「今夜、ここを出る。」
「契約だからね、仕方ないか・・・・・・」
「・・・・・・」

だってお前は俺と契約したがらないんだもんなぁ・・・・・・
そう言って笑う綱吉にリボーンはどこか違和感を感じる。
否、違和感を感じたいだけなのかもしれないが。










「今日さ、ちょっと外出したときにさ、子供の声が聞こえたんだ。」

思い出すように窓の外を見る綱吉にリボーンは無表情に倣う。
カーテンがしっかりと閉まったそこは布切れ一枚だというのにまるで鉄格子がはまっているようだと思える。

「・・・・・・お前、また抜け出したのか」
「最後くらいはお説教なしにしてきいてよ___それで、その子供がさ、言ったんだ。『将来鳥になりたい』って。
それから母親の声がして、母親は『どうして?』って聞いた。」

「子供は答えたよ。『自由だから。』と。」

綱吉の話の真意がとれているのか、いないのか、やはりリボーンは無表情に相槌を打つ。
それとももう、どうでもいいのかもしれない。
別れる相手の世間話など、覚えておいても仕方ない。
綱吉はリボーンに顔を向けないままに聞く。

「本当に鳥は自由だと思う?」
「俺は鳥に興味はねぇよ。」

答えを望まない声にリボーンは適当に相槌を打つ。
そういうと思った、と綱吉はいつもと同じように苦笑する。その横顔が少し寂しそうに見えるのはリボーンの気のせいなのか。
リボーンはその横顔の輪郭をゆっくりと目で辿る。

「答えはNOだ。
鳥はさ、確かに地べたを這わずに、空を自由に飛ぶけど、疲れたら木に止まらなきゃいけない。
結局重力っていう枷に縛られているんだよ。
まぁ、重力がなきゃ飛ぶって概念もないのかもしれないけどね、自由じゃないよね・・・・・・
どこへ行っても、結局人間と同じく重力に影響されるんだから。
そう思うだろ?リボーン。」

そう言って、綱吉はリボーンの方を向いた。
綱吉の輪郭を辿っていた視線は自然とこちらを向いた綱吉の視線と合う。
目で問う綱吉に、リボーンは硬質の声で言った。

「何が言いたい。」
「お前も鳥と同じだ。」

何、とリボーンはそこで初めて表情を僅かに崩す。
その秀麗な眉が顰められたことに、綱吉は満足したように頷いた。

「お前が生まれてまもなくから10年間、ずっと共にいた。
俺はお前の重力であり続けるよ、これからも。
お前はこれから契約が切れてフリーになって自由にどこへでも行ける。それこそ鳥のように羽ばたくだろうけどね、どこにいても重力と同じように、俺をきっと思い出すよ。」

自信満々に綱吉はそう言う。
それにリボーンは再び無表情の仮面を被ると言い放った。

「ふん。言いやがる。」

それから、リボーンは足音も立てずに無駄な動作のない足取りで出て行く。
その背中を睨みつけるように凝視しならが、綱吉は言った。
言葉が届くように、はっきりと。

「俺はお前の重力だ。」

綱吉が言葉を発したと同時にばたん、と扉が閉まった。
ふぅ、と綱吉は腰掛けていた椅子に深く腰掛けてため息をつく。
そして次の瞬間、表情を崩した。
扉に駆け寄り、扉を開く。
どこまでも続いてそうな広く長い廊下を見渡して、見慣れた背中がないことにまたため息を吐く。

「・・・・・・」

くしゃりと崩れた表情のまま、その奥に消えたはずの背中を見つめる。





「なんて顔してやがる・・・・・・」





聞き慣れ過ぎた声。
けれど何よりも求めていた声。



振り向く。

どうして・・・・・・驚いて瞳を見開く顔をじっと見つめる。
ついで、泣きそうな、寂しそうな、安心したような、そんな複雑な表情がリボーンの瞳に映る。



「ボスがそんな顔してんじゃねぇよ。」


本当になんて顔してやがる。


「リボ・・・・・・」


鳥・・・・・・か。


「ったく。はったりだけ上手くなりやがって。
あれだけでけぇ口叩いたんだ。」

リボーンの手が綱吉のネクタイを掴む。
さほど力を入れずに引き寄せて、息も触れ合うくらいの近さで囁く。
間近に見るその深い闇の色に綱吉はくらくらと眩暈を感じた。


「しっかりお前の『重力』とやらで縛り付けとけ。」


しっとりと口付けを交わした少年はそうして確信犯のように笑った。






05.6.13