紡がれる意志 #4開けた光
「・・・・・・あの、どこに行くんですか?」
「さぁ・・・・・・どこか行きたいところは?」
おずおずと切り出したキラにイザークは何も目的なしに車を走らせていたことを明らかにした。
キラはその答えに少し脱力し、その意外と適当なところはアスランとよく似ているなとキラは思った。似たもの同士は反発しあうか、親しくなるかのどちらかというが・・・・・・
「じゃあ、海がいいです。」
プラントには海というものがなかったが、終戦後に再建してからは擬似自然装置がそこここにみられるようになった。
そんなに自然に触れたければ地球に降りればいいだろうと言ったのは誰だったか。
海、といっても、要は単なる湖のようなものだ。
本物みたいにみせるために波を、と言い出した者もいるが、そんなものにお金は回せないと却下された。今はどこもかしこも再建で金が足りないのだからそれも仕方ないだろう。
こんな夜中にわざわざ擬似海に来るものはいないので、イザークは適当に近くに車を止めた。
歩くとそこに敷き詰められた砂がさくさくと音を立てる。
海の側には公園があり、そこを通って海に出られるようになっている。
キラとイザークは黙々と海に向かって公園を歩いていた。
そこに設置してあるブランコが風に揺られてギィ・・・という音と共に動く。星明りすらもない闇の中、住宅の明かりが鈍く鉄棒を照らす。
「何故、海なんだ?」
イザークが突然切り出す。
今まで静かだったせいか、いやにその声が響いた。
「・・・・・・なんとなく。」
海を見れば彼女を思い出すから来たくないと思っていたのに、どうしてイザークにこの場所を行ってしまったのか、自分でもわからなかった。
いい加減、何か区切りをつけようとキラも思っていたのかもしれない。
友人から散々言われたこと。自分でもわかっていること。それでも進まない、進めない足。
けれど、少し、ほんの少しだけ、イザークと出会って進まなければと思ったのかもしれなかった。
無理にでも進まなければ、何故かイザークとの出会いを無駄にしてしまう気がした。自分が傷つけた人との出会いを____
けれどやはり怖くて、関係のない人間と一緒に来ることで、彼女を思い出さないかもしれない。思い出に引きずられないかもしれない。そういう逃げの思いもあっただろう。
“キーラ、外に出るなら誘ってくれればいいのに。”
カガリと共にオーブへと向かっていた海の上。
彼女はカガリと話していた自分の前に現れて、カガリを追い払うように僕に腕を絡めた。
アピールするように露出度の高い服装。その豊満な胸を腕に押し付けて甘えるように僕を見上げた。
“綺麗ね。でも暑いわ。もう少ししたら中に入りましょ。”
彼女の突然の行動で戸惑う中、僕は僕を捕えようとするその瞳の中に、憎悪と一抹の寂寥を見つけてしまった。
ただ縋りつくように伸ばされた手を振り払うことなど、できるわけがなかった。
残酷だと、言われようとも_____卑怯だといわれようとも_____
「僕は彼女を・・・・・・救えなかったんだ。」
ぽつりとキラは呟いた。
その呟きは本当に小さくて、隣のイザークに聞こえたかは定かではなかったが、それでも良かった。
ただ、懺悔というものをしたかっただけかもしれない。
ただ、自分の気持ちを吐き出したいだけなのかもしれなかった。
「彼女は僕を守ってくれるといって、僕に守って欲しいと言って・・・・・・だから、守らなきゃだめだと思ったんだ。必ず守らなきゃって・・・・・・
守るべき人だと思っていたのに、なのに、僕は守ってあげられなかった。側にいてあげられなかった。」
震える声が、開けた海に飲み込まれていくようだった。
「それなのに、僕が何もなかったかのように過ごしていくなんて、許されない。
約束を守れなかったのに。殺してしまったのに。
彼女だけはっ_____
彼女は僕の_____戦いにおける罪を責めてくれる人だった。そして、それ故に、僕が守るべきものの象徴だったんだ。
あのときは気付かなかったけれど、彼女を守れれば、何かがつかめると、何かが許されると_____そう思っていたんだ。」
それはまるで戦場で精神のバランスをとるために彼女を利用したようにも思えて、そのことにまた彼女に負い目を見出してしまう。
許して欲しい。
責めて欲しい。
でも許してもらうには罪が大きすぎた。
「彼女を失った今、償うしかないと、そう思った。」
「誰に?」
苛立ったようなイザークの声。
そちらを見ると、眉間に皺を寄せた顔があった。
「すべてに。僕が戦場で、戦時中で傷つけたすべての人に償いをするべきだと思う。
だから、僕はこのまま幸せになってはいけない。
そして、彼女を忘れることなんて、できやしないんだ。
償いを終えない限り・・・・・・」
「終わりはいつ来る?」
「わからない。」
キラはまた、疲れたような笑みを浮べた。
イザークには先ほどの笑みとそれがだぶって見え、その年齢に相応しくない笑みがひどく己を苛立たせるのを感じた。
それは衝動となって、身体を駆け巡る。
静かな夜の闇に肌を叩く音が大きく響いた。
頬に閃いたその衝撃にキラは耐えられないままに少し後ろへとふっとばれされる。
その弱弱しさにどことなく女の子を殴ったような気まずさを感じて、イザークは眉を寄せるが、その瞳は鋭く光っていた。
「甘ったれるな。」
突き放すような、冷たい声。
気の弱い者が聞けば震え上がって逃げ出しそうなほどの怒気。
「確かにお前は罪を背負っているかもしれない。けれど、その罪を償うことがお前が不幸になることなのか?!
人は生きながらにして誰でも周りに迷惑をかけるものだ。そうして周りの役にも立っていく。他人の迷惑にならないように・・・というのは、出来ないものなのだ。人と関わる限り、人間である限り。」
キラは呆然とイザークの言葉を聞いていた。
叩かれた頬がじんじんと痛み、熱を帯びていたが、それが何故か他人のような感覚の気がしていた。一皮被ったように現実味がない。
耳に大きく響く、暴力的な目の前の声以外は______
「確かに戦争はそれとは違う。けれど、お前が不幸になってそれが償いとなるのは変だろう。
だいたい、罪を償えると思うことこそ傲慢だろう!
たくさんの人の命を奪っといて今更、償うなどとは・・・むしがいい。
償いなどと言うだけ目障りだ。
出来るわけもないのに!
___そんなたくさんの人の命をお前一人なんかで贖えるものか。
それをやるふりをして弱って、心配かけて、結局お前は人に気にかけてもらいたいだけなんじゃないのか?
そうして不幸になって一体誰が喜んで一体何を償えたというんだ?!
それは甘えだ。償おうなどというのは、甘えだ。そんなことを言うくらいなら、それを背負いながら自分の道を歩いて見ろ。
それが、一人前の人間ってものだ。」
気付いたように腫れた頬を片手で押さえた。
その冴えきった銀褐色の瞳に貫かれて、淡々とした、けれど怒った口調が怖かったのか。
涙が溢れてきた。
嗚咽が漏れて、なんだかわからないものが胸の奥から次々とあふれ出て止まらない。
そうして、堰ききったかのようにキラは大声で泣いた。
終戦して、初めて泣き喚いた。
もうこんな歳になったのに、子供っぽいとか、なんでわめいているのかもわからないままに、ただ泣いた。
後から後から流れる涙は留まることを知らずに流れる。
どうしようもない、行き場の無かった思いが溢れて、
解放された。
つい先ほどまできつく睨みつけていた銀褐色の瞳は驚いたように目を見開いてから、優しく眼を細めた。
月と、銀と、涙と。
交じり合いながら夜を紡いでいく。
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あとがき
え〜とまだ続きます。思ったより長いです。(汗)最後までイザークが出張りそうな勢いで・・・・・・。