現れた闇
「皆、着たね。じゃあ、コクピットに案内するから。
そこで各自の担当に色々聞いてよ。」
そう言って歩き出すケイも、今は地球軍の制服を着ていた。
どこかその青い制服が窮屈そうに見えるのは、ケイが長身だからだろう。
一般にあわせたそのサイズでは無理もない。
「ケイって地球軍だったんだ・・・・・・」
ぽつりとカズイが呟いた。
ケイはその予想内の反応に面倒くさそうに答えた。
「そうだよ。君らも今日からその一員だけどね。」
その言葉にサイが何かを言おうとして、
「サイ」
振り返ればフレイだった。
不安そうに軍服を着ているサイを見ていた。
「フレイ・・・・・・」
「私、私・・・・・・怖いの・・・・・・」
長そうになると踏んだケイは、サイに目配せして、他の皆を連れて行く。
そんなケイの気遣いに、サイはケイに感謝すると同時に見直した。
(なんだ、結構いいやつじゃないか・・・・・・)
と、突然フレイがサイに抱きついてきた。
サイは突然のことに、身体が反応できずにそのまま後ろの壁にぶつかる。
どん、という音が誰もいない廊下に響いた。
フレイはサイの胸元を縋るように掴んで、サイを見上げた。
淡い赤い瞳がじっと自分を見詰める____そのことにサイは頬が熱くなるのを感じた。
そうして計算つくされたようなその上目遣いに、サイはフレイの肩をつかむ腕に力が篭る。
「サイ、ねぇ、お願い。側にいて。不安なの。」
「フレイ、大丈夫だよ。ここにいれば、安心だから・・・・・・」
密かに思いを寄せていた幼馴染が、あの気が強く、感情の浮き沈みの幼馴染が頼ってきてくれるかと思うと、サイは嬉しかった。そうして昔はそういえば、こういうこともあったなぁ、と思い返す。
フレイとサイは幼馴染だったために昔はよく遊んでいた。けれど、年が上がるにつれて、やはり思春期というものが距離をつくり、その溝はそうそう埋まることはなかった。
最近はたまに一緒に遊びに行ったりするだけだった。
「サイっサイったら!」
フレイの声でサイは回想から現実に呼び戻された。
どうやらフレイが訴えているのに、サイは答えなかったようで、フレイは少々気分を害していた。
先ほどのいいムードはもはや崩れかかってしまっていた。
(ああ〜折角のチャンスがっっ)
サイは己の少し考えると余計なことまで掘り下げる癖を呪った。
気分を害したフレイはもはやサイを怒った瞳で見る。これはまずい。
拗ねるなら別によいのだ。甘えているのだから。
だが、怒っているとなると・・・・・・その感情の起伏の激しい彼女をなだめるのはそう簡単ではない。
サイがどうしようかと迷っていると、フレイは縋っていたサイの胸元から離れて、ぷい、と目をそらした。
「フレイ・・・・・・」
サイは頭を回していたが、どうにもいい言葉が浮かばない。
そのとき、サイにとっては救いの手が現れた。
後から考えれば、全く逆の手だったと後悔するのだけれど。
「サイ!」
呼ばれて振り返ると、そこにはケイがいた。
皆を案内した後に、いつまで経ってもこないサイを再び呼びに戻ったようだった。
サイは明らかにほっとした顔になり、ケイを呼んだ。それがフレイの気に障ることを知らないまま。
「ケイ、えっと・・・・・・皆は・・・・・・」
「もう皆担当のところに着いた。君だけだよ。
こんなときに悪いんだけど、出来れば早く来て欲しい。地球に着くまでは安心できないし・・・・・・」
「どういうこと?」
フレイがケイの言葉に反応した。
サイはしまった、という顔で二人を見比べたが、ケイは全く動揺しておらず、フレイを見た。
「ねぇ、安心できないって・・・・・・」
「あ〜、サイ、俺が説明しておくから、君は早く担当のところで説明を受けてきてくれないか?
コクピットは真っ直ぐ行って、左に行けば、コクピット直通のエレベーターがあるから。」
「あ、ああ。分かった。
じゃあ、フレイ、後で・・・・・・」
サイは去り際に挨拶したが、フレイはその言葉に反応しないどころか、サイを見ようともしなかった。
そのことに少し胸を痛めつつも、サイは言われた通りにコクピットに向かった。
「ここは安全じゃ、ないの?」
「・・・・・・自信もって安全とは言いがたいな。」
「どうして?!だってっこの船は最新の軍艦なんでしょう?!」
フレイは先ほどはサイの胸元をつかんでいたその手で、今度はケイの胸元をつかんだ。
叫ぶフレイをケイは冷ややかに見下ろした。
「最新だからって、最強とは限らない。
君たちには悪いと思っているよ。俺が連れてきてしまったんだから。
不運が重なり過ぎた・・・・・・君たちを下ろすのも、ヘリオポリスの崩壊に巻き込まれる危険せいがあったし。ポットも痛んでいた。」
「不運で片付けないでよっ
あんたが連れてきたっていうなら、なんとかしなさいよっ
私はこんなところで死にたくなんかないっっ」
胸元を叩かれて、ケイはため息をつくと、次の瞬間フレイの顎を捕えた。
「な・・・・・・」
キスというよりは口を口で塞がれた感じだったが、それは紛れもないキスだ。
フレイは驚きにその瞳を見開いた。そうすると、目を細くしたケイと視線がぶつかった。
その視線は明らかに嘲りと戯れを含んでいる。
「やっ・・・・・・っ」
顔が紅潮したのを感じて、フレイは力の限り、押し返した。
ケイは押されるままに離れて、フレイが動揺しているのを面白そうにみやった。
その様子からすると、一方的に責めるフレイに少し苛ついて、悪戯と警告を込めてしたようだった。
フレイは顔を真っ赤にしたまま、口を手で覆っている。それから少しケイを涙目で睨みつけると、フレイは身体を翻した。
それにケイは肩をすくめて、自分もコクピットに向かった。
「信じられないっっファーストではないにしろっ
普通女子にあんな軽軽しくしないわっ」
フレイは顔を羞恥でか怒りでかわからないままに真っ赤にして、呟いていた。
「あんなやつをカッコいい、なんて思ってたなんて・・・・・・っっ」
フレイはケイが転校してきた際に、他の女子と一緒に騒いでいた。
他の男子とは違う雰囲気を伴ったケイは男子の中にいても目立っていたし、もちろんその容姿や仕草はうっとりするほどに整って、様になっていた。
擦れ違うたびに胸が少し跳ねるのも無理はなかった。
だが、先ほどの有無を言わさない強引さや、人を小ばかにした態度は差し引きしてもどうにも印象が悪い。
「最っっ低っ___っもうっあの目なんて・・・・・・っ」
キスの合間に合った視線を思い出す。
明らかに冷ややかだった。
けれど・・・・・・吸い込まれそうに黒い瞳がやたら印象的だった。
唇を離した後の、悪戯が成功したような面白そうな顔がひどく自然に見えて、あしらわれたと知っているのに・・・・・・
「っまさかっ私がそんな、趣味悪いわけないわ・・・・・・」
フレイは己の頭に浮かんだ可能性を否定した。
まるで言い聞かせるように。
けれど、速い胸の鼓動や、熱い頬は否定しようもなかった。
**************
ケイがコクピットに入っていくと、気付いたフラガが手を上げた。隣には艦長と副艦長がいた。
マリューもフラガもこれで多少は状況が良くなったとにこやかだったが、ナタルだけは反論も出来ずに不機嫌そうにしていた。
もう操作を習い終わったのか、トール達はそれぞれの場所についていて、操作を確認しているようだ。
「彼ら、どうです?」
「もともと基礎できてるし、扱いも慣れてるみたいだから、使えるな。な、艦長?」
「ええ。本当助かるわ。」
「それは良かった。」
ケイは口元だけで笑った。
そうして、ふと思い出したようにマリューに尋ねた。
「そういえば、艦長はストライクのパイロット知ってますよね?」
すでに目で実際見て知っているのに、ケイは確認するようにマリューに尋ねた。
マリューは何故、と言う顔をしてから、自分が下ろされた場にいた子供達の中にケイがいたと思い出した。
「そのパイロット、茶色い髪で紫の瞳の少年じゃなかった?」
「なぜ・・・・・」
マリューが目を見開く。ケイは満足そうに笑った。
なぜ知っているかって?
当たり前だ。あれは俺の・・・・・
「艦長!通信です。」
わずかにその声のなかに歓喜の声が混じっていた。
どうやら朗報のようだ。
「誰から?」
「地球軍艦のようです。」
「繋いで。」
眼の前の大きな画面にその軍艦の艦長が映った。
「こちら、判別番号N2118903 所属E0ー1
そちらは通称アークエンジェルか?」
「はっこちらアークエンジェルです。
私は艦長をつとめさせていただいているマリュー・ラミアス。階級は大尉です。」
「うむ。私はここの艦長のマイク・ロバーソンだ。階級は少佐。
この地域に入ったと聞いて、君たちの護衛に回ることになった。
無事に君たちがそれを地球へ持ち帰ることを祈る。」
「ご協力感謝いたします!sir」
皆が一斉に画面に向かって敬礼をした。
トールたちも戸惑いつつも、それに習う。
と、そこへあちらの画面が変わった。
「やぁ、こんなところでお前にかかるとは・・・・・・私は議員のバロイ・アルスターだ。
今回視察目的でこの艦に同乗している。安心してくれ、私がいてもこの艦の性能は変わらない。
ところで、そこに私の娘が乗っている可能性があると聞いた。
親ばかと思うかもしれないが、私は彼女の安否が心配でならない。もしもいるならば、この通信に出して欲しい。」
「はぁ・・・・・・いえ、はい。ここに貴方の娘さんはいらっしゃいます。
お呼びしますのでそのままでお待ちください。」
あちらこちらでまったく親というものはと、苦笑が聞こえた。それは温かさを帯びたものであった。
「フレイなら、俺が呼んできます。」
サイが立ち上がって、コクピットを出て行った。
その間、また画面が切り替わって、情報交換などの操作が行われ、今のところ近くに追っ手はいないとのことだった。
地球は近い。
このまま何もなければ無事に帰れる。
「・・・・・・このまま追ってさんも諦めてくれりゃ、いいんだけどな。
世の中そう甘くはない。絶対にまた仕掛けてくるな・・・・・・」
フラガが渋面をつくって、唸った。
「いいじゃん。あんたの活躍場面が増えて。」
ケイは皮肉にそう言った。
渋面がこちらを向いて、低い声でケイに聞こえるくらいに言う。
「お前俺のこと嫌いだろ。」
からかう、にしては少し棘がある対応にさすがのフラガもこれ以上無視はできなかった。
針のムシロに座っている___というにはおおげさだが、ちくちくとしたものを感じながら作業するのは精神的によろしくない。
ケイはこちらが見惚れるほど鮮やかに笑うと言った。
「俺、軍人嫌いだから。」
その表情とは別に声は冷えている。
フラガはその底の知れなさに思わず背筋が寒くなった。
*********
「来ました。AAです。」
「来たか。あの三人は?」
「スタンバイOKです。」
「探知機撹乱装置が利いているようで、まだ気付かれていないようです。」
「よし。」
頷いた男は満足げに眼の前のスクリーンを眺めた。そこには赤と白のAAが大きく映し出されている。
男___ギュレットの目にはそれは出世の踏み台に見えた。
「隊長。AAの他にもうひとつ軍艦が・・・・・・」
「何?」
「判別番号N2118903___地球軍艦です。」
「厄介な・・・・・・脚つきのほかにも地球軍か。
三人を出せ。それから、念のために私も出る。用意を。」
ギュレットはそう言うと、コクピットを背にした。
「了解。」
「接続、クリア。適応、クリア。どうぞ。」
「シン・アスカ。インパルス、行きます!」
「ルナマリア・ホーク。出ます!」
「レイ・ザ・バレル。出動する。」
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04.12.9
あとがき
出てきた〜やっと最後の最後にデスティニーキャラ・・・・・・
ところで、サイって結構気遣いないんじゃないかと思って。
最初にキラがラクスを返しに行く時に、キラに「お前は帰ってくるよな?俺はお前を信じてる。」
ていうところとか。なんとなく、友情と見せかけて、実は自分のことしか考えてないような。だって、キラが友人と対峙しているのを知っていて、そういうのって、まるで自分たちを選べ、みたいな感じ。
キラは言われなくても帰ってくると思うのに、念を押しているところは全然信用してないじゃん!という感じです。それにキラがあっちに行っても、結構仕方ないと思うんですよね。そうなったら、友人と戦わなくて良かったね、キラ。ぐらい行って欲しい。
そりゃ、自分たちが危なくなるのはわかるけど。ならはっきりと俺たちを守ってくれ〜っていえばいいじゃん。友情のフリして縛りつけるのってちょっと・・・・・・無自覚なだけに結構残酷だと思った。
そこでサイへの好感度下がりました。
ついでにフレイはサイとは幼馴染感覚。単に慰めてくれる人が欲しいという自分勝手な感じです。
フレイは途中から好きになったのですが、まぁ、最初はこんな感じで〜・・・・・・
それにしても本当フレイ趣味悪・・・・・・(笑)
フレイの父さんの名前は適当。知らないんで・・・・・・(調べろって話)
出動のときのセリフ適当です・・・・・・すみません、すみません。「アスラン・ザラ。出る。」なら覚えてるのに・・・・・・そしてルナマリアとかレイが乗ってる機体の名前ど忘れ・・・・・・えー加減にせいやーな話。汗。