「おんし、強いのぉ。」

大声に振り返ればそこには男が馬鹿みたいに嬉しそうに立っていた。





あんこ






「全部1人でやったんがか?」
「・・・・・・」

もじゃもじゃと鳥の巣にでもなりそうなくらい髪が絡まった男がまるでナンパするように気軽に聞く。
男が踏んでいるのは天人の死体から流れ出た血の海だというのに、そんなことは茶飯事とでもいうように笑う。
それを裏付けるように男の懐から黒光りする銃がちらりと覗いた。
しかし、対する少年は眉すら動かさず、刀を片手にじっと男を見ていた。

「ちょうどわしらが追っていた奴らじゃき、礼を言う。」
「・・・・・・」

男は少年からの反応が全然ないので、口が利けないか、耳が聞こえないのではないかと思った。
しかし、そんな男の内心を見透かしたように、少年は男の姿をてっぺんからつま先までじっくりと見ると、こう言った。

「それ、鳥住んでる?」
「は?」

男が耳にした言葉はとても予想できたものではなく、そして声は予想よりも柔らかく、高かった。











「お礼じゃき、遠慮せずに食べてくれちょって構わん。」
「・・・・・・」

少年の目の前には団子が積まれていた。
なんでも男がお礼と言って少年の手を引っ張って茶屋に連れてきたのだった。
少年が何かを言う前に男は好き勝手に団子を注文し、ばくばくと食べ始めた。
その団子の山の半分を少年側においたまま、その言葉と手は止まらない。一体どうやって租借しているのか不思議なくらいだ。

「おんしゃ、なんでこげなところにいるんじゃ?
親は・・・・・・ってこんな時代じゃき、子を捨てる親は多いかの。
まっこと嫌な世の中になったもんじゃあ。」

そう言って、団子を口に詰めながら男は顔をしかめた。
少年はそんな男を見ていたが、ひょい、と突然男側の皿から団子をとって食べ始めた。
その速度は男に勝るとも劣らない。

「おっ負けんぜよ!」

いつから勝負になったのか、二人はそれから無言で手と口を動かし続けた。
何故か二人の顔はこれでもないくらい必死で、滑稽とすら言われそうな様だった。











「おんし、やるの・・・・・・わしを負かした男はおんしが初めてぜ・・・よ・・・・・・」

そう言うと、男は倒れた。
足元に倒れてくる男を少年は軽やかに避けて、仰向けになった顔に向けて舌を出した。

「俺に勝とうなんざ一万年早い。」
「言うぜよ。こんガキャ・・・・・・」

悔しそうに男が呻くと、少年は首を傾げた。
どうも腑に落ちないことがあるらしい。

「さっきから気になってたけどよ、俺、そんなにお前より下じゃないぜ?」
「はぁ?そげんひょろひょろでか。」
「仕方ねぇだろ。そんなに栄養よくねぇんだから。
正確な年は数えてねぇからわかんねぇけど、多分、少し下だ。」
「わしゃ16になったき。」
「あれ?同じか、一個上くらいだ。」
「どっちが」
「お前が」
「そげんか?背低いの〜おんし」
「うるせぇ。そう変わらねぇじゃねぇか。」

確かに少年は男よりも10センチほど小さいだけのようだ。
しかし、背よりもその細さで幼く見えるのかもしれない。
泥で汚れた元々白いであろう着物から覗く手足は目を引く細さと白さである。
男は道に転がったまま、に、と笑って、それから腹筋を使ってばねのように起き上がった。

「それじゃ、こんどは甘味屋いくかの。」
「お前食えんのかよ、それで」
「余裕じゃ、あっはっはっは!___うっ」
「げっ」

今度は少年の腕をつかむと、スキップをする勢いで甘味屋を目指す。
途中途中お腹いっぱい過ぎて吐きそうになること以外は道中穏やかだ。

「わしゃ、坂本辰馬ぜよ。よろしゅう。」
「・・・・・・銀時」
「え?金時?」
「ぎ、ん、と、き」
「なんじゃ、あの金太郎とおんなし名前かや?めでたいの〜」
「めでたいのはてめぇの頭だ!!俺は銀時だっつーに!!」

銀時はそのもじゃもじゃした頭を思いっきり殴った。
大きな音が道に響いたが、もじゃもじゃがクッションになっているのか、辰馬は笑うばかりだ。

「・・・・・・変な奴。鳥飼ってねぇくせに。」
「なんじゃ、そんなに鳥好きがか?メルヘンじゃの〜」
「うっせぇ!花も恥らう16なんだからいいだろ?!それに鳥はメルヘンにはいらねぇ。」
「そうかや?でも、さっき、鳥を頭にのせてたじゃろ?」
「・・・・・・てめぇ、いつから見てやがった?」

きらり、と銀時の瞳が深紅に光った。
もしもそれが刀だとしたら、それを見た瞬間に辰馬は切れていたと思うほどに殺気がこもっている。
しかし、それも一瞬で消える。

「おんしが初めの天人を斬るところからぜよ。」

辰馬は素直に答える。
本拠地を奇襲してきた天人を追っていたところ、どうやら森に天人は他に多数仲間を呼んでいたことを知った。一人ではどうもたちうちできそうになかったので、とりあえず尾けていた時に、その天人たちが銀時に会ったのだ。
細くて生気のない少年を見た瞬間、もうだめだと思った。
いくら自分が飛び出したところで、少年に生きる気がないと意味がないと思った。
それならば、成り行きを見て、頃合いを見計らって仲間に知らせを飛ばせばいいだろう。
しかし、その予想は大幅に裏切られた。
瞬きをした直後、天人の3人が倒れた。
少年が斬ったのだと気づいたときは半分が地に臥していた。
あのか細い腕にどれほどの力が宿っているのか。
辰馬は目を見開いて残りがやられる様を頭に焼き付けた。

まるで、夜叉のようだと思った。
人でも天人でもない。
ただ、森を支配する、夜叉のようだと思った。
気高い存在。
人も天人も同じ。
同じく裁く、夜叉。

最後の1人を切り伏せた後、こちらを向いたその瞳は赤。
殺された、と思った。
しかし、同じ茂みから鳥が飛んで銀時の頭に止まると、その瞳を和らげた。
辰馬はじっとりと背中に冷や汗が浮かんだのを感じた。

「やっぱ、あれはお前だったか。」
「すまんの。盗み見して。」
「いや。別に。」

さっきの殺気はどこへやら、銀時は先程と同じ生気を感じない瞳を顔につけて、のんびり歩いている。
止まった辰馬は随分と銀時に遅れをとってしまい、近づこうと小走りに近づく。
待とうというのか、銀時が止まった。
そして、振り返らないままに言う。

「お前は俺を怖がらないんだな。」
「?なんじゃって?」
「いや。」

辰馬が隣についたとき、銀時はどうしても弧を描く唇を抑えるのに必死になった。
それを辰馬が不思議がっている間に二人は目的の甘味屋についた。

「おお、ここじゃ」
「・・・・・・」
「どうした?」
「いや・・・・・・」

銀時はふと、嗅いだことのある匂いに気づいたのだ。

「ここのあんみつが最高においしくての〜あとまんじゅう。」
「まんじゅう・・・・・・あんこ・・・・・・」
「銀時、こっちじゃ。」

座敷にどかっと座り、銀時を手招きする。
その様子がどこか、かつての人を銀時に思い出させた。

死んだあの人。
もう戻らない思い出。

まんじゅうとあんみつが運ばれてくる。
甘い、あんこの香り。


『うっわ。うまっ!これ、すっげぇうまい!!』
『そうか。それは良かった。私もこれがとても好きなんだよ』
『松陽が時々させる甘い匂いって、これだったんだな』


まんじゅうに齧り付く。
温かな皮と熱いまんじゅうが口の中に広がる。

何故だかすごく泣きたくなった。


『あつあつっ!!火傷した!』
『そんな焦って食べるから。ほら』
『ありがとう。って、お茶も熱っ!』


「どうかしちょったか?金時?」
「金時じゃねぇ・・・・・・別に。ちょっと、ちょっとだけ・・・・・・」



「アツかっただけだよ。」



熱い。
指が。
胸が。
目頭が。




守るための力だった。
そう言ってくれたのに。
それでも守れなかった俺は、何のためにここにいるんだ。
松陽・・・・・・




目の前の何もわからない男はそれでも馬鹿みたいににこにこと笑っていた。








07.09.11
あとがき
辰馬と銀時の馴れ初め。
多分松陽先生が殺されてから一旦別れて銀時が辰馬と会って、それから徐々に桂、高杉と会うと思う。