『イザーク』
まだ起きていたのか。

『ちょっと眠れなくて。』
そうか。

『イザークはどうしたの?』
俺か?お、俺は・・・・・・お、お前には関係ない。
(嘘だ。心配で出てきたくせに)

『砂漠はもう、遠いね』
・・・・・・
(お前は泣かない。いつもよりもずっと遠い目をするようになった。それが、俺は怖い。)

『アイシャさんはね、僕のプログラミング能力を高めてくれた人なんだ。師匠ってやつかな。
ああ見えて、意外と厳しくて。でも、綺麗な人だった。外見だけじゃなくて・・・・・・』
そうか。だが、砂漠の虎を出し抜いたんだから、大した女性だな。
(あの男はああ見えて女性だけを見殺しにするような男ではないはずだから)

『本当にね。まぁ、あんな人じゃないと、あの人の相手は務まんないのかな。』
笑ったな。

『あ、・・・・・・・うん。ありがとう、イザーク』
いや、俺は、別に・・・・・・

『今日はいい夢が見れそうだな。
_____もう、寝ようか。イザークはどうする?』
そうだな、俺は・・・・・・っくしゅ。

『そんな薄着で出てくるからだよ。意外と夜は寒いから。
ほら、布団にくるまって温まらないと。
じゃあ、戻ろ、戻ろ。』
ああ。
(温かい手だな・・・・・・人と手を繋いだのはそういえば久しぶりかもしれない・・・・・・)







白い天井。
彼はいない。
「キラ・・・・・・」
なんて哀しい現実。
てのひらはいつもより冷たく震えていた。






佇む闇











ドアの開く音がして、ぼんやりと白い壁を見つめていたキラは振り返った。

「はい。食事ね。」
「あ・・・・・・」
「ここはどことか、そういう面倒な質問には後から来る奴が答えるから。」
「あの、」
「うるさい」

片目を長くてくせっ毛の前髪で隠した少年はいらついたようにそう言った。
印象的な緑の髪は少しニコルの髪の色にも似ている。輝き方は全然違うが。
少年は暴言をはたいたのと同時に、おいしそうな食事を乱暴に渡した。その行動のギャップが少年の性格を表しているようだ。

「・・・・・・おいしい」

目が赤く腫れて、とても痛々しい表情だったが、キラは確実に笑った。

「おいし・・・・・・」
『アスランは料理が下手だなぁ』
『うるさい。キラに言われたくないよ。やろうともしないくせに。』

飲み込んだ瞬間、胸がつまった。
温かい食べ物が喉を抜けて胃に辿り着く。
たったそれだけのことが、無性に愛おしく、懐かしい昔を彷彿とさせた。

「おいしっふっ・・・・・・うぅっ・・・・・・うっ」

バタン、とドアが閉まった。

「どうだった?」
「どうもこうも、聞こえてるじゃん」

微かな泣き声が廊下を少し震わせていた。
それに黒髪の男は何の表情も見せず、ただ頷いた。
少年の片目が面白そうに細められ、唇がその美貌に似つかわしくないほど禍々しく笑った。

「面白くなりそうだ。」



















細い身体。
細い足。
細い手。
小さな、顔。
アメジストを思わせるその瞳はこの世の美しいものすべてを映してきたように思えた。

今思えば、あれが初恋というものなのかもしれない。
どうしようもない感情の激しさに悶えて、縛り付けた。
やっと真の友情に出会えたと思った。
けれどそれは、違うのかもしれない。
あれほどの激情をその後体験したことはない。家族の死以外に。

「いつでも、このままずっと、一緒にいよう。」

そう言った俺に、幼い彼は大きく頷いた。
けれど、その頷きはきっと、他の誰にだって、行われるものだということを俺は知っていた。
知ってから俺は、無意識に彼を縛り始めたのだと思う。
















黒髪の男はコンピューターの画面を見ながら、耳にしたカフスから聞こえてくる声に耳を傾けていた。
滑らかに動く左手とは反対に右手は優雅に紅茶のカップを持っている。

「やぁ。どうしたんだ?そんな声をして。
お前らしくもない。」

珍しく上擦った声に男はからかいの言葉を口にする。
相手はそれに少し平静を取り戻して尋ねた。

『なんでもない。それよりも、彼は大丈夫か?』
「ああ。目を覚ましたよ。特に外傷もないし、脳や内臓にも異常はないよ。」
『なんか、言っていたか?』
「・・・・・・泣いてたよ。あと、コンピューターをいじった形跡があった。」
『・・・・・・・・・・・・・そうか・・・・・・』
「彼と、話したいか?」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
「ん?」
『・・・・・・ああ、話したい』
「じゃあ、繋ぐよ。部屋に。
それと、聞いててもいいかい?」
『・・・・・・どっちでも』

男は紅茶のカップを傍らのテーブルに置いた。

『キラ・ヤマト、聞こえるか?』
『?!ケイ?!やっぱり君が!!』
『そうだ。お前を海底に沈めて、無理やりそこに連れてきた』
『コクピットから引きずりだして、催眠薬をかがせたのも君?』
『説明する時間がなくてね。悪かったよ。』
『外と連絡が取れないんだけど』
『さすがに、君もショックでそう簡単にそのコンピューターは破れないか』
『・・・・・・あの道筋は君が用意したの?』

パトリック・ザラの機密ファイルにたどり着くまでの道のりだけが、あのコンピューターには示してあり、他の外部との通信はすべて絶たれていた。
それは並大抵の技術ではない。

『そうだよ。
君が真実を知れるように。』
『真実・・・・・・』
『近いうちにまた会おう。そのときに話すよ。』
『・・・・・・』
『それと、君はおそらく軍では死亡扱いになっているから』

プッという音と共に通信が切れる。
一方的な通信だ。
おそらくあの白い部屋の少年は呆然としているだろう。
気がつくと後ろに緑の髪の少年が立っていた。
気配の消し方はさすがだと、男はため息を吐く。

「あいつ、猫かぶってない?」
「かぶりまくってるね。まぁ。そういうお年頃ナンデショ。」
「なんか、むかつく。」
「あの子に八つ当たりしちゃだめだよ。」

そう言うと、少年は男の椅子を強めに蹴って、出て行った。
男は首をすぼめて、

「かといって、俺に当たられても困る」













08.06.29
あとがき
進まない・・・・・・