞬間、ラクスを掴んでいた男が崩れた。
腹を押さえて崩れるところを見ると、鳩尾に拳を当てられたらしい。ずるずると力なくその男は床に這いつくばった。
男を倒したのは少年だった。それもまだ大人になりきれない、15、6歳くらいの華奢な少年だ。
外見からはとても軍人の男を倒すようには見えない。
鮮やかな紅の軍服を着た少年は男たちを見て言い放つ。
「彼女は殉職した兵士を悼むために、来てくださったということを忘れたんですか?
それなのに、あなた方はこの方の思いを裏切った。それも最低な形で。
そんなあなた方にこの方に触れる資格などありませんよ。
この荒れた戦場に来て、励ましを下さったこの方に感謝こそすれ、嫌がることを強制するなど軍人として恥ずかしくはないんですか?!」
そう言った後、キラは庇うようにラクスの前に立つ。
その紫電の瞳の眼力に一瞬兵士がひるむが、次の瞬間、反発を露わにする。
自分達よりも一回りくらい小さいキラに一瞬でも怯えたことに対しての訂正にも似たものだ。
自分を威嚇するようにその大きな胴体を反り返し、太い声で言い返す。
「んだとぉ?実戦経験もないエリートぼっちゃんに何がわかる!」
「あなた方の言い分はわからないけれど、実戦経験はあります。
あなた方は勝手に明日に失望し、励まして下さったこの方に甘えて暴行未遂を起こした。」
「だからなんだ!てめぇなんかっ俺たち下がいなけりゃ命令だって出来ないんだぜ!」
「そんな兵は軍隊にいらないんですよ。明日に絶望しているなら尻尾でもまいてここから逃げ出せばいい。負ける覚悟でも逸し報う覚悟ならいいけれど、あなた方のは違う。
そんな兵は要らないんです。嫌ならさっさとここを去ればいい。」
「なんだとぉっ」
血が上った兵士が少年に突っ込んでいく。少年はそれを冷静に見て、ひょいとわずかな動作で避けると、わき腹と背中に一発ずつ蹴りをいれた。男はうめきながらそこに崩れ落ちた。
はたから見てもその威力は凄まじく、あの華奢な身体のどこからそんな力が出ているのか首を傾げたくなるほどだ。
もう一人が、少年が着地するのを狙って拳を突き出す。少年はそれを空中で身体を捻り、避けると、その男の背中に踵落としをお見舞いした。
その威力とは裏腹に少年はまるでスポーツをするように力んでいないように見えた。
「あなた方は僕に怒るよりも先に彼女に謝るべきです。
彼女の気持ちを踏みにじり、台無しにした。そうでしょう。
あなた方のその躍起の行動は誰も救わないし、貴方方も救われない。」
淡々と述べるキラに男達はうめきのような唸りを発する。
だが、感情に任せて殴りかかった代償は大きく、男達は立ち上がることができない。
打たれた患部に手を当てて、僅かにキラに睨みを下からきかせるだけだ。
それにキラはわざと見下すように言った。その睨みがラクスにまで向かないように。
「彼女が歌ってくださったように、あなた方ははるか遠くにいる家族や恋人、友人に思いを馳せてみたらどうです?
それを虚しいと思うなら、あなた方は戦場に出ないほうがいい。
希望を持たない兵士に未来はもともとないんです。
大丈夫。僕が君たちの分まで戦って見せますよ。あなた方は戦い以外で出来ることをすればいい。
戦えないなら帰ればいい_____あなた方には帰るところがあるのだから。」
そう冷静に言う少年に表情はない。
けれど、最後の言葉にだけはどこか悲しみを耐えたような震えがあった。
「ここまで来て・・・・・・帰れるか。」
うめいていた兵士のひとりが苦しそうにそう言った。
その苦しみが患部からきているのか、それとも思いから来ているのかは察しようもない。
キラはその言葉に顔を少し緩めた。
膝をつき、視線を彼らに合わせる。
「あなた方は何故、ここにいるんです?
意地のため?」
酔いが早くも覚めてしまったかのように、男達はその言葉に真剣な顔になった。
これだけは、譲れない、と。
それだけでも、この人たちは信用に足るとキラは思う。
おそらくは死というものに慰霊式で向き合ったせいで悪酔いになってしまったのだろう。それを責める事はあまり良くなかったかもしれない。かといって見て見ぬフリもできるはずもないが。
「・・・・・・家族のためだ。少なくとも俺は。」
「俺だって・・・・・・このままじゃだめだと、同胞のためを思って」
「・・・・・・俺たちにだって、思うところぐらいある。説教たれんな。」
痛いところをつかれて、一人が不貞腐れたようにそう言った。
けれど、その表情は先ほどと違い、後悔か何か複雑な感情が混ざっている。
「あなた方と彼女、同じじゃないですか。
あなた方は自分の行為を否定されて怒った。
それならば、彼女の行為を否定したあなた方はどうして彼女の怒りを、哀しみをわからないんですか?」
男達は黙る。
砂漠の冷えた空気から酒気が消え、男達の体温をも下げた。
その冷気に僅かに震え、そして今まで舐めかかっていた、けれど今、諭した少年を転がった体勢のまま見上げた。
少年の姿は味気のない灰色の壁を背にしながら、けれどその姿はひどく印象に残った。
男が二人、砂漠を眺めていた。
月が茶褐色の髪と金色の髪を冴え冴えと映し出す。
「明日は買い出しに行きます。ここの指揮官は貴方ですから、報告を。」
「・・・・・・一人でですか。」
「ご察しの通りですよ。」
彼を待ち望む男を知っているんです。
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あとがき
強気キラ発動。(なんだそれは。)
慰霊団来て和むものか??と一人突っ込みしつつ(笑)まぁ、でも癒された、ということで。
ラクス登場。そして何気にキラ強い。虎仕込みの体術です。(笑)