再開する闇


あの少年は一体何だったのだろう。


あの研究所から自分を助け出した少年。
敵であるはずの彼が自分を地球軍のしかも士官と知りつつ助けたことに疑問がわく。

そして、涙。

信じられないほどの速さで目の前に迫ってきた少年。その頬に浮かぶもの。
きらりと炎の光を反射して流れていた涙は、すでに頬を這っていた幾つもの筋のひとつを辿って顎へ着き、零れ落ちる。
その涙を少年は拭おうともせず、自分を真っ直ぐ見た。
綺麗な、透き通った瞳だった。

“殺したくなかっただけです”

今だ拭っていない、まだ涙が生乾きの頬。
少年の仲間を殺したのは自分だと知っているはずだ。
それなのに・・・・・




「・・・んちょ・・・・艦長〜?」

呼ばれたのが自分だと気付いて、マリューは振り返った。そこには少し眉を寄せたフラガがいた。
反応が遅れたことに少し笑って謝罪を示すと、フラガは気さくに笑った。

もともと副艦長だったので、急に決まったその名前はどうにも馴染まない。
そう、船の最高責任者としての名、艦長を受け継いだのはマリューだった。
今のところ、責任者となりうるのは階級からいってマリューかフラガだ。
本来の責任者、この計画の指揮をとるはずの者はすでに死亡したことをマリューは確認していたし、自分達以上の階級を持ったものはその者以外、この計画に参加していなかったからだ。
マリューとフラガの階級は同じ大尉。
よって、この場での責任者は二人の大尉のどちらかとなる。
しかし、フラガがパイロットだから柄に合わないと辞退したので、マリューが艦長となった。それだけだった。

「大丈夫かよ?」
「ええ・・・・」
「準備そろっとできるようだから・・・」

と、突然地下を揺るがす音が響いた。

「爆発?!」

そこにケイの声が飛び込んでくる。

「ザフトだ!」

それを聞いてマリューとフラガの顔は引き締まり、各々の位置につく。

「出発準備は?!」
「今、完了しました。」
「では、アークエンジェル出動!」

エンジン音を立てて、AAが身震いする。これから飛び出すための力を溜める。
そこでケイからの通信が入った。

「艦長、俺は表にいるモビルスーツを相手するので先に行きますよ。」
「気をつけて!」
「りょ〜かい」

どこまでも緊張感のない声で言う。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
音を立てて頑丈な天井が瓦礫を落としながら開いていく。隠されていた地下が今、外の空気を吸い込んでいた。

「モビルスーツ、5機。ジン1機。キョリ1500。来ます!」
「このまま攻撃されれば埋もれるわ。出力全開!開口を待たずに撃ちこんで!」
「了解!」

大きな唸りを立ててAAは砲弾を扉に撃ちこんで無理やり機体をそこに捩じ込ませた。
そうしてAAは地表に参上した。
地上がモニターに映し出されると、すでに6機と1機は戦っていた。

「ちっ」

フラガは宇宙空間ではないためにモビルアーマーを操れない。
戦場にいながら戦いを見ているしかない自分に苛立ち、こういうときに無力という言葉を使うのだろうと少し自嘲してみたりする。

「頼んだぜ。坊主」





「久しぶりだな、会うのは。
いつも戦場で会うのは運命なのか、それとも逃れられない確執のせいなのか・・・・・・」

ケイは鮮やかに迫り来る敵を避けながら、呟く。
最後に突っ込んできたジンをいなして、ジンがバランスを崩した足を狙ってビームサーベルを突き出す。これでジンは動けない。
ジンの中のミゲルは悔しそうに唸り、銃を構えたが、ケイによって蹴り飛ばされた。
その隙を狙って、蒼と白を纏うモビルスーツ、デュエルがケイの前に飛び出してきた。
体当たりでそこから吹き飛ばされる。その後ろからブリッツが切りかかった。
バランスを崩したソレは間違いなく貫かれるはずだった。しかし、ブリッツは何の手ごたえも感じなかったのだ。

「なっ?!」

思わず、ブリッツに乗っていたニコルが声を上げたのも無理は無い。
信じられないほどの反応で、ソレがわずかに切っ先をかわすように体を捻ったのだった。
その反応はいくらコーディネーターでもよほど反射神経がよくなければできないだろう。、切っ先をかわしたその動きは相当戦い慣れたもののそれだった。
驚いて一瞬反応が遅れたブリッツをケイは逃がさない。
迷いなくビームサーベルをコクピット目掛けて貫いた____つもりだった。

「?!」

突き刺したはずのビームサーベルが横から下ろされたビームサーベルに弾かれたのだ。
それがストライクだと感知するや否や、ケイは次の攻撃に備えて、相手と距離をとった。

「来たか。」

ストライクのパイロット___キラに向けて、にやりとケイは笑った。
その間にバスターが高エネルギーライフルを構えて撃った。バスターを扱うのはディアッカだ。

「くそっ」

さすがに5対1はつらい。
ケイは紙一重でそれを避けると、ジンの持っていたライフルを掴んで周りに乱射した。
一瞬、煙で周囲が見えなくなる。
突然、煙の中からブリッツに向かって黒い物体が突っ込んできた。
ブリッツは急いでそれに銃剣をつきつけた。それは銃剣に深々と突き刺さり、停止した。
だが、その停止したものにどこからかライフルが浴びせられ、ブリッツを巻き込んでそれは爆発した。
その爆風であちこちの建物が破壊されていく。
まだ残っていた人々が逃げ惑い、幾らかがその建物の下敷きになった。

「・・・・・・ひどい。」

キラは思わず眉をひそめた。
その途端、横からケイが飛び出した。ライフルを乱射され、キラはHLシールドをもって必死にそれを凌ぐ。


爆風がある程度収まると、状況がつかめた。
爆発の中心にいたのはブリッツともう一体。
ブリッツは原型をとどめているが、活動が停止してしまっている。コクピット内の状態も通信が砂嵐でわからない。
一方、もう一体はブリッツの銃剣に刺さっている残骸から、ジンだと知れた。
ジンの中心___つまりコクピットが配置されているところはおそらくはライフルで狙い撃ちされ、ぼろぼろだった。熱でひしゃげた装甲の中での生存率は絶望的だ。

「ミゲル!!」

ザーザー・・・・・

砂嵐だけが通信画面を支配し、沈黙がキラたちの中を走った。

「ミゲルーーーーーーーっっ!!」

アスランの悲痛な叫び声だけが通信に響いた。

「くそぉおっ」

デュエルに乗ったイザークがキラと交戦していたケイに襲い掛かった。
ケイに再び体当たりを食らわせて、遠くへふっとばした。

「ディアッカ!」
「おうよ!」

イザークに返事したと同時にケイがふっとばされた方角にリニアレールガンが発射された。

「おいおい・・・・・・」

ケイが初めて驚きの声で呟く。
倒れていた機体を立て直す暇もなく、ケイは機体を横に転がして光線の軌跡から逃れた。
目標を見失った光線はそのまま進み、ヘリオポリスの中央を支えていた巨大な運搬用パイプへとぶつかった。
資源衛星であるヘリオポリスは資源を運搬するために、巨大なパイプが中央を走っている。そうしてそれはまた、通信やエネルギーの重大な供給場所でもあるのだった。
頑丈なそれはちょっとやそっとでは崩れないが、今回ばかりは宇宙用の、それもかなり威力の高いものが当たったのだ。崩れない方がおかしい。
それでもさすがというべきか、それは固定されたワイヤーなどを地上に降らせながらも急には倒れこまなかった。

「今のうちに離脱しましょう!」

支えを失ったヘリオポリスが崩壊するのも近い。
AAはばらばらと落ちてくる破片を避けながら、宇宙港の出口へと向かった。ケイもそれを追いかける。

「待てっ」
「イザーク!」

イザークがケイを追おうとしたのと、アスランがそれに制止をかけたのがほぼ同時。

「深追いするな。とりあえず撤退だ。」
「何故貴様が指図する?」
「隊長からの通達だと言えば納得か?」
「・・・・・・了解。」

イザークがしぶしぶといった体でアスランの後に続く。その後にキラがニコルを片手にぶらさげて続き、さらに後にジンの残骸を念のため持ったディアッカが続いた。

ヘリオポリスが崩壊したのはその20分後。

脱出の途中で救難信号を出していた救難ポットをケイが拾ったのを、キラは知らない。
そしてその中に、かつての友人らが乗っていたことも。




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04.7.15
あとがき
ガンダムの装備は適当です。すみません。資料が手元になくて・・・・適当にダサい名前をつけてしまいました。適当に想像してやってください。(汗)覚えていた武器も威力がわからないため、適当に使いました。すみません。(><;)そしてヘリオポリス崩壊の理由も違います。(あの壊された名前を忘れた為・汗)小説買えばいいのだけれど・・・・・・(^ー^;)
それにしても、いつも思ってたのですが、接近用のブリッツがニコルで、遠距離用のバスターがディアッカって・・・・・・反対じゃないか??といつも思っていたのは私だけ??でも、これ↑も普通にそのままです。