お前だけは逃がしてあげる
それがあたしの償いだから
だから無事に逃げて欲しい
ハナの火
まぁた誰か拾ってきたんか
仕方ねぇよ、そうゆう奴らが集まってるんやけ
違いねぇ
俺らは捨て犬、捨て猫集団よ
「ありがとうございました!」
「どうも、またお越しくださいまし。」
小さなテントから多くの人がぞろぞろと出て行く。
その足音に混じる銭の音。
芸に対するお金だ。
今夜は都会に近いせいか、人も稼ぎも多い。
「ほら、ありがとうって、ギン」
「あ、ありがとうございました」
「あらあら、偉いのね。」
器量の良い少女の隣に銀髪の小さな子供が立っていた。
多くの人に少し怯えているのか、身体が固い。
この子供もどうやらこの芸人の一座の一員のようで、特殊な格好をしている。
白い肌に銀色の髪。
目立たないわけはない。
それに加えてなかなかどうして目鼻立ちも綺麗なようだ。
通っていく客の多くがこの子供に声をかけて去っていく。
「ギンは人気者だね、あたしも鼻が高いよ。」
「こら、ハナ。なんでてめぇがいきがるンでぇ。」
「だって、世話係だもん。」
「なんでぇ、芸教えてんの俺だぞ!」
「あっ何さ!!」
少女と20代半ばであろう男が仲よさそうに喧嘩するのをその紅色の瞳がとらえる。
そうして、笑った。
少女も男もその笑顔にぽかんとして、それから苦笑する。
「かなわないなぁ、ギンには。」
「ほんになぁ」
ギンは赤ん坊のときに捨てられていたのをハナに拾われてきた。
一座はもともと世捨て人、捨て子などから成り立っていたから、ギンは特に拒まれるわけもなく受け入れられ、育ってきた。
育てば育つほどにその銀色は輝きを増し、将来は一座の目玉にと期待されている。
今はまだ裏で歌や踊りの芸を練習するかたわらで、他の芸人やハナの芸の助手をしている。
「でも、聞いたかイ?ここにも天人がもう住み着いているらしいよ。」
「都会は早いんねぇ。ここに訪問してからまだ数年しか経ってないってのに。」
「しかし、あの姿見たか?怖い怖い。犬の顔なのに人間の姿してよぉ。」
「しっあんまり天人の悪口言わない方がいいよ。幕府はもうあっちに寄り始めてるっていうじゃないの。」
「偉い顔してるわりにすぐに折れちまうんだから、これだからお侍ってのは・・・・・・」
さむらい
その言葉をギンはよく聞くように思う。
それは罵られたり、褒められたりする。
実物は見たことがない。
けれど、どうやら偉くて、弱くて、でも強かったりするらしい。
よくわからない生き物だ。
どうやら刀という銀色に光る切れるものを持っているらしい。
小刀が長くなったようなものだと一座の誰かに聞いた。
「ギン、ハナ。そろそろたたんで次の町に行くよ。
日が暮れる前に着かないとね。」
「はーい。ほら、ギン急いで。」
ギンはその引いてくれた手を忘れないと思う
あたたかくて、少し湿った手
その日
一座を山賊が襲った日
ギンの瞳には鬼と逃げる人と、そして紅
真っ赤なハナをその目に留めた
「ねぇちゃ・・・・・・」
「まだねえちゃんって言えないの。ばかギン」
「どうして・・・・・・」
「あたしもさぁ、お前みたいに拾われてここにいんの。で、その人見捨てて逃げちゃったから・・・・・・」
どうしてもどうしてもそのことだけが忘れられなくて
捨てられたお前を見て
私みたいだと思った
だから、
拾った
育てた
罪滅ぼしのように
「馬鹿だよねぇ。
そんなことしたって、生き返りもしないし、どうしようもないのに。」
だけど、苦しくてさ
「お前の笑顔見るたびに嬉しくて、少し痛くて。」
ギンを山賊の目から隠すようにかき抱く。
ばたばたと足音がして、血まみれのハナを見て去っていく。
金目の物を探してるのだ。
「今のうちに逃げな。あいつら、物盗った後は全部焼いちまうんだ。」
首を横に振るギンの頭をハナが優しく撫でた。
血に濡れた手はぎこちなく、血の匂いが鼻についた。
「お願いだから、逃げてよ、ギン。
あたし、あたし、馬鹿だから、あの人もそう思ってたって、そう思いたいから、お前を逃がすだけなんだ。
でも、でもね、本当の本当にお前に生きて欲しいって思ってんだよ。
ごめんね、ごめんね、ギン・・・・・・」
もっと、もっと、慈しむような人がお前を拾っていたならいいのに
あたしみたいに自分の罪から逃げたいがために拾ってしまう人よりも
お前があたしを見て幸せそうに笑うたびに
笑うたびに
ああ、幸せだったんだ
それだけ
それだけなのに
話の半分も理解していないはずなのに
ギンは真っ直ぐハナを見て
笑った
「・・・・・・ありがとう」
ハナは泣いていた。
幸せそうに笑って泣いていた。
だから、ギンも笑う。
そして、ハナは言う。
逃げて
捕まらないで
振り返らないで
生きて
ギンは駆けた
いいつけを破って少し振り返った
綺麗な炎が見えた
ハナの笑顔みたいだと思った
そこだけ明るくなって
ギンは走った
今度は振りかえらない
ギンは泣いていた
07.10.09
あとがき
銀さんってどんな感じで育ったんですかね?とりあえず親いなそう。