孤独の闇
キラが廊下をしばらく行くと、そこにレイとルナマリアが沈痛な面持ちで立っていた。
そんな彼らに話し掛けるのは気が引けたが、キラは気になって仕方がなかった。
「あの・・・・・・よければ、彼の妹のこと、教えてくれないかな。」
キラはおずおずとレイとルナマリアに問う。
二人はその言葉に振り返り、ルナマリアは肩をすくめてレイを見、レイはため息を吐いた後に言った。
「同情ですか?でも、それは余計にあいつを怒らすだけです。」
「でも、何も知らないまま・・・・・・」
「貴方達は貴方たちの正義を通した。その結果が彼の妹を殺すことになった。それだけのことでしょう。
今更、何を知ろうというんです。」
「ちょっと、レイ・・・・・・」
ルナマリアは必要以上に冷たいレイの口調に言いすぎだと止める。
だが、レイはルナマリアを一瞥しただけで、キラに向き直った。
「中途半端な思いやりは返って相手を傷つける。そうでしょう?」
キラはその言葉に俯いた。
青い瞳で意気消沈したキラを冷たく見ると、レイは背中を向けて去っていった。
「何、あれ!いくらなんでも・・・・・・失礼過ぎじゃないの?
___あ、えと・・・・・・」
「いいんだ。当然のことだ・・・・・・」
無理やり作った笑顔をキラは表面に貼り付けた。
シンは思い出す。
かつて両親を失ったときのことを。
そのとき助けてくれた少女のことを。
自分達の住んでいたディンは中立国であった。
だが、そこの国は割合がコーディネーターが多かったために、あるときコーディネーターの側につくと宣言した。当然国民は驚いた。
そんなことは寝耳に水だったからだ。
国民は当然勝手に判断をしてしまった政府に怒った。
しかし、そんなこととは別に、世界は『そう』だと判断してしまった。
そうして、国民が政府を責める間もないままに、戦闘態勢に入ってしまった。
後から、それはどうやらタカ派の暴走だったと聞いた。
地球軍が攻めて来る、とサイレンが鳴った。
休日の昼。
家族と昼食を食べていたときだった。
両親は顔を強張らせて、立ち上がった。
そうして、せかされるままに、民間シェルターに移動を始めた。
近所は外出をしていたのか、周りにはそんなに人影はなかった。
港の近くのシェルターに移動するように、との指示で自分達は向かっていた。
「父さん、母さん、早く!」
「先に行ってなさい!」
以前階段で転んで足を痛めている母親を父親が支えていた。
自分と妹は前に行って、そんな彼らがくるのを待っていた。
ゴオオオオオ
見上げると、戦闘機がこちらに向かっているのが見えた。
「伏せろ!!」
誰かの叫ぶような声が聞こえた。
そちら側に目を向ければ、それはピンクのワンピースを着た少女だった。
咄嗟のことで、よくわからないままに、その近づいてくる飛行機を見上げていた。両親も何事か叫んでいたが、飛行機の音で聞こえなかった。
いきなり眼の前が暗くなって、柔らかいものが自分を押し倒した。
それと同時に爆音と爆風が自分たちを襲った。
凄まじい風圧にごろごろと地面を転がって、港の倉庫の壁にぶつかって止まった。
「う・・・・・・」
シンは閉じていた目を開いた。そこでやっと自分を庇ったのが、さっきの少女だと知った。
壁と背中がぶつかったのか、少し眉を顰めて、その子は立ち上がった。
シンはあちこちが痛んだが、なんとかつられるようにして立ち上がる。
そうして周りを見渡せば、ひどい有様だった。
小型爆弾なのだろうが、あちこちのコンクリートがえぐられていて、もうもうと煙と炎がでていた。
自分がぶつかった壁もひび割れて、瓦礫が落ちているようだ。
「マユっ」
そう離れていない場所に妹を見つけた。
駆け寄って、そうしてその姿を見て絶句した。
頭から血が流れ、瓦礫が足と腕に直撃したようだった。
少女が駆けつけてきた。
マユを見ると、はっと息を呑んだ。
「ひどい・・・・・・」
そう呟くと、彼女はマユの瓦礫をどけた。重そうだったので、シンも慌てて手伝った。
少女はそれから脈と息を調べて、顔を険しくした。
だが、すぐさま自分のワンピースの裾を破いて、手早く止血を施し、骨が折れているところはマユの持っていた携帯を添え木代わりにして固定した。
それを見て、少し安心したシンは両親がどこにいるのか探し始めた。
そうして、見つけた。
一部が焼け爛れたふたつの死体を。
無残にも爆撃で身体の一部を吹き飛ばされていた。
だが、その服、顔は両親だった。
もはや色を失った瞳が虚空を見ている。
「あ・・・・・・あああああっ____っうぁあぁあああああああっっっ」
がくりと膝をつき、シンはうなだれた。
「なんでっどうしてっ____っっ母さんっ父さんっっ」
爆撃音はまだ続いていた。
その中にシンの叫びは吸い込まれていくようだった。
少女が隣に来て、両親の死体を見ている。
「・・・・・・行こう」
少女がシンの腕を掴んで立ち上がらせようとした。
けれど、シンはうなだれたまま、立ち上がらない。
「どうしてっっ・・・・・・」
「早くっまた爆撃されるかもしれないっ」
少女がシンを無理やり引っ張って立ち上がらせた。
けれど、シンは俯いて、動こうとしない。
少女はそんなシンを見て、唇を噛んだが、き、とその瞳に決意を宿らせて言った。
「この子を早く運ばなきゃ。そうでしょ?」
シンがその言葉に少し視線をずらして少女を見た。
少女はどうやらマユを担いでいるようだった。
いい加減に反応のないシンに少女は眉を吊り上げた。
「君はこの子の兄弟なんだろう?!
死んでいる人にかまけて生きているこの子を見殺しにするつもりか?!」
「あんたに何がわかるんだよっどうしてっこんなっ」
「分からないよっだけど、君が今すべきことくらいはわかる。
君は今、この子と一緒にシェルターに逃げるべきだ!生き延びるべきだ!
わかっているのか?!
これは両親の生を背負った君の義務なんだ!」
「嫌だっなんでっなんで____っっ」
シンは混乱していた。
よくわからなかったけれど、ここから離れがたかった。
死んでいることが一目でわかったとしても、それは紛れもない両親だ。
それを見捨てていけるだろうか。
「マユは、君が連れて行ってくれよ。
マユだけは助けて・・・・・・」
シンはぽつりと言った。
それは自分はここに残るという意味だった。
だが、突如、胸倉をつかまれて、鋭い青紫の瞳に貫かれた。
「いい加減にしろっ
君はこの子が目覚めた時に独りにさせる気なのか?!」
シンはその言葉に目を開いた。
その頬にはすでにいくつもの筋が通っていた。
「行こう。」
少女は腕を掴んで、引っ張った。
シンはそれに引きずられるようにして、連れて行かれた。
「君とこの子を死なせるわけにはいかない。
・・・・・・僕を憎んでもいい。だから、生きて_____」
少女は悲痛な顔をしていた。
けれど、決してその手は離さなかった。
半ば引きずるようにして少女はシンとマユを助け出したのだった。
シェルターに着き、マユを医療チームに任せると、少女は躊躇うようにシンに近づいてきた。
あちこちにすすり泣く避難民がいた。
シンはもう泣いていなかった。
「泣かないんだね・・・・・・」
「どうやって泣けっていうんだよっこんなっ突然っっ」
「でも、さっきは泣いてたよ。」
「泣いたって、誰も、生き返らないじゃないか・・・・・・」
シンがそう呟くと、少女は悲痛そうに顔をゆがめた。
「でも、泣くのを我慢することはないと思う・・・・・・」
少女がシンの頬にそっと触れようとした。
そのときだった。
「やれやれ、なんて格好だ、お嬢さん。」
そんな言葉と共に父親と思しきものが駆け寄ってきた。
少女はひどい格好だと言われて、苦笑し、そうして思い出したようにシンの怪我の処置を施した。
それから、俯いて、ごめんね、と言われた。
シンが目を見開いている間に彼女は申し訳なさそうに笑って、父親と去っていってしまった。
シンはお礼も何も言えなかった。
それからマユを地球での戦いが激しさを増してきたので、念のためコロニーの中立国であるヘリオポリスの病院へと入院させたのだ。
そうしてシンは軍隊に入った。一年前くらいのことだ。
妹の入院費を払わなければならなかったし、何よりも仇をとりたいと思った。
ケレド、イッタイ誰ヲ?
戦争なんて、なくなればいいと思った。
戦いに巻き込んだ国も憎かったし、戦いを起こしたナチュラルも憎かった。
誰も彼もを争いに巻き込みながら、憎しみや哀しみを巻き上げながら、膨張していく戦争。
そんなもの、嫌いだった。
それなのに、ここにいる自分はなんなのだろう。
別に相手を殺すことは機械越しだからどうってことはない。
戦闘だって別に不得意ではない。
給料はいい。
ただ、いつもわからない不安がつきまとうのだ。
「独りになっちゃったんだ、俺・・・・・・」
不意に笑いたくなった。
理由などわかりはしなかったけれど。
無性に笑いたくなった。
理由など知りたくなかった。
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05.1.28
あとがき
バレバレですけど、一応少女の正体は不明ということで。(笑)
シンの過去話。レイのキラに対する対応はあれです、こう、モヤモヤする〜!という・・・・・・(この説明でわかったらすごいよ・苦笑)
しかし、プラントから地球までって本当一体どれくらいかかるんですかね。
アニメでは全くそういう時間無視じゃないですか。一日で行けたり、数日かかったり。
今回は数日くらいたつという感じで。
そういえば、SEED漫画みたのですが、あれはアニメ見た人しかわからないな。終わり方はアニメより断然漫画の方が好きです。アスランカッコいいし。キラもちゃんと主人公してるし。アスランの株が上がった漫画でした。(笑)でも、最後までアスキラだったな・・・・・・きっとこのことはアニメ感想にも書くと思いますけど。