猫が死んでいた
時折、その通りを眺めていると、その猫は決まってこちらを見ていたものだった
黒くて大きな車が目立ったこともあっただろう
けれど外側からは決して見えないはずの自分の瞳を
じっと見ていたと思ったのは気のせいだろうか
猫が死んでいた
時折、餌をもらっていた猫
時折、爪を食い込ませた鼠をくわえていた猫
時折、いじめられていた猫
その大きくて茶色の瞳はじっとこちらを見ていた
猫が死んでいた
自分を見てくる猫にある日、近寄ってみた
引っかかれた
怯えているんです、と右腕は言ったが、憎まれているように思えた
瞳孔の長い猫独特の瞳がじっとこちらを見ていた
猫が死んでいた
近寄ってから数日後
猫はいつものところではなく、路上で血まみれになって横たわっていた
通りの左側でしか見かけなかった猫
何のために渡ろうとしたのか
何に惹かれたのか
それとも、猫はもう左側の世界に飽きたのか
新しい世界を見たかったのか
それともそれとも車を止めたかったのか
猫
「泣いているのか?」
「・・・・・・泣いてるよ。」
悲しいときはね、涙を流すものなのよ
「・・・・・・お前は泣かないんだね。」
悲しいときはね____
「泣くモンなんだって。」
「うるせぇな。」
いつまでもメソメソしてんじゃねぇ
「いつもね、俺を見てるんだと思った。」
「何?」
「気のせいかもしれないけど、いつも目が合った気がした。」
貴方の手をわずらわせることないです、と言った右腕は一人にして、という言葉で去っていった。
自分の手で、墓を作りたかった。
敷地内だとまだ対立している幹部に何かしら言われそうだと思い、近くの森に墓を作ることにした。
それに自分を憎んでいる猫も死んでからまで自分を見たくないだろうと思った。
「憎まれているって、思った。」
「猫がお前を憎む理由があるのか。」
「ないね。」
「おい」
「憎む、というか嫌い、な感じかな。」
「猫の気持ちがいつから分かるようになったんだ、お前は」
「別に。そう思い込んでるだけかもしれない。」
猫を埋めて、土をかける。
上等のスーツが土で汚れて、手も土色になってしまった。
何か足りないな、とそこらへんの枝を広い、十字架をつくってみる。
それを墓に立てようとしてから、ふと気づいて、後ろにいる少年に聞いてみた。
「猫って、宗教あるの?」
「あほか。人間しか信仰なんてもんはしねぇんだよ。」
「ああ、そうだね。う〜ん無宗教なら、十字架ってのはやだよね・・・・・・どうしようかな・・・・・・石でいっか。」
「いらねぇよ。」
「?リボーン?」
それまで青年がすることを黙って見ていた少年が、石を探そうとした青年の手を掴んだ。
どきりとするほどに深い漆黒の瞳が青年を見据えた。
「いらねぇ。何も。ただ、土に帰れれば、それで十分だろう。
十字架も、示す石もいらねぇ。
帰れれば、十分なんだよ。」
「何それ。リボーン論?」
いつもより饒舌な少年にくすり、と青年が笑った。
「悪いか。」
「まさか。そうだね、いらないか。何も。
でも、そうすると墓参りできなくない?」
「お前、顔見たくないと思うんだよね、と言っておきながら、また来るつもりだったのか?」
「だってあっちが嫌ってても、俺は嫌いじゃなかったし。」
それにさ、俺の車に飛び出してきたとき、なんか、俺を引き止めたかったのかなって思ったんだ。
「・・・・・・」
「『私のお墓の前で泣かないで下さい。
私はそこにはいません。
私は土に帰って自然に帰ってそうして風になります。
貴方を包む風になります。
だからお墓の前で泣かないで下さい。
私は風となって貴方の側にいます。
風となって貴方の頬を撫でるのです。』って詩がさ、あったよね?」
くるり、と振り返ってにこりと笑えば、くい、と片方の眉を上げた少年。
猫の墓に少し目線を落として、少年はぼそりと訂正する。
「・・・・・・間違ってるけどな。」
「う・・・・・・大体あってればいいじゃないか。」
「大してあってないけどな。」
「・・・・・・お墓の中にいなくて、風になるってところはあってると思うんだけど・・・・・・」
ぶつぶつと詩の内容を確認する青年に少年はわずかにその口元を上げた。
青年は気づかない。
「・・・・・・相変わらず最後がしまらねぇやつだな・・・・・・」
「うるさいなぁ。とりあえず!!そういうことなんだよな。うん、そういうことにしておこう!!」
無理やり納得すると、青年は猫を埋めたところにぱらぱらと種を蒔いた。
強い花だと聞くから、きっとこの森でうまく育ってくれるだろう。
そうして風に揺れるだろう。
あの瞳にもうじっと見つめられることはないのだと思うと、なんだか物悲しい。
青年はじっと墓を見つめて、僅かばかりの寂しさをもてあました。
「・・・・・・墓の前で泣くな。風になる・・・・・・か。」
それも悪くない
ぽとり、と墓の前に一輪の花。
「リボーン?」
「花が咲くまでの間、何も飾ってやらないつもりか?」
相変わらず気の利かない奴だと、少年は笑う。
それにつられて青年も笑ったが、その笑顔はすぐにくしゃりと崩れた。
「・・・・・・この猫さ、あっちにいたときに近所にいた猫に似てたんだ。
外見は似てないんだけど、ちょうどこの猫みたいに気位だけは高くてさ。」
少年は何も言わない。
小鳥の声が、二人の沈黙をより深くさせた。
「見るたびに、目が合うたびに、怒ってるって思った。
ぐずぐず悩む俺を怒って、情けないって、そんなの嫌いだって。」
ぐ、とこみ上げるものを堪えるように拳を固める。
肩を怒らせて、溢れるものを飲み込む。
たかが、猫一匹だ。
けれど____
「本当にダメだな、お前は・・・・・・」
呆れて、怒られるかと思った声は存外優しくて。
堪えていたものがひとつ、零れた。
抱きしめてくれた身体はいつもよりあったかくて。
自分より小さいはずの身体に縋り付いて。
悲しいときはね、涙を流すものなのよ
お墓の前で泣かないでください
私は風になります
あたたかい風が、そっと一輪の花を揺らした
05.7.20
あとがき
突発的に書いたもの。やっぱりわけわからないよ・・・・・・あの詩は実際あるんですよね。でも私もうろ覚えで。
でも、「お墓の前で泣かないでください。私はそこには眠っていません。
私は幾千もの風になります。」とかいう感じのフレーズがすごい好きで・・・・・・・911のときに話題になった詩なんですけどね、作者は不明らしいです。結構古い詩らしいですけど、よく覚えてません;;でもいい詩ですよね!
風になる、ってさ。
書き始めたきっかけは・・・・・・やばい、ラブラブリボツナかいてないよ!私!ってことで。
最初、リボを泣かそうと思ったのに・・・・・・猫出てくるし。本当は誰か死なせようと思ったんですけどね・・・・・・死にネタ嫌いだし。(痛くてさ)
猫はなんかだんだん書いてたら、バンプみて〜と思いつつ・・・・・・黒猫じゃないですから!!ツナにちょっと似ている感じにしようかと思って茶色の瞳。たぶん三毛じゃないですか。(適当)