「クフフフ・・・・・・こんばんは。」
「・・・・・・どうしてみんな窓から入ってくるのかな。」

真夜中だというのにスーツを着たまま執務机に座る青年に不法侵入者はまぁるい月を背に微笑んだ。


地獄



「どう?孤児院の方は」
「・・・・・・心配なら御自分で確かめに来たらいかがです。」

きらり、といたずらめいた光が侵入者の瞳を輝かせた。
それに苦笑めいた表情を見せて、青年は言う。

「俺のこの忙しさをどうにかしてくれたらね。」
「おや?いいのですか?」

疲れたような声にひどく楽しそうな声が乗る。
くつくつと喉を震わせて笑う相手に青年が鋭い視線を向けた。

「・・・・・・だめだよ、骸。お前今、皆殺しにしようって考えただろ。」
「冗談ですよ、ドン・ボンゴレ」
「お前のは冗談に聞こえないよ・・・・・・」

ふぁあ〜とあくびをして、若きドン・ボンゴレ____沢田綱吉は腕を伸ばした。伸ばした手を近づいてきた侵入者____骸はまるで壊れ物でも扱うようにそっと引き寄せて、接吻をする。
それから、またいつものつかめない笑みを綱吉に向ける。

「わかっていますよ、ボンゴレ。貴方が生きている限り、このファミリーには手をあげませんよ。」
「自惚れるな、骸。俺のファミリーはお前ごときで壊れない。」
「どうですかね・・・・・・クフフフ」

妖しく信用のできぬ笑いをして、骸は綱吉を見る。骸はいつもそうやって綱吉の心を揺らしにくる。
けれど、実際、骸はボンゴレファミリーだけでなく、他のファミリーにも手を出していない。この10年間____綱吉と会ったあのときから、ずっと。

「そういえば、ミレオが貴方に会いたがってましたよ。」

ころり、と笑いを消して穏やかな表情になる骸。それが故意なのか無意識なのかわからないところがさすが骸といったところだろうか。
ミレオ、ミレオ・・・・・・と綱吉は記憶を辿る。前に孤児院をお忍びで訪れた時のことだ。

「ああ。ミレオか。あのやんちゃな・・・・・・」
「貴方にお礼をしたいと。」
「お礼?ああ・・・・・・あれねぇ・・・・・・というか、あいつ、あれから泳げるようになったの?海恐怖症とかになってない?」
「大丈夫です。溺れれば貴方が助けてくれると思い込んでいるようで。順調に泳げるようになっていますよ。」
「・・・・・・変な思い込みいれないでくれる?」
「僕じゃありませんよ。あの子が勝手に思い込んでいるんです。全く図々しいですよ。」

そう言って骸は少し口をきゅ、と結んだ。

「?骸?」

骸はくるり、と綱吉に背を向け、遠ざかる。
足音は闇に吸収され、ただ遠ざかっていく姿のみが月光に照らし出されていた。
闇が似合う男は周りにたくさんいるが、この男の纏う闇はどこか深く冷たく、絡みつくようなものがある。
それはこの男が経験して、記憶も持っているという地獄の空気なのかもしれない。

「僕は貴方にあのとき命を救っていただいた・・・・・・否、命じゃない、魂を救っていただきました。」
「そんな、大げさな・・・・・・」
「本当に、そうだったんですよ、ボンゴレ。
僕にとって、復讐して世界を壊そうとしてたときに貴方が、僕を貫いて_____そして抱きしめてくれた。」

骸はあのときのように、がくり、と膝を床についた。
あのとき、ただ倒れまいと、面白いが、こんな奴らに負けなどしない、と必死で保っていた上半身。
血まみれの顔で、瞳をかっと見開いて、骸は綱吉を見据えていた。
むせかえる血の匂いに、また地獄に行くのだろうと頭の中で微かに考えていた。
近づいてくるボンゴレにただ一矢でも報いて、この腐った__否、地獄よりも地獄である世界にさよならを告げる。
それで終わりだと思っていた。
けれど____

「命なんてどうでもいい。また地獄を回ってくることなど、この人間の世を渡ることに比べたらはるかにたやすい。
けれど、貴方は・・・・・・僕の魂を救ってくれた。
貴方がいるだけで、この世界は生きる価値がある。
貴方がいるだけで、この僕の胸の鼓動は打つ価値がある。
貴方がいる。それだけで、僕は心から、笑える。」

骸はゆっくりと瞳を閉じる。
自然とその口元が微笑む。
月光に晒された姿はまるで明日処刑が行われる罪人のよう。
罪を許せと神に祈っているのか。
それとも、もう、諦めたのか。
こういう人生だと開き直ったのか。
あれで良かったのだと、満足しているのか。
後ろから、看守が、裁判官が、処刑台が迫る。
けれど、今後ろにいるのは綱吉だけだ。
綱吉はその身体を後ろから抱きしめる。
ただ、抱きしめるだけ。

「許しなどしないよ。ただ、俺は貴方を殺したくない。」
『許しなどしないよ。ただ、俺は貴方を殺したくない。』

ゆっくりと、伝わるように

「殺して訪れる終わりにしたくないんだ。」
『殺して訪れる終わりにしたくないんだ。』

震える声の理由は知らない

「貴方を救えるとは思わない。」
『貴方を救えるとは思わない。』

傲慢な考えなどない貴方が愛しい

「ただ、少しでも・・・・・・貴方が人間を好きになってくれるなら、嬉しいんだけど。」
『ただ、少しでも・・・・・・貴方が人間を好きになってくれるなら、嬉しいんだけど。』

最後は自信無さそうに、口元をぎこちなく微笑ませて

どれだけ、どれだけ洗われたか、わからないでしょう。
僕がどれだけ、泣きそうになったか、知らないでしょう。
堪える嗚咽は伝わっていたかもしれないけれど。
もしかしたら生まれて初めてかもしれない、胸に広がる温かな何かに、驚愕してたなんて。
知らないでしょう。
ぽっかり胸に空いた空間を埋めた何かなんて。
知らないでしょう。


ずっと、言わないでおこうと決めていたんですけどね。
どうも、今回はやばそうだと思って、焦っているんでしょうかね。
ねぇ、ボンゴレ。
ねぇ、沢田綱吉。

「おやすみなさい、ボンゴレ。さようなら。」
「え?骸・・・・・・?」

この腕にいたと思った身体はいつの間にか窓の外に消えて。
窓から入る風にそこにあったぬくもりも消えて。
彼の存在はこの部屋から消えてしまった。

「・・・・・・骸?」



マフィア界を追放されたから、綱吉の手伝いをできるわけもなく。(もしそうしていたらボンゴレはマフィア界で信用をなくしていただろう。)
何かまじめな、世間の仕事をしろ、と言った。
孤児院を開く、と聞いたのは7年前。
その前の3年間はよく知らない。
とにかく、俺は喜んで骸の手をとった気がする。あのときの骸の微笑みも忘れられない。
それから時々部下にばれぬように孤児院を訪れた。
世間をまだ汚いと思う骸の性質が現れているように、そこは夢のようなところで。
骸が子供たちを世間から敏感に守っているように思えた。
ほほえましくもあり、少し不安も感じた。
自分がいけない時はリボーンを行かせた。
そうして、1年した頃、自分の愚かさに気づいた。
骸を知るマフィアが彼を見つければ、ただでは置いておかないだろうと。

『そこらのマフィアと対戦してもあいつなら勝つだろうけどな。
マフィアの復讐となると別だ。今のところそんな動きはないようだが・・・・・・』

「・・・・・・骸・・・・・・リボーン・・・リボーン!!」

綺麗な月光が雲に遮られて、部屋は真っ暗だ。
その真っ暗な闇の中、泣く彼を見た。
彼は今でも、泣いているのだろうか。




05.12.26
あとがき
中途半端ねぇ!!すみません。中途半端に続きそうなもの書いて。
続けてもいいんですけど、気力がもちませんでした。きっと気が向いたら(ひど)
本当に久々の更新です。
骸とツナの交戦に萌えました。ジャンプもえもえしております。
骸大好き〜骸がやられる前に書きたいと思ってまして。書きました。。
題名は骸だ、というものを特に何も考えずつけてみました。(だって最初考えていたのと違う話になったので;;)