「十代目……」

かつての懐かしい姿を見れたのはほんの数分。
その後、俺は再びあの人のいない世界にとばされた。


懐古〜遺言





あの人の、家。
どうやら10年前の俺は今日、ちょうどあの人の家のチャイムを鳴らそうとしていたらしい。
なんとも、のどかな話だ。
けれど、いつまでもこうしてあの人の側にいれると思っていた俺も、今日か明日かにはその限界を知ることになる。

ピンポーン

物思いに耽って壁に寄りかかるついでに押してしまったらしい。
慌てて姿勢を整えて、さて、どうしようかと焦る。
自分はここでもやらなければならないことが残っているのを、つい懐かしさに忘れそうになった。

ガチャ

見慣れた顔よりも幾分若い顔が現れた。
ふと、その首を傾げる。

「あら?獄寺くん…?ちょっと大人っぽくなったかしら?」

あの人の天然もこの目の前の女性の血かと思えば、自然と顔が綻んだ。

「お邪魔します。」
「あ、でも、つっくん、前からいないのよ。探してくるから部屋で待っててくれるかしら?」

この世界にはもういないことを知らない女性が、獄寺にはかわいそうに思えた。
あの人を探して彷徨う女性の姿の想像がいつの間にか自分の姿に変わる。

「いえ、わた…俺が行きます……その前に荷物だけ部屋に置いておきますね。」
「あら、そう?ありがとう。じゃあお願いするわ」

懐かしい玄関を抜けて、リビングを横目に階段に足をかける。
とん、とん、という足音は昔の自分の足音よりも軽やかさを欠いているように思う。
ドアノブは恐る恐る手をかけたにもかかわらず、容易に中から開けられた。

「ぶわはははは!!よくも俺様のなわばりを荒らしてくれたな!!」
「去何処!!」

逃げるイーピンに追いかけるランボ。
今見れば可愛いかと思ったが、さして印象は中学のときと変わらなかった。
つまり、『少々』うざい。
三つ子の魂百までとはよくいったものだと思う。

「10年後もうざいことは変わらないしな。」

誰もいなくなったあの人の部屋。
乱雑に机に置かれた教科書や漫画が生活感を伝える。

「確か、ここが俺の定位置。」
テーブルの一辺に座った。

「そこが、山本。」
その辺をちらりと一瞥する。

「ここが、あの人」
手で触って、にこりと笑う。

そうして、その手をまじまじと見た。
先程、過去のあの人を触った手。
まだ、細い、弱弱しい身体だった。

「好きです。」
足りないと思った。
「愛しています。」
全然足りないと思った。
「俺の、存在意義そのもの」
少し、近いと思った。
「俺の、唯一の、光」

少し呆れた顔の、その人。
もう、いない。
いなくなった後、そのことを考えまいと突っ走ってきた。
走らなければ、後ろを振り返ればきっとこの足は動かなくなると分かっていたから。
けれど、ここには、あの人の匂いが多すぎる。
いやでも思い出させる。

「じゅうだいめぇ……」

あの人の顔はひどく安らかで。
不安を覚えた。

「じゅう、だいめ……っっ」

きっと、最期に、彼のことを考えていたのだと思った。

「さわだ、さん……っっく」

ここは懐かしい匂いがしすぎる。
いっそ、このまま、この匂いに抱かれたまま____


『君だから、残していくんだ』


かつての会話。
「っっ____っずるいっひとだっ」

でも、今だけ。
今だけ。
今だけ。
貴方が生きていると、錯覚させて欲しい。

ここから出たら、目を逸らしはしないから。







07.08.08
過去に来たことはかなりつらいことだと思う。
戻れない過去を直面することはとてもつらいだろうと思う。