また、始まる
あの哀しみが繰り返される
終らない苦しみが連鎖する
人々の思惑が交錯し合って、一体皆、どこへ行こうというのだろう
休息の終わり
森の中、小さな木で作られた家。
昼はにぎやかなその孤児院も、夜が明けたばかりの今は静けさに埋もれていた。
朝日が差し込んでいる孤児院のテラスに、その風景に溶け込むようにして、椅子に背を預けた青年がいた。
目を閉じている瞼の上に少し長めの髪がさらりと覆い被さっている。その色は朝日に照らされて金色にも見えたが、原色は茶色であろうことがわかる。
身につけている服は全身が真っ黒で、別に格式ばった服でもないのにあまりに厳かな雰囲気に、黙祷しているようにも見えた。
光の洪水に紛れて、その存在はひどく希薄で、光に溶け込んでしまうように思える。
と、森の中を散歩していたのだろうか。
木々の中から少女、というには少々大人びた女性が姿を現した。
その腰の下まで伸ばした、たっぷりとした淡紅色の髪の毛が印象的で、その淡い色は彼女の穏やかな性格を表しているように思えた。けれど、その下に隠れる強い意志はその姿に表されることはない。
ゆっくりとした歩調で彼女は家に近づく。
テラスで寝ているのか、休んでいるのか、それとも朝日を拝んでいるのか、どうにも行動の理由がわからない青年を見て、彼女は微笑んだ。
テラスへ足を乗せると、木製のせいか、きしり、と木が軋む音が僅かに空気を揺らした。
「おはようございます。キラ」
ぴくりともすることなく、静かに青年の閉ざされていた瞼が開いた。
その瞼の奥はなんとも印象的な紫電の瞳。
古来からその色は高貴とされ、また妖しの類が纏う色として知られてきた。
けれど、青年の瞳には高貴さや妖しさ、というよりももっと純粋な、透明さが感じられた。
青年は朝日が眩しかったのか、少し目を細めてから、ゆっくりとした動作で彼女を振り返る。
そうして微笑んだ。強烈な朝日とは違う、木漏れ日のような温かな笑みだった。
「おはよう、ラクス。
____早いね。」
心地よいテノールが冴えた空気に響き渡る。
早いといえば、指先まで冷たくなっている青年も随分前からそこにいただろうに。
「胸騒ぎがしますの。予感、ではなくこれは事実ですけれど。」
昨日入った情報だ。地球にコロニーと同じ質量のアレが降ってくる。原因は不明。
プラントの方が慌てて対処に当たり、地球側は避難勧告を出した。
急のことらしく、情報もそれ以上詳しくは入ってこなかった。
青年のハッキング技術を駆使してもそれなのだから、民間人はまだ何がなんだかわかっていないだろう。
孤児院の子供とその世話をしている男性はもうすでに避難した。
青年と彼女だけがそこに残っている。
ちょっとした沈黙が流れ、二人は朝日を眺めた。
この穏やかなときが今度はいつになるかわからない、そう知っているかのように。
その時間を噛みしめるようにして二人はじっと朝日を見詰めていた。
けれど、その表情に苦渋の色はなく、あくまで穏やかだ。
まるで、分かっていた、とでもいうように_____
少女は青年との距離を縮めて、座っている青年を覗き込んだ。
青年もまた、至近距離の少女を見詰め返し、柔らかに笑うとゆっくりとその唇に己のそれを重ねた。
目を閉じれば、お互いの口腔の体温しか感じない。
重なったときと同様に、離れるときもゆっくりと名残惜しげに離された。
「行こうか・・・・・・」
青年が体重を感じさせない仕草ですっと立ち上がった。
「ええ」
二年前、出会ったときよりも幾分背が高くなった青年を彼女は見上げる。
もう、二年だ。あれから。
青年は背も伸び、声も低くなり、骨格も大人のそれへと近づいている。
彼女もまた、背はそれほど伸びないものの、身体の曲線は大人へと確実に近づいていた。
そして、二人とも、二年前の表情とは違う。
そこには苦難を味わったものの痛みと、苦難を生きてきた人々への慈しみがある。
そして、その表情からはあまり読み取れない複雑な思いも。
けれど今は、その瞳に決意が宿っている。
青年は優雅な仕草で彼女の前に膝を折った。
その仕草はまるではるか昔中世の騎士が忠誠を誓うときのようだ。
「本当はもう、君に傷ついて欲しくないんだ。
けど、君はきっと他人が傷つくのを見て見ぬふりはできない。
だから、今、僕は誓う。
神にでも、この朝日にでも、この広い宇宙にでもいい。
僕は、君と常に共にあることを______」
青年は知っていた。彼女が守られるばかりの存在ではないことを。
また、彼女がそれを望んでいるわけではないことを。
一緒に歩いて欲しいのだと言われたあの日から、ずっと、心に誓ってきたことだった。
口に出して言うのは、きっとこの穏やかに過ごしてきた二年間への決別だと思った。
新たな道を彼女と歩くための、儀式にも似たものだと思った。
何よりも、戦争という理不尽さを味わった青年は己に譲れないものを掲げる大事さを知っていた。
そうして、二人は戦争の渦へと身を投じる。
平和を願って。
平穏を願って。
何よりも命がこれ以上散らないことを願って。
04.11.14
あとがき
キラ登場記念(気が早い。次回予告でしかでてきてないのに。しかも顔は予告に出てない。)
今、思いましたけど、もしかして、キラのあの黒い服は喪服のつもりなのか?最初見たとき、キラが着るにしては少し黒すぎるような、と思ったのを思い出します。
でも、地球軍の軍服着る前も上は黒かったから、趣味かな?黒い中に赤も混じっているし。まぁ、デザイン的に喪服には見えないよね・・・・・・色だけ・・・・・・。
アスランがカガリに「君を守る」とか言ってたから、キラにはあえてこの言葉を言ってもらいました。フレイを守れなかったキラは容易に「守る」とは口にできなそうですよね。
それにラクスも守られることを望んでいるようには思わない。ラクスってカガリよりも芯がしっかりしているようだし。。