「それでは、今回君達はアンドリュー・バルドフェルド隊長の指揮下に入る。
くれぐれも間違って私のところに来てくれるなよ。
私は他に任務があるからな。
だが、砂漠を出発したらいつもどおり私の指揮下だ。
以上、バルドフェルド隊長に失礼のないように。」




巡り会う闇






顔合わせをした際、僅かに表情を変えたものが一人。大きく表情を変えたものが一人。
キラは前者、シンは後者であり、アンドリュー・バルドフェルドを見て、シンは思わず叫んだ。

「お父さん!」

その顔は確かにシンが覚えている少女の父親だった。
だが、そんなことは知らないほかのメンバーは驚いた表情でシンを見る。
叫ばれた本人も目を見開いている。

「・・・・・・シンくん、僕には君のような大きな子供はいないはずだが・・・・・・」
「えっいやっ・・・・・・その・・・・・・」

シンは自分の口走った言葉に今更ながらに顔を赤らめて、ごにょごにょと謝った。
アンドリューの部下たちはそのシンの態度にあからさまに「子供だな」といった呆れた表情を露わにする。

もともとクルーゼ自身、周りの噂は良くなく、優秀だが規律を重んじる軍隊に置いて特別に仮面を許されていることで他の兵士から反感を買っている。あの子馬鹿にしたような言い草もおそらく他の兵士に嫌われる原因なのだろうが、本人はなんのその。それでも優秀な功績をあげるので周りは面白くない。
それに加えて、エリート隊という紅い服を纏った子供は一般の兵士にとって妬みの的だ。
二年も経てば、この子供の下に本格的につくことになってしまう。
いくら能力主義といっても、下手すれば自分の子供と同じくらいの年齢の上官となってしまう。それが気に入らないのだろう。いつの世にもあるエリートを妬む叩き上げだ。そしてここでも例外なくそれは行われ、エエリートは軟弱だという噂も広まっている。
そんな彼らがキラたちを歓迎するわけもなく、バルドフェルドの前ではそれなりに繕っているが、その視線は明らかに嫌悪のものだ。

「私の部下がご無礼を。謝罪します。バルドフェルド隊長。」
「いえ・・・・・・まぁ、僕の指揮下に入るっていうんだから、これから叩きなおしていきましょうかね。
ああ、クルーゼ隊長、貴方の部屋へはダコスタくんが案内を。
___よろしく、僕はアンドリュー・バルドフェルドだ。」

クルーゼがダコスタに案内されていくのを背に、アンドリューは丁寧に一人一人と握手をした。
それから全員を見渡して、にやり、と笑う。

「砂漠での戦いは君達のいい経験になると思う。
存分に励んでくれたまえ。」
「はいっ」













「アンディさん・・・・・・なんで砂漠なんかに?それにアイシャさんまで・・・・・・」
「『さん』は要らないといったのに、いつまで経ってもとらないな、キラ____久しぶりだ。」

執務室でコーヒーを片手に、アンドリューはそう言って笑った。
アイシャは副官で、アンドリューの傍らでにこやかに笑っている。

かつてアンドリューはキラへ半年間色々なことを仕込んだ。
戦術の師匠のようなものだ。
キラはパトリック・ザラに呼ばれてすぐにアンドリューに習うように言われた。

『君ならおそらく普通に行っても大丈夫だろうが、念のためだ。軍はそう甘くないからな。
君には一年、否、彼に半年習った後、残りの半年で士官学校を卒業してもらいたい。いいね?』

キラは知らないことだが、アンドリューは当時フェイス0____謂わば政府の裏、暗部である___の一員だった。
暗部を抜ける代わりとしてキラの教育係にされたのだ。もちろん、暗部を抜けるのは普通殉職であり、今回は特別の処置だった。謂わば、アスランと共にキラへの人質の意味もある。
半年後、ちょうど砂漠状況が悪化していたので、そこへとアンドリューは送り込まれた。
監視者のアイシャと共に。

アイシャは現役の暗部の一員で、プログラムなどソフト関係をキラに教え込んでいた。戦術はアンドリューで充分だが、プログラムなどの系統はアイシャが得意分野であったためだ。
そのために事情を知るアイシャをアンドリューの監視者とした。
情報を漏らさないように、また、反旗を翻さないように。
本当はアンドリューはキラへ教えこんだ後は抹殺される予定だったが、深刻な人手不足と人質の意味から監視をつけて使うこととなったのだ。
その点でアンドリューは運が良かった。
そして、監視者であるアイシャと恋人となったことがまた幸いだった。

「あの後、どうしたかなって、ずっと思ってました。
連絡したかったんですけど、本名も連絡先も知らないし、おじさんに聞いても教えてくれないし。」

そう言って嬉しそうに笑うキラにアイシャとアンドリューは目を細めた。
二人ともキラを気に入っていた。
戦争を知らない、平和に慣れた子供、そして戦争の渦へと飛び込んでいこうと決めた子供。
痛ましくもあり、羨ましくもあり、そして出来るならこのまま変わらずに生きて欲しいと思った。
優しく、思いやりのある子のままで、暴力も戦争も何も知らずに生きて欲しい、と_____

「それにしても偶然だね〜。あのシンって子。」

がらりと表情を変えて、口元を上げてアンドリューは言った。
それにキラはわからない、というように小首を傾げる。
シンが何かしただろうか。

「え?」
「なんだ、まだ気付いていないのか?
確かに成長したけど・・・・・・ほら、ディン国で君が咄嗟に助けた子さ。
妹と一緒にさ。」

アンドリューがそう言った後、アイシャが隣でまぁ、そうなの?運命ね、などと言っている。
言われた言葉にキラは目を丸くした。
だが、なかなか反応が起こらない。それをアンドリューは横目で見ながらコーヒーをすすった。

「・・・・・・あ!あの子!えぇええ?!シン?!」
「・・・・・・相変わらずだな、キラ。
まぁ、キラは女装していたからシンくんはわからないだろうが。瞳の色とかも多少変えていたからな。」

アイシャとアンドリューが肩をすくめた。
だが、その瞳には変わっていないキラへの愛情が表れていた。
キラはその眼の前でぶつぶつと、言われて見れば・・・・・・とか、色々と忙しくてそんなのわからないよ・・・・・・とかいうことを呟いていた。
それを見ながら、ふと思い出したことがあって、アンドリューはにやりと笑った。

「アンディ?」
「アイシャ、知りたくないか?キラが守りたいといっていた奴をさ。」
「もちろん、知りたいわ」

そうして二人ともキラを見てにやにやと笑った。
二人ともキラから色々と事情を聞き出したのを覚えているらしい。
途中から聞いていたキラはそれを見て、この人たちも相変わらずだと呆れ半分安堵半分だ。

「で?誰なんだ?まぁ、女性は限られているか・・・・・・」

そう言って、ふぅむ、あの子か・・・・・・と顎に手を当てて、おそらくはルナマリアを思い出しているアンドリューにキラは慌てる。

「ちっ違います!」
「ん?だが、同じ隊になると言ってただろうが。」
「・・・・・・あの・・・・・・女の子・・・・・・じゃないです・・・・・・」
「「え?」」

恥ずかしそうに俯いて言うキラに二人は見事にハモった。
守りたいというからてっきり女の子だと思っていたのだ。

「じゃあ、誰だ?」
「・・・・・・ァスラン・ザラ・・・・・・」

その名前を聞いて、二人は微かに目を見開いた後、互いに目を合わせた。
お互いの瞳には納得の色が広がっている。
つまりは、息子を使ってキラを縛っていることに気付いたのだった。
あそこまで必死になっていたキラだ。その必死さは守りたいという気持ちの表れでもある。
アンドリューはどうしたもんか、と顎を擦った。
どうもアンドリューはパトリック・ザラの変化をよく思っていないらしい。声高にナチュラル排除を叫ぶ、過激な言葉は危険なものだ、と。

ドンドン

「?誰だ?」

三人は顔を見合わせる。
ダコスタならこんな乱暴なノックはしないだろう。
それとも急用だろうか。

「すみません!シン・アスカです!」

キラは目を開く。
なんとなくここに居座るのもどうかと思い、少しうろたえるが、アンドリューが落ち着けと視線で示した。
アイシャはいつもどおりにゆったりとアンドリューのコーヒーを奪って飲んでいる。
アンドリューが入室を許可すると、ドアがばたんと勢いよく開いた。
シンは中の三人を確認すると、少し眉を顰め、さすがに失礼だと思ったのか、閉める時は静かに閉めた。

「何の用だね?」

そう言うアンドリューにシンは何故キラがここにいるのか不思議そうに見た。
視線を解読して苦笑すると、アンドリューは言う。

「キラくんにはプログラミングも手伝ってもらおうと思ってね。彼は中でもひどく優秀だと聞いたからな。
お手並み拝見ってところだ。」

その言葉にシンはふぅん、と納得する。
特に疑問は持たなかったようだ。キラは内心胸をなでおろした。

「僕に直接とは何か重要な用事なのか?」
「いえ・・・・・・あの、はい。」

だが、ちらり、とキラを見て、シンは躊躇う。
アンドリューは言わんことを察知して、キラに退出を促した。
最後にシンに気付かれない程度にウィンクを送る。
それを苦笑しながら見て、キラは丁寧に扉を閉じた。
(シンの用事って何なんだろう・・・・・・?)
扉が閉じ、キラが去る足音が聞こえると、シンはアンドリューを見据えて言った。

「教えてください。あの子は・・・・・・俺を助けてくれたあの女の子はどこにいるんですか?!」

アンドリューは大方内容は察していたのか、それほど驚いた様子はない。
助けてくれた相手を気にすることはよくある。その人物を一緒にいたのだから、こう聞くのも無理は無いだろう。
相変わらずキラは色んなところに首突っ込んでるな、と思いつつ、アンドリューはわざと曖昧な返事をした。

「さぁてね、意外と君の近くにいるかもしれないよ?」

そう言った後、あまりのわざとらしさにアイシャとアンディは顔を見合わせて少し笑った。
からかわれていると思ったのか、シンは不快感を丸出しにした。だが、それでも上官であるので、怒鳴りたいところを我慢して言う。

「からかわずに、教えて、下さい。お願いします。」

シンは深く頭を下げる。

この人なら知っている。
彼女の居場所を。
会いたい。
彼女に。
今すぐにでも。
会えるならば。
どうしても、会いたい_____
彼女なら何もかも分かってくれそうな気がした。
また、言って欲しい。

『君とこの子を死なせるわけにはいかない。
・・・・・・僕を憎んでもいい。だから、生きて_____』

『でも、泣くのを我慢することはないと思う・・・・・・』


必死なシンの様子に、アイシャはアンドリューの顔を見たが、アンドリューは難しい顔をした。
教えてもいいが、厄介なことになると困る。
アンドリューはシンの事情を事前に入手しているだけにその複雑さを理解していた。
キラは以前シンと妹の命を救った。だが、今回妹の命を間接的にだが奪うことになった。
それを知って、シンはどう動くのか。
今までのように責めきれないだろうが、かといって責めるのをやめることもできるものか。
やけを起こしたりするかもしれない。

じっと、シンを見詰めるアンドリューに焦れたシンが促す声を出す。

「・・・・・・どうしても、今でないとだめなのか。」
「はい。どうしても。俺は・・・・・・会いたいんです。」

アイシャとアンドリューが顔を見合わせる。
アイシャは肩をすくめた。

「・・・・・・また、後でもいいか。」
「え?」
「彼女の都合もあるし・・・・・・」

今は教えてくれないとわかったシンが不貞腐れたような顔をする。
だが、上官がもう決意をゆるがせないとわかったようで、そのまま退出した。
切羽詰ったようなシンの顔がやたら印象に残った。






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05.2.13
あとがき
本名知らなかったから、虎のことも知らなかったのです。
やっと砂漠編・・・・・・少女の正体がわかりました。(笑)