例えば僕ができることの一つ
「ラクス・クラインさんですか?」
「え?貴方・・・・・・どうしてここに?」
ここはスタッフしか入れないはずの場所だ。さっきそう人払いをした。
本物が出てきてしまい、ミーアには判断がつきかね、マネージャーがギルに連絡を取って留守にしているときだった。
鍵をつけたはずのドアが開き、そこには見知らぬ青年が立っていた。
細身で足の長さが目立つ黒の服装。
穏やかな笑顔。
少し長い前髪に隠れそうな瞳はけれど、十分にその魅力を発揮している。
鮮やかな、アメジスト。
「少し、お話いいですか?」
今まで自分に寄ってきたファンとは違う、明確な意思を持った瞳がそこにあった。
ミーアはその瞳に射すくめられて、返事ができない。
そんな彼女にキラはにっこりと笑うと、ドアを閉め、ミーアに近づいた。
キラが進む度に、ミーアは後ろへと下がった。
「誰・・・・・・?」
その問いにはキラは微笑むだけで答えない。
「____貴方は見知らぬ兵士の殉職に涙を流せますか?」
「え?」
「戦場で落ちていく魂に祈りを捧げたことは?」
「何・・・・・・?」
突然の質問にミーアは戸惑いを隠せない。
早く、誰でもいいから、ドアを開いて欲しいと願った。
怖い。
「病院で血だらけの重傷の患者に痕が残るほど強く腕を掴まれて、貴方はその手を優しくとって励ませますか?」
「そんなの・・・・・・わかんない。何なの?貴方・・・・・・ミーアは・・・・・・」
そこまで言って、ミーアははっとする。自分の名前を言ってしまった。
けれど、相手は特にそれは突っ込まずにこちらをじっと、見ていた。
その瞳は透き通った湖を見ているようで、水面に映る本来の自分を見たくなくてミーアは視線をそらす。
「貴方の歌は、本当に鎮魂歌なんですか。本当に激励の歌なんですか。
貴方は戦争が何かを知っているんですか。」
「何が、言いたいの?」
「貴方の歌は決して他人のための歌じゃない。自分のための歌だ。
貴方の歌は_____本当に兵士を癒せているんですか?」
そんなの、知らない。
考えたことも無い。
皆、楽しそうだったから。
それでいいと思った。
皆、こっちを見て、手を振って、嬉しそうだったから。
それでいいと思った。
泣いている人を励ましても、曖昧に笑うだけだった。
つまらないと思った。
なんでも手に入った。
この姿と名前があれば。
地位も、名声も、ファンも、お金も、フィアンセさえも。
それで良かった。
戦争なんて、武器や兵士を見ても、実感がわかなかった。
実践を見なかったから。
花束が添えられているところを見れば、ああ、死んでしまったの。としか思わなかった。
自分は歌さえ歌えばいい。
所詮あやつり人形。
今を楽しめればいい。
戦争は知らない。
だって、私、不幸だもの。
これ以上不幸を見たくなかった。
なのに・・・・・・
どうして、そうやって、責めるの?
ミーア、何も悪いことしてない。
ただ、ラクスさんに代わって希望与えてたんだよ?
どうしてそんな怒った顔して、言うの?
どうして言った後、そんな悲しい顔するの?
「だって、ミーアは、ただ歌ってればいいんだもの。
ただ、言われたとおりにしゃべって、歌えばいいんだもの。」
そう言われたもの。
「・・・・・・そう。『君』はそれでいいの?」
「・・・・・・だって、憧れてたんだもん。こんなにちやほやされて、皆ミーアを見て、皆笑って歌を聴いてくれて・・・・・・」
「でも、それは『君』を見ているわけじゃない。」
「っっ___っわかってる・・・・・・でも、夢くらい見てもいいじゃない。
どうせ、醒める夢なら・・・・・・」
どこかでわかっていた。
彼女はきっとまた現れるだろう。
戦争といういざこざを憂えて、それを打開しようとして。
以前の戦争で見せた強さで、輝きを増して、現れるだろう。
それにはどんなにがんばっても自分は叶わない。
あの人はすごいから。
「だったら、自分の手でその夢を掴めばいい。
他人の名前を借りずに。
貴方が本当に兵士を癒したいと思うなら、こんな騙すような真似ではなく、本当の、自分の言葉で伝えればいい。」
「でも、仕方ないじゃない。新人が憤った国民を静めることなんてできないもの。
彼女じゃなきゃ・・・・・・」
「でも、その言葉はラクスのものじゃなかったはずだ。」
「でも・・・・・・・」
「政治・・・・・・・厄介だよね。ラクスの名声も。利用するにはもってこいだし。
でも、鎮めた後、こうして活動するのは何故?それを皆が望んでいるから?
望むのは君じゃないのに?」
「知らない。知らないっ知らないっっ」
ミーアは耳を両手で塞ぎ、しゃがんだ。
「・・・・・・前の戦争でね、ある中立国に住んでいたコーディネーターの少年がいたんだ。
彼はそこが平和だったために戦争は外のことだと思っていた。身近で起こるまで。
少年はただ、守りたかった。友達を。
それがどんな意味を持つかなんてわからなかった。」
ミーアは静かに語るキラを恐る恐るしゃがんだまま見上げた。
キラはミーアを見ていなかった。どこか遠くを眺めるように、壁をじっと見つめていた。
「けれど、結果、親友を傷つけ、周りを傷つけ、地球軍を殺した。
平和はあっけなく壊れた。知らない、と目を瞑っていた戦争に呑み込まれた。
それで少年はやっと知った。
どれだけの人がどんな思いを持って戦っているのかを。」
そこで一旦言葉を切ったキラの口元に自嘲じみた笑みが浮かぶ。
「けれどね、気づくのは、遅すぎた。
全部をね、失った後だった。
でも、それでも見捨てない人がいた。
その人は少年に希望と選択を示した。そして力を与えた。
少年はそれを持って、戦争の答えを見つけに行った。」
「見つかったの?」
「まだ、見つかってない。」
「・・・・・・」
「見つけられないがために、また、すべてを失ってしまうのかもしれない。
だめだなぁ・・・・・・いつまでたっても成長しない・・・・・・」
思い浮かぶのは厳しい表情の幼馴染。
それでも、自分にはこの道しか思い浮かばなかった。
そして、彼の心がわからない。
前回の戦争は敵対しながらも、相手の心がわかっていたのに。わかったがために苦しんだのも事実だが。
「そんなこと、ないよ。」
「え?」
声がした方に目を向ければ、先ほどまで目の合わなかった瞳。
やはり顔は似ているけど、瞳の色は似ていないと思う。
彼女のあの深い瞳の色はそうだせるものではないだろう。
「全然、ミーアよりも成長してるもん。
ミーアは、小さな世界で手一杯で何も見てないから。
人形になってしまったミーアよりも全然・・・・・・」
寂しそうな笑みを浮かべる彼を励ましたいと、そうミーアは思った。
自嘲気味に語る彼が、ひどく苦しそうに見えた。
初めて、人を救いたいと思った。
キラは励まそうとするミーアに少し驚いた顔をして、それから少し微笑んだ。
「ありがとう」
けれど、その笑みはただ、寂しさを強調してしまうだけだった。
彼を微笑ませたい。
素直にそう思う。
歌を____
けれど、これは自分の歌じゃない。自分のものは何一つこの身に残ってはいない。
人形に持ち物はいらないから。
「君は幸せになって。
人形なんかじゃ、ないから。
君はちゃんと人間だから。
戦争の犠牲者になってしまわないで。」
「え?」
「君の言葉、届いたから。」
驚いて見開いた瞳に映ったのは笑う彼。
少しの寂しさと_____嬉しさと。
「もう、行くね。怖い人がくるみたい。」
くるりと彼の背中が目に映る。
綺麗な背中だな、と思った。
その背中に翼が生えていないか、確かめる。
「なんや?今の奴。ファンかいな?」
「う〜ん。天使みたい。」
「はぁ?人間やったぞ?あれ。」
ミーアには見えたんだよ
そう呟いて、笑う。
朗らかな笑みだった。
05.4.20
あとがき
母性をくすぐるキラ。笑。
そして何気に釘をさすちゃっかりキラ。色々事情がありまして、形式が以前と異なってすみません。でも、こちらの方が見やすいですか?