青と白の機体。
それはまさに自由を象徴するもの。


††再会††




空を駆け、海を薙ぐ
白い残像が目に焼きつき、蒼穹と蒼海に混じる青がいやに幻想的だ。

誰もが見惚れた。
その宙を舞い踊る動きに。
誰もが感嘆した。
閃光の行く先に必ず敗北が待つことに。


青と白で彩られたそれは真っ赤な戦艦の上に降りたった。
まるでそれは戦場で血の海の中ただ一人、生き残った聖者のように見えた。



「フリーダム・・・・・・」
「し、信じられない・・・・・・なんて・・・・・・」

その先の言葉は言わずとも誰もが思った。
なんて正確な射撃。
なんて速さ。
なんて動き。

彼らは眼の前に狂戦士を見た。


ほぅ、と感嘆のため息が思わず洩れた後、タリアはその動きを目に焼き付けた。
コーディネーターであっても、こんな俊さは知らない。
タリアはすごいすごいと呟くアーサーに言い聞かせるように言った。否、もしかしたら言い聞かせたのはパイロットへなのかもしれない。
機体のせいにしてしまおうとする、嫉妬しているだろう彼らに。
あの動きにパイロットの誰が嫉妬せずにいられようか。
望んだ、理想の動きがそこにあるのに。

「機体がすごいだけじゃないわ。
機体の能力を最大限にまで活用できるパイロットあってこその最新型よ。
そもそもフリーダムとジャスティスは乗り手がいなかった。適応できるパイロットがいなかったのよ。
あまりに強力すぎる力の前に、パイロットはあまりにも無力だった。
パイロットの腕がよくなければ、どんな機体も屑と化してしまう。」
「え?そんなものですか?」
「極論で言えば、私たちが乗ったインパルスとレイたちが乗ったザク、どちらが強いかということよ。」
「なるほど。」

それでアーサーは納得したように何度も頷いた。
確かに素人の自分達がいくら最新のインパルスに乗っても、動かすので精一杯で機体の特徴などを生かすことは不可能だろう。
それに比べ、インパルスに劣るザクでもレイたちが乗ればザクの能力を最大限にまで生かし、宙を自由自在に動けるだろう。それと素人の乗るインパルスが話になるわけがない。
レイやルナマリアは通信で伝わってくるその会話に静かに耳を傾けた。
敵を倒す際に殺そうとしてフリーダムに邪魔されたシンは仏頂面で聞いていた。殺そうとしたときにフリーダムに落とされた腕の残骸を拾っているので、ぶつぶつと文句を言っていることは間違いないだろう。
アスランの乗るセイバーはゆっくりとフリーダムへと近寄っていく。

「それに加えて、あの機体たちには問題もあったのよ。
ニュートロンジャマーシステムを搭載したおかげで、フェイズアウトはなくなったけれど、それは延々に戦い続けるということ。そして、強力な砲は常に機体に負担がパイロットに負担がかかるもの。
それを扱い続けるのは相当の訓練と体力が必要だわ。」
「はぁ・・・・・・そうだったんですか。
なんか改めてパイロットの凄さを知ったというか・・・・・・本当凄いですね!」

アーサーはまるで子供のように純粋に感嘆の声を上げた。
そのときだった。
セイバーの通信機からフリーダムへと言葉が渡ったのは。

「キラ・・・・・・」

掠れるような声はけれど、確かに相手に伝わったようだった。
躊躇うような気配がした後、フリーダムのパイロットが声を出した。

「アスラン・・・・・・」

まだ少し高めのテノール。
アスランとフリーダムのパイロットが知り合いというのはヤキン・ドゥーエで共に戦っていたことからもわかったが、フリーダムのパイロットも若いとは知らなかった。
皆、やりとりに注目し、緊張を帯びた沈黙が流れた。

「・・・・・・久しぶり・・・・・・」
「あ、ああ・・・・・・」

ややぎこちない挨拶。
だが、戸惑っているアスランに対して、相手は幾分落ち着いているようだった。

「マリューさん」
『何かしら?』
「少し、彼と話がしたいんですけど・・・・・・」
『そうね・・・・・・キラっっ!』

マリューの言葉尻からいきなり違う声が聞こえた。
声から相手は知れたが・・・・・・

「カガリ?」
『とりあえず一旦格納庫に入れ。』
「え?別にこのままでも・・・・・・いや、ちょっと私情入っちゃうけどさ・・・・・・」
『アスラン、無事でよかった。』
「あ?ああカガリも・・・・・・」

自分が先に言うはずの言葉をさっさとカガリに言われ、少々苦笑気味のアスランだ。
その間にもカガリとキラの応酬は続く。

『アスランはミネルバで待ってろ。キラを後で寄越す。』
「え?ちょっカガリ?」

キラが戸惑っている間に通信は一方的に切られた。

「・・・・・・」
「キラ、とりあえず戻ってみたらどうだ?後からこちらに寄越してくれると言うし・・・・・・」
「・・・・・・カガリ、何考えてんだろ。」

キラはなんとなく嫌な予感を覚えて、顔をしかめた。
だが、このまま話すわけにもいかずにキラは大人しく格納庫へと戻った。アスランもそれを見送ってからミネルバに帰艦する。





********




「嫌だ!絶っっっ対に嫌だ!!何で僕がそんなことを!!」
「こういうのは第一印象が大切だからな。」
「そんなふざけた格好で行ったら、逆に怒られるだろ?!」
「観念しろ!」

キラは助けを求めて周りを見渡すが、男性陣は代わりになりたくないものは目を逸らし、代わりになど絶対にならないと自信満々のものはにやにやと笑うだけだった。女性陣はといえば、ラクスは相変わらず穏やかに笑っているし、マリューは苦笑しつつも別に反対の意志はないようだった。

「誰か、反対してくださいよ。おかしいじゃないですか!
僕があちらにアスランと話するために行くのもおかしいのに___私情的なことだし____ついでに状況説明するのはわかりますけどっっどうして____っっ
どうして僕が女装しなくちゃならないんですか?!」

身長は以前よりも確実に伸び、体格も細身ながら多少は男らしくなったかと思った矢先のことだ。
女装が似合うだろうといわれて喜ぶ男がいるだろうか。否、いるかもしれないが。
キラとしては幼いころからかわいいだの、男にしておくのはもったいないだのと言われ続けていたので、『男』を憧れとしていたのだ。
それなのに、二次成長してからもそう言われるとは・・・・・・

「キラ、私もキラをそんな格好で送るのは不安ですが・・・・・・」

ラクスが嫌だと突っぱねるキラになだめるように言った。
ラクスとキラの不安の意味は違っていたが、キラは自分の意味と同じだと受け取り、うんうん、と頷く。
キラにとってラクスが最後の頼みの綱なのだ。

「キラ、本当はカガリさんが行きたいところをキラが行くのですから、アスランを多少なりとも喜ばせてあげなくては。キラとカガリさんは双子ですから、アスランもカガリさんの花嫁を想像できて楽しいのではありませんか。」
「それは・・・・・・カガリも連れていけばい__」
「キラ。キラがアスランに会いたいと言ったのですから」
「話がしたいって言っただけな___」
「キラ。自分の言葉には責任を持たなければ。貴方のその両肩にアークエンジェルの運命が乗っています。」

キラの言葉を遮りながら、おっとりとそう言うラクスにカガリが頷く。
マリューやアンディも冗談なのか本気なのか真面目な顔で頷いていた。
しかし、その言葉の裏を知る他の面々は内心叫んでいた。

(うそだあぁぁぁ〜。絶対女装なんてやばいだろ。見たいけど・・・・・・でも、やっぱりまずいと思うよな。
というか、あのお嬢さんたちは単にキラを女装させたいだけだろ?!
___そんなので俺たちの運命が分かれるわけないし・・・・・・)

だが、その叫びもキラには届かない。
最後の味方をも失ったキラは絶望的な顔になり、そのまま力も萎えたのか、ずるずるとカガリとラクスに連れて行かれた。




*********





アスランがセイバーから降りると、一斉に皆の視線がアスランに向いた。
ひそひそと話し声が聞こえ、その聞こえる言葉の端々からキラとアスランのことを噂していることがわかった。
アスランはそんな彼らを無視して、ただキラが来るのを待っていた。
そんなアスランに話し掛けようとして、ルナマリアは止まった。
アスランの横顔はこれまで見たことのないくらい嬉しそうであったのだ。





そしてまもなく、フリーダムがミネルバに到着した。
皆、フリーダムの装甲を珍しそうに眺めている。
コクピットがゆっくりと開き、そこから人が降りてきた。
我先にと、フリーダムのパイロットを見ようと乗り出したが、その人の格好を見て、皆固まった。
当然、先頭で待っていたアスランも。

「キラ・・・・・・?」

確かに間違いなく姿はキラだ。
しかし、着ている服はパイロットスーツではない。
すらりとした身体にふんわりと裾の広がった、真っ白なウェディングドレスを纏っている。
キラが暴れたせいで化粧はしていないようだが、唇は一応とでもいうように無色のリップが塗られていた。
さらりと目にかかる程度の長さの前髪は栗色で、明かりを反射して煌いていた。
印象的な紫電の瞳はカガリ達への抗議のためか潤んでいて、少々捨てられた子犬を連想させた。
とにかく愛らしい花嫁にしか見えない。

「ア、アスラ〜ン・・・・・・」

うるうると瞳を潤ませて、僕じゃない!カガリが〜!!と目で訴える姿は誰の目にも可愛かった。
キラは近づいてきたアスランに抱きつき、ますます目で訴える。
アスランの方が背は高く、キラは自然と上目遣いになっていた。
アスランはう゛、と思わず鼻を抑えた後、血が出ていないことを確認してから言った。

「その格好・・・・・・キラ・・・・・・・いや、わかった。カガリたちだな・・・・・・」

アスランはため息をついた。
だが、内心可愛らしいキラをプレゼントしてくれてありがとう、とカガリたちに感謝もしていた。
そうしてぎゅ、と抱き返す。

「無事で良かった・・・・・・」

ミネルバの乗組員は何がなにやらわからなかったが、アスランとフリーダムのパイロットがとても仲がいいことやカガリが確かにAAにいることがわかった。
そして皆、フリーダムのパイロットは女だったのか、と勘違いして驚いていた。

「・・・・・・アスランも無事で良かったよ。
そうだ、艦長さんのところに案内してくれるかな?マリューさんから伝言があるんだ。」
「あ、ああ・・・・・・」

抱擁を解いた後、キラはもう冷静になってしまっていた。
アスランは少し名残惜しそうにキラを抱きしめていた手を離す。

「そうだ。さっきのでわかったと思うけど、カガリも無事だから。」
「ああ。分かった。元気そうだったな。」

アスランは先ほどのカガリの口調を思い出して笑った。
だが、格納庫を出ようとしたときに、キラの背中に怒号が突き刺さった。

「何が『フリーダム』だよ。また、あんたたちの理想とやらを押し付けにきたのか?!」

キラが振り返ると、そこには黒髪赤目の少年がいた。シンだ。
睨みつける瞳は憎しみを表していた。

「オーブを燃やしたように、前の戦いのように、理想、理想って、民間人に犠牲を差し出させるのか?!」
「君・・・・・・」
「キラ、彼はオーブの出身なんだ。」

アスランがキラに低く言った。
キラは俯いて眉を顰めたが、シンからはよく見えなかった。
そうしてから、キラは決意したように面を上げる。

「君も『犠牲者』なの?それで、相手も犠牲者にしたいの?」
「キラ?」

キラの瞳は澄んでいて、アスランは困惑した。
てっきりキラは苦しそうにシンの言葉を浴び続けてしまうのだと思っていたのだ。
いつの間に、こんなに強くなったのだろう。
アスランの胸の奥がチリ、と焼けた。

「なっなんだと?!そんなのっ____っ
___あんただって、理想のために多くの人を犠牲にしたくせにっ
そうだよっあんたたちは勝手だ!理想なんて大義名分掲げてっっ!!
カガリ・ユラ・アスハは結局逃げ出したんだろうが!オーブから!
理想郷はあそこにはなかった?受け入れられなかったから逃げたんだろ?!」

シンがそう叫んだ瞬間、キラの瞳の奥が深まった気がした。

「へぇ、君はそう思うの?
カガリが逃げたって?」

冷たい声だった。
つい先ほどまでの愛らしかった女の子はもうそこにはいなかった。
ただ、そこには凍りつくような厳しさを纏った断罪者がいた。
シンがその迫力に押されたようにたじろいだ。

「オーブから逃げた____そうだね。そうかもしれない。
でも、カガリは決して理想から逃げたわけでも現実から逃げたわけでもないよ。
代表として、オーブが同盟を組んでしまったことを悔いてはいてもね。
カガリはウズミ様の言葉を信じて、平和を取り戻したいから、オーブを抜け出した。
まぁ、僕が攫ったんだけどね。」
「・・・・・・あんたも綺麗事ばかり言うんだな。」

シンが睨みつけて言った。
キラはシンのその視線を受け止めて静かに問う。

「じゃあ、君は前回の戦いでオーブはあのまま自分だけ平和に浸っていれば良かった、と?
勝手に外でコーディネーターとナチュラルは戦っていれば良かったっていうわけなんだね?」
「そんなことは言ってない!」
「そう、でもウズミ様がオーブを焼かなければ、プラントや地球は焼けていたよ。
オーブがああやって中立を守りきらなければ、コーディネーターとナチュラル、どちらかが滅ぶまで戦わなくてはならなかったかもしれない。
それとも、両方滅ぶまで?」

キラは薄っすらと笑った。
それはその終末をどこか予感させるような危ういもので、皆、鳥肌が立った。

「カガリは中立を保ちたいんだ。たとえ、自分一人となっても。
ねぇ、それがどんなに大変なことか、君にはわかるの?
今まで見てきた父親の背中が突如消えて、父親が背負っていたものを自分に背負わされたときの気持ちが?
大切な友人を失って、理想と現実の狭間で揺れて、それでも平和を目指した彼女の葛藤が?
____カガリは別に僕にこんなことを言って欲しいなんて思ってはいないだろうけどね、僕はカガリの兄弟として言わせてもらうよ。上の人間の苦労は下に見せるな、なんてどうでもいいんだ。

ねぇ、君は本当に、カガリを責められるの?」

当たり前だ、と喉まで出かかった言葉は、キラの表情を見てつっかえた。
どうして、そんな苦しい顔をする?責めていたのはあんたのはずなのに、その表情は俺がするはずのものなのに、どうして、あんたが責められているような顔をする?

シンが何も言えずにいると、キラは踵を返してドアに向かった。アスランがその後に続く。
皆、固唾を飲んで、成り行きを見ていた。

「・・・・・・どうして、さっき敵を庇ったんだ。」

ぽつり、とシンが呟いた。
キラはぴたり、と足を止めて、振り向かずに言った。

「コーディネーターだとか、ナチュラルだとか、そんな区別だけで、僕は人を憎めない。
敵だって、同じ人間なんだ・・・・・・同じ・・・・・・」

小さな声だったが、キラの言葉は静まり返った格納庫にしっかりと響いた。
そのままキラはドアを開くと、アスランが案内するままにミネルバのコクピットへと向かった。

「何だよ、あいつ・・・・・・」

シンはそう呟いたが、声は震えていた。




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05.1.29
あとがき
キラ、ウェディングドレスで決めても・・・・・・ねぇ?(笑)
とりあえず、キラとアスランの再会とキラのかっこいいところを見せたかっただけ。
もしくはキラ賞賛小説と言ってもいい(笑)
↑これもアスキラでしたけど、後半はもっとアスキラになりますので。。てか、多分エロ有り♪