蝉の鳴く音が聞こえる
そのせいか、この部屋の静けさはいやに強調されるようで
この暑い夏だというのに、この部屋はどこか涼しく感じられる
北側に面しているせいなのか

それとも、ちょうどいいくらいに窓から入ってくる、夏にしては涼風のせいか
でも、要因は向かいにいる彼のその容貌であろう

銀髪、その髪と同じような、少し違う色のアイスブルーの瞳
少々切れ長の目は涼しげに、そのすっきりとした面立ちを引き立てている
時折風に舞うさらさらした髪は不思議と目を惹いて
ただそこに静かに佇む彼は冷えた空気を纏っていた

なんとも夏に似合わぬ者だった

まるで冬の女王が間違って夏に降臨したかと思うほどに











どうしてこの人の誕生日は8月8日なのだろう。
全くその外見からは想像もつかない。
この容姿が夏生まれてきたのかと思うと、少し間違いが生じて冬のはずが夏に?と思わざるを得ない。

「それとも、イザークって・・・・・低温動物なの?」
「・・・・・・・何を言っているんだ?キラ・・・・」

“それとも”もつっこむに値するセリフであるが、定温動物なの?とは馬鹿にした言い分である。
いきなり突拍子もないことを言うのは彼のお得意技であるが、今回のこのセリフはなんとも奇妙だった。
だいたいそんな当たり前のことを聞いてどうしようというのか。

(それとも、なんだ・・・・こいつは俺のことを今まで変温動物だと思っていたわけじゃあるまいな・・・・・)

少々むっとしたイザークだった。
その表情に気づいたのか、キラは慌てて繕おうとしていた。

「あ、ごめん、イザーク。怒った?
えっと、ただ、イザークって夏でも涼しそうだから、低温なのかなって・・・・」
「・・・・当たり前だろう。哺乳類は皆定温だ。」
「え?・・・・・・“テイオン”って僕が言っているのは低い温度ってことだよ?」

そこでやっとイザークは自分が間違っていたことに気づく。
しかし、

「キラ、低温動物という言葉は存在しないだろう。
造語されたら俺とて意味が分かりかねる。」
「う?・・・・・う〜ん、でもなんかそういう感じだったし。」
「・・・・・もう少し分かりやすく述べて欲しかったぞ・・・」
「あはは、ごめんごめん。でも、言葉はイザークの得意分野でしょ?」

(・・・・・なんか方向性が間違っている気がするのだが・・・・)

それでも、まぁいいかと思ってしまうのは相手がキラだからだ。こんなふうに解決するのは自分でもまずい兆候だとは思うがどうしようもない。

「イザーク・・・・今日誕生日でしょ?こんなところにいていいの?」

こんなところとは図書館の奥にある窪みで、休めるようになのか、踏み台ようになのか、ふたつの椅子が用意してあるところだ。普段は利用者も多いこの図書館も、夏休みに入ったことと、最近ここの冷房の効きが悪いことで今日はずいぶん人が少ない。

そんなところでイザーク・ジュールたる者がのんびりと、誕生日に過ごしていていいものなのか。

しかも、彼はいつもどおり本を何冊か積み上げて見ているし。いつもどおりその内容は民族の習慣やら道具やら宗教やらだし。
自分は自分でいつもどおり前にパソコン機器を広げて、趣味のハッキングにいそしんでいる次第で。

こんなふうにいつもどおりに過ごしてしまっていていいものなのか。

「いい。俺の顔色を覗きにくるような輩にはもううんざりしているし、今更誕生日だ、なんだといって騒ぐ年齢でもないだろう。ある一定期間を過ぎたら年齢など数えることさえ億劫になるだろうし、な。」
「イザークって・・・・自分のことだといやにそっけないよね。僕の誕生日は祝ってくれたじゃんか。あんなに喜んでくれて・・・なのにさ・・・」

5月18日、僕の誕生日にはイザークはとても綺麗にコーディネートされた花束を持って僕の前に現れた。後で聞いたらその花束はイザークが選んでコーディネートしたというから、彼のセンスの良さには驚きだった。繊細な神経の持ち主だからこそ、こういう細かいところにも頭が回るのかもしれない。

「それはお前の誕生日だからだ。自分の誕生日など、歳食うだけで祝う気にもなれやしないさ。」
「え〜僕だって歳食ったじゃん。」
「お前の場合は成長したっていうんだ。・・・・・・俺と同い年になったしな。」

イザークと僕・・・・なんでそんなに違うのさ。という言葉はイザークの後半の呟きに飲み込んで

「あ、イザークもしかして・・・・僕と同い年じゃなくなるの嫌なの?」
「なっ?!」

自分の呟きを聞かれたことと、それを指摘されて図星と気づいたこととでイザークは頬に朱が差した。もともと白い肌なので、その赤い様子はよく目立つ。

キラがそれを見て、くすりと笑うと憮然とした声が返ってきた。

「・・・・・・別に、そういうわけではない。」

ぷいっと顔を逸らす動作が笑いを誘う。そんなふうに繕って見せてもばればれであるのだが。

「じゃあ、どういうわけなの?」
「・・・・お前の誕生日は俺にとって何よりも嬉しいということだ。」

ふてくされたようにそっぽを向いてはいるが、こんなセリフをいとも簡単に吐くところがイザークらしい。

しかし、それにキラはきょとんとした顔つきで

「・・・・・よく、わからないけど・・・・」

その反応は予想外のことだったのか、イザークはしばし目を見開いた後、先ほどと打って変わってその表情をにやりとさせた。

「・・・・・つまり」

イザークの端正な顔が近づいてくるのをキラはただ見詰めていた。
息が触れるまで近くになって、唇が重なった。

「・・・・・こういうことだ。」

キスを終えても顔を近くに寄せたまま、イザークはキラに囁く。
キラはしばらく目を瞬いたと思うと、突如顔を耳まで真っ赤にした。

思わず顔を遠ざけようとしたところにイザークの手が伸び、それを妨げる。イザークの両手はしっかりとキラの頬をはさんでいて、動かしようもない。

「なっなっ何?」
「分かったか?」
「わっわかるわけないってば!!」
「そうか、ならば」

もう一度、そう言うようにイザークはキラの唇に軽く口付ける。

「どうだ?」
「・・・・・だから、何?」

キラが真っ赤に火照った顔で怒ったような表情をしているので、自然とイザークの口元はほころんだ。

「つまり、キラと会えたことに感謝しているってことだ。」
「は・・・?」

「キラが生まれていなかったら、俺はお前と会えなかった。そのことに感謝する。そういう俺にとって特別な日ってこと。」
「なら、僕もそうだよ。イザークが今日生まれてきてくれたから、ここに僕がいる。イザークと会っていなかったら、この僕はいなかった。
・・・・・・・だから、僕も祝ってあげたいんだけど?」

そう切り返されてイザークは思わず目を見開く。ここまでキラが自分の誕生日にこだわってくれていると、どこかくすぐったいような、ちょっとわくわくするような妙な感覚に襲われる。

「キラ・・・・」

イザークは名前を呼んだと同時に全く意識もせずに微笑む。
冷たさを醸し出すはずのその寒色系の瞳に、ふと温かみが灯ったのをキラが見逃すはずもなく、顔を再び真っ赤に染める。
その顔を自分の方に向けるべく、顎を捕える。戸惑いながらも目を合わせるキラが愛しくて・・・・

自分の誕生日を、誕生したことを心から祝福してくれる人がいる。
もちろん、両親もそう思ってはいるのだろうが、キラからと思うと自分でも呆れるほどに嬉しさが湧き上がってくる。

「じゃあ、今日はずっと一緒にいてくれないか。」

イザークの言葉にキラは瞳をきらりと閃かせて、ちょっと悪戯っ子のように口元を上げた。

「僕が独占しちゃ、悪いんじゃない?」
「それは違うぞ、キラ。
俺がお前を独占しているんだ。」
「・・・・・イザーク・・・」

驚いたような顔で名前を呼ばれて、その反応に満足してイザークは微笑む。それにキラもつられるように微笑んで、

「俺の隣はお前だけでいい。」

そう言った真剣な眼差しに惹かれる様に、自然と唇は重なっていた。











貴方がこの世に生を受けた日
普通のことさえ特別に感じられて
貴方の紡いだひとつひとつの言葉がどこかなつかしくて

今、このときに貴方の隣に居れることが
ただこの胸を熱くする







                                            03・8・7

あとがき

こんなものをイザーク誕生日に奉げていいものか、迷いますが、書いちゃいましたvvイザーク、誕生日が夏とはあまりにも似合わない。冬でしょ、生まれたの。もう見目からしてそうだし。どうやったら夏に生まれてきたのがああいうのになるんだ?

一番のつっこみどころはキラの趣味がハッキングだったところですか。これは公式に発表されている趣味ですが、それって犯罪じゃない?いいの?キラって・・・・・

カガリの体力づくりも妙だけど、イザークの民俗学ってところも微妙で、アスランの電子工作には納得で、ディアッカの日本舞踊は、意外だけど、かっこいいなと思ったり。ニコルはピアノだけどさ。民俗学って・・・・・文系やん。めっさ!!