繋がる闇
暗い部屋の中。
水槽から洩れる光だけが唯一の灯だ。
その水槽を背にして、白髪の男が口を開いた。
「どうだ、『彼』の様子は。」
「今のところ、確かに才能は飛びぬけていますが、天才として見ることも出来そうです。
『アレ』は確かにそういうものですが____私個人の受けた印象としてはまだ成果は出ていないようです。」
「そうか。後で軍でとった彼の詳細データを寄越してくれ。
それと、他の隊員の詳細データと戦闘データも。毎日の報告書は受け取っているからいい。
ああ、そうだ。アレは渡したか?」
「はい。確かにこの手で。
被験者には気づかれていませんし、被験者が誰なのか彼らに教えてはいません。」
「よし。これからも『彼』の監視及び観察を続けてくれ。下がれ。」
「はっ」
仮面で素顔の半分を隠した男は頭を垂れた。
その俯いた顔に歪んだ笑みが浮かんだことに眼の前の男は気がつかない。
*********
「トリィ、トリィ」
鳥型ロボットがキラの頭に止まった。
キラはベッドに横たわったまま、天井を眺めていた。
(トールたちの情報はまだ入ってこない・・・・・・)
もしも、あの崩壊に巻き込まれていたら?
そうだとしたら・・・・・・僕は・・・・・・
閉じたキラの瞳から、一粒雫が零れた。
痛い・・・・・・痛いよ・・・・・・
(誰・・・・・・?)
突如、身体に痛みが走った。
何かに打たれている。
強く打たれたそこの皮膚が破れたのがわかった。
「お前は私に従っていればいいのだ!!」
言葉と共に打ちつけられる鞭。
空気を切り裂く音と肉を叩く音が響く。
衝撃で身体がぐらつき、庇うようにうずくまった。
それでも背中に打ち付けられる鞭。
(あれ?)
突然その痛みが消えた。
真っ暗な闇の中だった。
そこにやはり打ちつける音が鳴った。
音のするほうにあてずっぽうに歩いていけば、目の前でライトがある光景を照らした。
「従えっっ!お前は道具だっ!感情など要らぬ!!」
びし、と肉を切り裂く音が聞こえた。
うずくまっている少年の背中で撥ね返って、鞭は宙にくねった。
少年は呻き声も出さずに堪えていた。
「やめてっ____っ」
キラは叫んだ。
けれど、彼らは聞こえないようにその行為を続けている。
「やめてっやめてっっ」
キラは叫びながら、そちらに駆けて行った。
うずくまる少年に被さり、庇おうとする。
しかし、鞭はキラの身体を通り抜けて少年に当たり続ける。
「やめてっこんなっっこんなっ____っ」
キラは泣きながら、鞭を振るい続ける男に請う。
少年がその声に反応したかのように少し顔をあげた。
少し驚いたような顔に、つ・・・と涙が伝った。
「彼だって人間だ!道具なんかじゃないっ
彼は彼だけのものだっ彼は____っ彼をぶたないでっ!!
お願いだからっっ!!」
「_____っっ!!」
がばり、とベッドの上で飛び起きた。
汗でびっしょりになった額に張り付いた前髪をかき上げ、ケイは時間を見る。
3時間も経っていなかった。
よく見る悪夢。
今更だった。
けれど、驚いたのはいきなり現れた少年。
自分を庇うように覆い被さって、叫んでいた。
『彼だって人間だ!道具なんかじゃないっ
彼は彼だけのものだっ彼は_____っ彼をぶたないでっ!!
お願いだからっっ!!』
打たれている自分よりも悲痛な顔をして、頬を涙でいっぱいに濡らして、少年は叫んだ。
驚いた。
自分に言い聞かせてきた言葉。
他人に言われたら、こんなにも_____痛い。
胸が痛くて痛くて、苦しい。
それが嬉しいとわかったのはいつだろう。
「涙・・・・・?」
自分が泣いている?
何年も感じたことのない鼻の奥がつん、とした感じ。
少年が自分を庇って抱きしめた感触がまだ残っている気がした。
「キラ・・・・ヤマト・・・・・・」
*********
端末からメインにアクセスして、AAの先ほどのメモリーを壊すか奪うかする。
それから、フラガの乗っていたメビウス・ゼロに残っているメモリーも消す必要があった。
あのガンダムの情報を自分以外が持っては危険だ。
ケイはAAのメモリーを壊した後、皆が食事を食べるときを狙って格納庫へと急いだ。
ついでに着てきたパイロットスーツを返しにいかなければ。
「何をしている?!」
「別に。何も。自分のやつを地上用に設定しなおしていただけです。」
ケイはぎりぎり見つかる前に床に飛び降りた。どうやらフラガの機体をいじっていたのは知られなかったようだ。
「あれ?坊主か。大丈夫なのか?」
「ええ、まぁ・・・・・・」
「さっさと飯食わないとくいっぱぐれるぞ。」
「・・・・・・結局どこらへんに落ちたんでしたっけ?」
ケイは予想が当たることを確信しながらも問うた。
男は少し渋い顔をして、言った。
「砂漠だ。」
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05.1.10
あとがき
短いですが、切りがいいので、ここまで。。
次回デス種キャラが出てくるかと・・・・・・