何が、真実なのだろうか
『あなたには真実を知る権利がある』
これが、真実というのか
こんな残酷なものが
「僕は、守らなきゃ、いけないんだ。」
そう思い込まなきゃ、生きていけなかった
生きる目的が、なかった
昔の光を探して、彼を求めた
「昔、誓った。彼が僕を守ってくれたように、僕も彼を守ろうと。」
あの誓いは幼さゆえの、単なる軽いものだったというのだろうか
自分はあの誓いを生きる言い訳に無理やりして、今まで生きてきたのだろうか
自分は、何を、求めていた・・・・・・求めているのだろう
すべてを犠牲にして、彼を、守ろうと
命をかけて、守ろうと、思っていた・・・・・・
光が、消える
堕ちた闇
「・・・・・・」
食堂には重苦しい雰囲気が流れていた。
やがて、ドアが音を立てて開いた。
食堂に集まっていたトールたちは開いたそこに立っていた人物を見て、安堵した表情を見せたが、すぐにそれも複雑な表情へ変わった。
そしてまた、沈黙が流れる。
ドアの前のカズイは何も言わず、そこにじっと立っていた。
「カズイ、あの・・・・・・」
雰囲気に耐え切れなくなったのか、トールが問う。
「お咎めなしだよ。でも、降りろって言われた。」
それに皆ほっとして、雰囲気が一気に柔らかくなった。一部を除いて。
カズイはそれを敏感に感じ取りながら、身体を縮みこませた。
どうやら、降りれることへの安堵と降りることへのみんなの反応が気になっているらしい。
「カズイ、良かったじゃないか。お咎めなし。そして、ここからも逃げられる。」
そんなとげとげしい言い方をしたのはケイだった。
皆がケイをいっせいに見る。
「そんな言い方・・・・・・」
「同じだよ。心の中ではみんな思ってるんだろう?カズイだって、ほっとしているんだろう?
一番ほっとしたのは、カズイ本人だ。」
「ぼ、僕は・・・・・・」
カズイは口の中でもごもごと聞こえないくらいの言い訳を言った後、逃げ去るように食堂を出て行った。
食堂にはまた重苦しい雰囲気だけが流れた。
それが言葉に出すよりも雄弁に皆の内心を表していた。
翌日には早速カズイは近くの中立国に下ろされることになっている。オーブの他にもわずかではあるが、そういう国は存在する。いずれも武力や政治的な強みを持っている国だ。
「皆も、降りた方がいいんじゃないか?」
ケイがぼそりとつぶやいた。
誰も何も応えなかった。
サイフィスという名前のそこはかつてある大規模な宗教の聖地だった。
宗教上のためナチュラルにもコーディネーターにも等しく権利が与えられることを掲げている。
実際のところ、あまり資源もなく、これといった特徴もなく、熱狂な宗教者もいるために放置されている国だ。
カズイは出口で荷物を持ち、佇んでいた。
見送りのためにサイたちがやってくる。いずれもその表情は笑おうとしているが、硬い。
「・・・・・・じゃあ」
「うん、元気で。」
サイがそういうと、皆がばらばらに別れを告げた。
微かに笑って、カズイが背を向ける。
一歩外へ踏み出して、また、サイたちに顔を向けた。
そして、思い切ったように言った。
「サイたちは、怖くないの?!」
自分だけがこうして降りることに最後まで罪悪感が拭いきれないのか、カズイはそう聞いた。
サイは目を見開いて、それから、口を歪めた。
「・・・・・・怖いよ。
夜だって時々死ぬ夢を見て叫んで起きたりする。
でも、フレイを俺は守りたいから・・・・・・」
「・・・・・・そっか、トールもミリアリアがいるしね。
皆、別にケイのためってわけでもなかったんだ。」
「カズイ、それは。」
「別にいいよ。僕、降りる。やっと、決めた。」
今まで流されて仕方なく降りる素振りだったカズイが初めて見せた、降りる決意。
それは決定的な言い訳が出来たからに他ならない。
「カズイ?」
「もう、堪えられないんだ。こんなところ。
怖い。勝手にやってればいいんだ。戦争なんて。
平和を返してくれよ・・・・・・」
ぼそぼそとそんなことを言う。
ケイはそんなカズイをまるで汚いものでも見るかのように見ている。
死を回避するのは動物の本能であり、人間も動物であるのだから、死を恐れるのは当然だ。
ケイが汚いと思うのはそんなところではない。
自分だけが安心するところにいて、勝手に平和を望むのが許せなかった。
安心して生きたいならば勝手に隠れて生きればいい。何もせずに平和を他人に望むその傲慢さが鼻についた。
けれど、平和に慣れ親しんだカズイが妬ましくもあった。
生まれた時から戦場と共に育ってきたような自分とは大違いだ。
死ぬような痛みを経験してきた自分とは・・・・・・
実験道具のような目で見られてきた自分とは・・・・・・
「じゃあ、僕行くね。」
先程の不安そうな顔はもう、少し晴れ晴れとした顔になっていた。
そして、誰もが曖昧な微笑みで見送ったのだ。
「・・・・・・平和の落とし子か」
「こんにちは。僕はアスラン。よろしく。」
はきはきとした物言い。
ぴんと張った背筋。
きり、と精悍な表情。
とても同い年とは思えなくて。
驚いて差し出された手を見ていた。
「ほら、キラ。」
あまりにも呆然としていたのか、後ろで母親が囁く。
はっとしたキラはその手をぎゅっと握って、元気に言った。
「ぼ、僕、キラ!!よろしく!!」
それから、ちょっと手が痛かったのか、アスランは顔をしかめた。
それに気づいて、キラはぱっと手を離し、謝罪と共にその顔を覗いた。
アスランは社交儀礼のようにそれに対して大人びた様子で微笑んだ。
キラは大丈夫なことを確認すると、ほっとした顔で微笑んだ。まだ幼いキラは少女とまごうほどに顔立ちが綺麗で、その中でも最も印象的な紫電の瞳は宝石のようにきらきらと大きく輝いていた。
飾り気のないその様子にアスランはとても気を削がれた様子で、目を丸くした後、さっきの微笑とは似ても似つかない子供らしい笑みを見せた。
これが、二人の出会いだった。
「・・・・・・キラ・・・・・・」
撤退命令。
もうナチュラルの勢力圏内に大きく踏み込んでいる。
さらに、追っていた脚付きの本部への帰還はすぐそこに迫っている。
おそらくもう追いつかないだろう。
脚付きの持つガンダムと情報があちらに渡れば、また戦場はわからなくなる。
軍の再編成のために、クルーゼ隊は月への撤収を余儀なくされた。
『月に戻る?!ヤマト隊員は・・・・・・キラはどうなるんですか!!』
『どうなる?それは君たちが見ただろう。・・・・・・彼は、死んだ。』
『そんなっ!!』
『生命反応もない。機体反応もない。そんな中、どうやって彼の生を認めろと言うんだ?
加えてあの爆発は、機体が吹っ飛んだとしか思えない。
敵機も相手が死んだ、もしくは再起不能と見て、去って行ったのではないのかね?』
『・・・・・・』
「キラ、お前、本当に・・・・・・」
死んでしまったのか?
信じられない。まだ。
明日の朝にはまたあのぼんやりした顔でおはよう、と笑うに違いないのだ。
「おい!!イザーク!!それはまずいって!!」
「うるさい!!行くと行ったら行く!!このまま帰れば、俺はきっと一生後悔する!!」
「____っっ!それでもっこんなことしたら命令違反でどんな罰則がつくかもわからないぞ!
下手したら辞めさせられるかもしれないんだぞ?!」
「関係ない!!」
「イザーク!落ち着け!!お前は議員の息子なんだぞ?!このことで母親にどんな迷惑がかかるかわかってるのか?!」
「!!!______っっそれでもっ俺はっっ」
「何をしている?」
ぎくり、と二人の身体が強張ったのがはっきりとわかった。
それから、声の主を確認して、ディアッカは安堵のため息を、イザークは舌打ちをした。
そのまま無言でイザークは出口へと歩く。
ふと、振り返り、アスランを睨みつけた。
「貴様はよく平然としていられるな!!
古くからの親友があんな風に____っっ!!」
戦場は無情だ。
誰の意思でもない。
ただ、敵と戦い、殺しあう。
そこに、意思はない。
ただ、生か死かだ。
どんな悪人でも、どんな優しい人も、関係なく、平等に訪れる。
生死は油断と腕で決まる。
そこに想いはない。
「・・・・・・キラは、軍人だ。民間人じゃない。殉死したんだ。
それは、軍人になったときからキラも覚悟していたはずだ。
そして、俺たちも、わかっていたはずだ。死なないという確証はない、と。」
アスランはまるで機械のようにすらすらと冷静に流れる声を、どこか遠いところから聞こえるように感じた。
いつの頃からだろう。
こうして、冷静な判断を感情を混ぜずにできるようになったのは。
昔からのような気もするし、戦争が始まったときからの気もする。
「わかって、いたさ。
だけどなっそれでもっ予想と現実は違う!!
いくら予想できたからって、それで哀しみは減るか?!
あいつはもしかしたら、暗い海の中で待っているかもしれない!!
ずっと、脱出できずに待っているかもしれないんだ!!」
「だが、時間があまりにも少ない。
ここはナチュラルたちの勢力圏内だ。あいつを探していたら、攻撃されるかもしれない。
そして、再編成も間に合わなくなる。」
「_____っっきっさまぁああああああ!!!!」
頭に血の上ったイザークがアスランに殴りかかる。
軌跡を冷静に分析したアスランが軽くそれを流し、逆にイザークを殴った。
イザークも、そしてディアッカも意外なその反応に目を見開いた。
一番驚いていたのはアスランだった。
「・・・・・・部屋に戻れ。再編成における隊長は俺だったな。
早いが、隊長命令だ。部屋に戻れ。
そして、二度と馬鹿なことは考えるな。
ディアッカも部屋に戻れ。説得はしなくていい。逆に手助けされたら困るからな。」
「おい、手・・・・・・」
ディアッカが驚いて声をあげる。
握られたままのアスランの手からはぽたぽたと血が流れていた。
身体が、震えている。
「キラは、死んだ。死んだんだ。」
アスランは身を翻してその場を立ち去った。
引きとめようとしたディアッカの手が宙に浮き、そして下ろされる。
目を見開いたままのイザークの顔が一瞬歪み、それを払拭するかのようにその背中を見つめ続けた。
「これでいい。
これでいいんだ。
時間がないんだから。
これでいいんだ。これでいいんだ。これでいいんだ。
そうだ。キラは死んだんだから。キラは死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死ん_____っっ」
どうして、側にいて欲しいときに、いつもいつもいつもあいつはいてくれないんだろう。
たった今、側にいて欲しいのに。
謝っただろう?!側にいなくてごめんって。
なら今、今すぐ側に来て欲しい。
「キラは、し、ん、だ・・・・・・」
どうしていつもいつもいつもいつも失いたくないかけがえのない人を失ってしまうのだろう。
こんなに側にいたのに。
母のときとは違う。
指をくわえて待っているような子供ではもうない。
それなのに、どうして失ってしまったのだろう。
「キ、ラ、は、し、ん、だ、」
まだ、やらなきゃいけないことがたくさんある。
キラは死んだ。死んだんだ。
だから、だから、だから、だから______
だから?
その場に崩れそうになる身体を必死で立たせて、アスランは歩く。
この長い廊下がどこへ続くかわからないまま。
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08.06.20
あとがき
なんだか最近書く気になりました。
見てくれている方もいらっしゃるようなので(嬉)